第16話
「おかーさま」
両手を挙げて抱っこを強請るハルト。膝に乗せて歌を歌っていると、マリアナが慌てたように入ってきた。
「カーナ様、王太子殿下がお倒れになったようです。」
その一報を聞き、動揺する。
王城へ向かうべきだろうか、今更側妃が行っても会わせてくれないだろうか等。悩みは尽きない。昨日は偶々父は王城へ出向いていたため、父が王都から戻ってくるのを待つ事にした。
いつもは領地から出ない父なのだが、農業指導者を育成するため国から呼び出されていたのだ。父は邸に帰って早々に私に城へ向かうように言った。そして病気療養のためにアインス様を連れて帰ってくるようにと。
父が言うには命に別状はないらしいけれど、レイナ妃の近くにいる事でやつれていく一方なのだとか。私は父にハルトをお願いして急いで城へ向かった。
王城に着くと城の者達は私をすぐにアインス様の所に案内した。従者も鎮痛な面持ちだったが、私が来た事に一縷の希望を見出したように明るく振る舞い部屋に入れてくれた。
「アインス様、大丈夫ですか?」
「あぁ、私のカーナが見える。天国に召されてしまったのだろうか」
ベッドで寝ているアインス様はゲッソリとやつれ、がっちりしていた体型は見る影も無くなっていた。
「辛かったでしょう?無理はしないでと言ったではありませんか」
私はベッドに腰掛けアインス様の頭を撫でる。2、3日王城でアインス様に寄り添い、看病をした後、陛下の許しを貰い領地へとアインス様と共に帰った。
邸に戻ってからはアインス様を私の部屋に連れて行き、ベッドに寝かせる。私が王城へ足を運んでからのアインス様は急速に回復へと向かっているらしいが、後数日はベッドで安静にした方が良いらしい。
何故私の部屋にアインス様を寝かせたのかというと、本人たっての希望だから。ずっと側に居たい、安心して眠りたいのだとか。アインス様を運び込み、邸では騒然とした雰囲気であったが、落ち着きを取り戻した後、1人の子供が部屋へと入ってきた。
「かーさま!遅かったです!ぼく、じーさまと一緒に遊んで待ってましたよ!その人は、だれ?」
くりくりとした目でアインス様をじっと見つめている。
「・・・カーナ。この、子は」
「この子はハルト。3歳ですわ。父親そっくりですのよ?」
「私、の息子、か?」
「ねー、かーさま、この人誰ですか?」
再度ハルトは私に聞いてきた。
「この方はね、ハルトのお父様よ。遠い所でお仕事をしていて病気で帰ってきたの。もう少ししたら元気になるから少しだけ静かに休ませてあげて」
ハルトは目を輝かせてお父様と呟いている。
「おとーさま、お帰りなさい。元気になったら僕と遊んでくださいね!絶対だよ」
そう言って部屋を走って出て行ってしまった。私は固まっているアインス様を見る
「黙っていてごめんなさい。レイナ様の事があるから黙っていたの。お父様と養子縁組もしました。次期侯爵として立派に育ってくれています。・・・アインス様には迷惑をかけませんから」
するとアインス様は私をギュッと抱きしめた。
「産んでくれて有難う。私は嬉しい。感動しているんだ。愛するカーナとの子供。こんなに嬉しい事はない。辛かった。辛かったんだ。カーナをこんなにも愛しているのに。他の女を抱かなければいけなかった。
毎日、毎日搾り取られ、薬まで飲ませられて。もう嫌だ。カーナ!カーナ!側に。俺の側に居てくれ。離れたくない」
アインスは子供のように声を上げて涙を流し、カーナを抱きしめている。
「私は幸せ者ですね。こんなにもアインス様に思われていますもの。私はもう離れませんわ」
アインス様は長時間移動の疲れもあり、気を失うように眠りについた。カーナはそっと部屋を出て父の執務室へと向かう。
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