第2話

 あぁ。つい寝落ちしちゃったわ。やばい、早く用意しないと仕事に遅れる!って、あれ?ん?ここは?


「カーナ様が目覚められたわ!早く医者を。」


カーナ?


疑問に思っていたら、記憶がここぞとばかりに押し寄せてきた。私、小川皐月の記憶とカーナとしての記憶が頭の中で入り乱れる。


そうか、小川皐月の私はビール片手に死んでしまったのかも。そしてカーナとして生まれ変わったのね。やば!これは完全にラノベじゃん!でも、どれだけ記憶を探ってもどの物語とも一致しないんだよね。前世の記憶を持って生まれ変わっただけなのかも。


 そうこうしている間に侍女のアイサが医者を連れて部屋へと戻ってきた。


診察を受ける。処置が早かったのと、毎日解毒剤をアイサが飲ませてくれたおかげで身体には深刻な影響が残らなかったみたい。手の痺れが少し残っているけれど2、3日静養すれば毒も排出しきって普段の生活に戻れると言って医者は出ていった。


「アイサ、心配掛けたわね。私は何日ほど眠っていたのかしら?」


「お嬢様は1週間ほど眠っていらっしゃいました。マイア様は3日前に目覚めたようです。お2人とも毒の影響が無くて良かったです。」


 アイサの手が震えている。心配を掛けてしまったわね。色々と記憶が混乱していたので整理したいわ。


「アイサ、お腹が減ったみたい。食べられる物を持ってきて頂戴。」


「分かりました。すぐに厨房へ顔を出し、スープをお持ちします」


アイサはそう言って部屋を出た。


 今の間に記憶を整理しないと。私の名前はカーナ第二側妃。17歳。元ライン侯爵家の令嬢よ。白い結婚2年目。何故白い結婚かというと、一応私の旦那様であるアインス王太子と大恋愛の末、結婚したナリスタ様を支えるべく無理矢理側妃にさせられたの。


父であるライン侯爵は身体が弱く、母も私が小さい頃に亡くなっている。私は領地を治めるために学院で経営学を学び、成績優秀者として評価を受けていたの。飛び級をして卒業した事がきっかけとなり国から目を付けられたみたい。


侯爵家の領地と父を国が面倒みてやるから娘を寄越せと。泣きながら父と別れを告げ側妃となった。


 普段は第一側妃のマイア様と午前中は執務を行い、午後はお茶の時間としているの。第一側妃のマイア様も似たような境遇なのよね。


私の3つ上の20歳。フォレスト公爵家次女。才女として有名だった。彼女も1年飛び級しているわ。もちろん素晴らしく美人で白薔薇の姫なんて呼ばれている。


一応言っておくと、私も宝石姫と呼ばれているわ。


そんな事はさておき、学院卒業と共に婚約破棄をされて傷物になったマイア様を側妃として召し上げたのだけど、どうやら国が仕組んだ婚約破棄だったみたい。現在、国と公爵家は絶縁に近い関係なの。もちろんマイア様も白い結婚3年目。


 無理矢理にでも国が私達を側妃に挙げた理由。それはナリスタ様は準男爵家出身。ほぼ庶民と言っても過言では無いくらいの爵位しか無い。


そして頭が残念。(←ここ重要)


 ナリスタ様は学院でアインス王太子に見染められ、周囲の反対を押し切り恋愛結婚をしたの。アインス王太子は長年の婚約者に別れを告げ真実の愛を通したと庶民の間では流行ったわ。ナリスタ様についてもシンデレラストーリーだと持て囃されていたわ。


けれど現実は厳しかったのね。


 ナリスタ様は勉強が苦手のようで妃教育も教師陣が匙を投げるほど。勉強も途中で逃げ出しアインス王太子に泣きつくのは当たり前。


これでは人前に出せないと焦った陛下はアインス王太子の反対を押し切り、私達を側妃に充てがい公務に当たらせる事になったのよね。


迷惑も良い所だわ。


 現在、王太子妃1人の仕事を優秀な側妃2人でしているわ。午前中に仕事を終えて余裕が出来るため午後はのんびりする事にしているの。それくらいは陛下も多めにみてくれるらしい。


 アインス王太子とは表面上の繋がりのみ。ビジネスパートナーとも呼び難いわね。私やマイア様は上位貴族として育ったため王族の一夫多妻を理解は、している。


けれど、庶民感覚のナリスタ様には受け入れ難かったようで私達に会えばいつも離縁するように言ってくるのよね。こっちだって離縁したいわよ!ってマイア様と思っているけれど口には出していないの。そこは貴族ですからね?


 ナリスタ様とアインス王太子は19歳で結婚、現在22歳。世継ぎはまだいない。ナリスタ様は焦っているのかもしれない。日を追う毎に癇癪が酷くなっているらしい。私達に向けた嫌がらせも増えてきている。


そんな中での毒物混入。


政務室配属の従者が淹れた飲み物を飲み、私は1週間昏睡状態。マイア様は3日間昏睡状態となった。


ナリスタ様は手段を選ばなくなってきたのかしら?


お陰様で私は前世を思いだした。


 前世の名前は小川皐月40歳。お局街道をひたすらに走っていた。趣味は読書。(主にラノベ)実家は農家で家族総出で農作業に追われていて都会に憧れて家を出たのよね。お父さん、お母さん親不孝してごめんなさいと謝りたいわ。

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