第9話
私の帰宅をセルゲイとローランが玄関ではいつも通り出迎えてくれていた。
「セルゲイ、お父様はいるかしら?」
セルゲイはいつものように執務室へと案内してくれる。もちろんローランも一緒に。
「お父様、ただ今戻りましたわ」
和やかに父は私の帰りを待っていてくれたみたい。
「どうしたんだい?着替えないまま執務室へくるなんて珍しいな」
私は端ないけれど、ソファにボスンと座る。流石に夕食前なのでセルゲイはお茶を出すのはやめたみたい。
「お父様、アインス様からの手紙は届いているのですか?今日、マイア様は届いていると聞いたのですが、私には届いていないのです。マイア様はお父様に届いているはずだと言っていましたの」
父はようやく気付いたのかと言わんばかりのため息を一つ吐いた。
「カーナよ、王太子殿下に興味が無いのかも知れないが今もまだ夫だ。少しは気にかけてあげなさい」
「・・・はい。すみませんでした」
「王太子殿下は毎月城の様子を報告してくれているよ。そして王太子殿下のカーナ宛の恋文と共にカーナを他の令息に合わせないようにとの指示だ。
こちらからはローランが日々カーナの様子を報告書にしてくれているのでそれを送っているだけだ」
ちょっ!?
私は目を見開きローランに視線を向けると、ローランはすました顔で立っている。
「なにっ!ローラン、私を売ったのね!?」
「いえ、私は指示に従ったまでですから。王太子殿下から特別ボーナスなんて頂いておりませんよ」
ちっ。ちゃっかり買収されてるじゃない。ここで頬を膨らませても仕方がないわ。
「お父様、アインス様からは他になんと書いてあったのですか?」
レイナ様の事も気にかかるわ。
「うむ。新しい正妃のレイナ様はカーナがこちらに来た後、すぐに王城へ越してきたそうだ。すぐにでも王太子殿下の隣部屋を使いたいと言っていたが王太子殿下は拒否をしていたらしい。そして私の所に手紙を速達で送ってきたんだよ。『カーナを返して欲しい』と。
まぁ、我が娘ほど美しく優秀な者はいないからな。王妃を務め上げられる程の娘を側妃にされたんだ。無視して当然だろう。レイナ妃と婚姻した今は隣部屋に移動したらしいがな」
父の言葉にセルゲイも頷いている。父も側妃という身分に思う所はあったのだと思う。きっとマイア様の公爵家もそうよね。マイア様も二つ名を持つ程美しい才女だもの。
「でしたら、どうして私の報告を送っているのですか?」
父はニヤリと笑って言い切った。
「嫌がらせだ。まぁ、冗談だが、嫌味位にはなっているだろう。報告している理由はカーナの領地改革についてだ。カーナと第一側妃のマイア様の領地改革が他とは群を抜いているのは知っているな?
王家としても離縁を取りやめて王都に戻らせたい。だがこれ以上公爵家、侯爵家と揉めたくない。私達にとっても同じだ。今は報告という形をとり、技術者が育てば国が預かり、広めていくよう、お互い妥協しているのだよ。
王太子殿下はカーナを今すぐにでも王都に呼びたいらしいが、レイナ妃に止められているようだな」
父はクククと笑う。
「そうでしたのね。レイナ妃と仲睦まじく過ごしていると思っておりましたわ。実際は違うのですね」
「所詮は政略結婚だ。王太子はビジネスパートナー位にしか思っていなかったのだろう。カーナは王太子殿下の事をどう思っているんだい?」
「・・・そうですわね。私も貴族の端くれ。アインス様の側妃となっているのですし、アインス様と子を成しても良いくらいには考えておりますわ」
父は少し意外そうな顔をしている。
「まぁ、お父様に孫を見せてあげたいのは山々ですが、離縁をしない事には無理ですからねぇ。私の相手はローラン、貴方でも良いのよ?」
私が急に話を振ってみると、嫌そうに眉間に皺を寄せながら
「嬉しい限りですね」と一言。
絶対嬉しく無さそうね。
その様子を見て父もセルゲイも笑っているわ。そうしてまたしばらくは平穏な日々を過ごしていった。
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