第6話

体は疲れてきっているのに、日夜ずっと思考が冴え続けている。全ての感覚が研ぎ澄まされ過ぎて、肉体が付いていかない。霊感と言うべきか、第六感なのか更に感度のレベルが上がっている。四六時中休まずアンテナを張り続けているような状態では、バッテリー切れを起こすのは当然だろう。せめてスイッチのようにオンオフ切り替えが出来るようにならないと、何れ疲れ果て倒れてしまうのではないかと不安だ。右目で死者の輪郭と性別くらいまで判別出来るようになった。それまで視界の隅に物体が見え隠れする程度だったが、今では欠損した全部でサーモグラフィを見ているような感じで姿が見える。そして映像と聴覚が連動するように会話も出来てきた、こちらからの呼びかけに応じてくれるようなのだが少しコツがいる。話したい事を心の中で強く思うと、テレパシー的な感じで相手に伝わるようだ、なので死者との会話中も独り言をしている変な人と間違われないで済む。死者様も千人十色で人嫌いだったり自分から話しかけて来たりと現世の人と何ら変わらない。違いと言えばいつの時代か分からない死者が入り混じっている事と死者の感情が色で見えるようだ。例えば悲しいとか寂しい感情の人の周りには湯気が立ち上るような青色に見え、怒りや興奮は赤色、幸福感は黄色、緑色はやさしさで満ちているとか、その死者の心理状態が手に取るように分かる。まだ害はないが無色の場合や色がはっきりしない時は見て見ぬ振りをしている。以前テレビで見た連続殺人犯の死者を見つけた時は濃い紫色の揺らめきを纏っていた、たぶん恨みや殺意があるとその色になるのだ。危険な死者も紛れているかもしれないから、不用意に接触しないよう注意が必要。触らぬ死者に祟りなしだ。

 この力が何の為に発言したのか、一体どう使えと言うのだろう。どうせならゲームの主人公みたいに、大賢者が彷徨える死者の魂を次々と救う旅に出るとか?の方が気分も盛り上がるのに・・だとしたら神器のようなアイテムが現実世界にあっても良い様なものだが、そんな物は一つも受け取っていない。威厳なんか微塵もない、見た目もタダの中年一般人、パーティ組んでくれそうな人望もない、何より本当に死んだらゲームオーバーなんてリアル過ぎてやる奴いないだろう!・・ん?でもちょっと試してみたいクエストがあるぞ。死者に会う事が出来るのであれば、あかりにもう一度会えるのでは?しかし、意図した人物を探し出して会う事など出来るのだろうか?死者の世界に興信所みたいな所は無いだろうし、仮にあったとしても住所や所在地をどうやって探したら良いのか。まず本匠の家に出向いてみるか、何か手掛かりがあるかもしれない。

 「坂下君、体調はどうかね?」「お気遣いありがとうございます、大分歩けるようになり体力も戻ってきました。目と耳はどうにもなりませんが・・」「来月から先方との折衝が始まる、準備は大丈夫かい?」「はい、問題ありません。万全を期します」「期待しているよ。初日は先方からこっちの本社へ出向いて・・」

簡単な打ち合わせを済ませ、適当な理由を付けて家の中を探索する。あかりの寝室まで辿り着いたが、死者との接触が無いまま終了した。

肩を落としながら中庭へ視線を移すと、ご老人らしき死者が佇んでいる。落ち着いた色彩を放っている、大丈夫だ。「こんにちは、どうされました?」ご老人は少し寂しそうに「君には私が見えるのか、誰かと話すのは久方ぶりだ」どうやら昔このあたりの大地主のようであった、なんと土地の権利を巡り兄弟で争いこのご老人はここで殺されたそうだ。話を聞いていると一つの仮説に辿りついた。ご老人はここから出たい様子なのだが、この地を離れようとすると磁石に引っ張られるように戻されてしまうというのだ。何かの理由で呪縛霊としてその地に引き留められてしまう事が分かった。

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