第3話
記憶を整理している間に侍女のアイサが戻ってきたわ。アイサは私が侯爵家から連れてきた唯一の侍女。泣きながら私達が倒れた後の事を教えてくれた。
私が執務室で倒れた時、すぐにマイア様は執務室の扉を開け、医者を呼ぶように叫んだらしい。そのままマイア様も倒れたのだとか。
部屋の外にいた騎士達はすぐに従者を取り押さえ、医者を手配したみたい。私達は部屋へ運び込まれ解毒剤を飲んだけれど、意識が戻るのに時間が掛かったみたい。
危なかったわ。
どう考えてみても私達を殺して得をするのはナリスタ様しかいないのよね。
国としては公爵達から反感を買ってでも私達を側妃にしたかったのだし、政務も滞ると他の文官達も困る。世継ぎ問題にしても後ろ盾のある爵位の高い側妃2人に産んで貰った方が色々と助かるのよね。
幸いな事に他国と良好な関係が長年続いているので他国からの線は無い。
これからどうしようかしら。コンコンとノックがして意識を戻す。
「カーナ様、マイア様がお見えですがお会いしますか?」
「お会いするわ」
侍女と共にマイア様が静かに部屋へ入ってきた。
「カーナ様、目覚めて良かったですわ。私も3日前に目覚めたばかりですが、カーナ様が目覚めたと聞き居ても立っても居られなくて来てしまいましたわ」
マイア様は涙を流しながら抱きしめてくれた。私もマイア様の顔を見て涙が止まらない。2人で支え合ってこの1年過ごしていたからお互い助かった事に安堵し、様々な感情が涙となって溢れてくる。
マイア様は涙を拭きながらそっと私の耳元で囁く。
「カーナ様、まだ目覚めたばかりですから手短に話をしますわ。今回の首謀者はやはりナリスタ様でした。現在、陛下達はナリスタ様を廃妃にしようと動き始めていますわ。
私は目覚めてすぐに医者の診察を受けた際に毒の影響により子を望めぬ可能性があると書いてもらいましたの。カーナ様の診断結果も今止めておりますわ」
マイア様は微笑みながら身体を離す。
「目覚めて体調も優れぬようですから私はこれで。カーナ様、ではごきげんよう。」
「マイア様、私も体調が優れぬゆえ医者を再度呼び、診察していただきますわ。本日は来ていただき有難うございますわ。アイサ、マイア様をお送りしてあげて。そして医者を呼んで頂戴」
アイサは分かりました。と一礼し、マイア様と部屋を出て行った。マイア様には本当に感謝しか無いわ。
でも、これで領地に帰る理由が出来たわね。
暫くするとアイサと医者が部屋に入り、再度診察をしてもらう。
「先生、私、マイア様と同じで毒の影響で子供を成す事が出来ない可能性がありますわよね?」
医者はニコリと私に微笑いかける。
「ええ。そう診断書には書いておきましょう。」
「有難う御座いますわ。これで私も心置きなく領地で父と共に療養できますわ。私が領地に帰りましたらお礼に領地の特産物を送らせて頂きますわ」
「どうぞ、よしなに」
そう言って医者は帰っていった。
「アイサ、お願いね?」
「もちろんです。お嬢様。これから忙しくなりますね。お嬢様も目覚めたばかりですからしっかりとお休み下さい。」
国民からシンデレラと持て囃された正妃が嫉妬に駆られ側妃達を毒殺しようとする。なんて素敵な話題なの。醜聞塗れも良い所ね。
王家としては国民に正妃は病死として話を持っていく予定なのだと思うわ。
倒れた日から私とマイア様は半月程政務を休んで静養をしていると、ついに陛下から呼び出しがかかる。
「カーナ様、国王陛下からのお呼び出しです。ご準備下さい」
ついにきたわ!
私は逸る気持ちを抑えつつ、謁見の間に向かった。謁見の間はいつもは荘厳な雰囲気に包まれているのだが、今日はどことなくピリピリと張り詰めた雰囲気に感じてしまう。既に陛下と王妃様、アインス王太子とマイア様がいた。
「遅くなりました」
「よい。静養中、呼び出してすまぬな」
陛下は疲れている様子が見て取れた。アインス様に至ってはかなりやつれている。この半月、私達の知らない所で話は進んでいたのでしょうね。
「今日呼んだのは分かっているとは思うが、ナリスタの事だ。側妃2人に毒を盛った事を認めた。マイアとカーナを診た医者からも報告を受けた。非常に残念に思う。ナリスタは処刑となる予定だ。表向きは病死となる。側妃2人の意見を聞きたい」
陛下の言葉にアインス王太子は苦悶の表情を浮かべている。
「私はこのような身体となりましたのでアインス様と離縁し、領地で療養したいです。ナリスタ様については毒杯を望みますわ」
マイア様は毅然とした態度で答える。
「ふむ。カーナはどうだ?」
「私はナリスタ様が生涯幽閉だろうと処刑だろうと構いませんわ。けれど、私達側妃は白い結婚の上、毒により子供を望めぬ可能があると診断されてしまいました。
子を成せぬ側妃が居座れば王城内でも貴族社会でも立場を無くし批難され続ける事になります。一刻も早くアインス様と離縁し、新たな正妃、側妃をお迎えする事を望みます。私は病気の父もいますし、私自身も心身ともに傷を負いました。領地に帰り療養しますのでそっとしておいて欲しいですわ」
「ふむ。アインス、お前は何か言う事は無いのか?」
「マイア、カーナ。2人とも申し訳なかった。ナリスタを大事にするあまり側妃を蔑ろにしてしまった。ナリスタがしなければならない公務も全て肩代わりさせた上、私は部屋に訪れる事すらしなかった。
女の幸せを知る前に子を成す事が出来なくなったのは本当にすまなかった。だが、離縁はしたくない。最後まで面倒を見させて欲しい。」
アインス様の最後の言葉に私もマイア様もえっ、と眉を顰めた。
「ふむ。側妃達の言う事はもっともだ。だが正妃は病死、側妃2人も離縁となれば醜聞は避けられぬ上、新たに婚姻出来る令嬢を探すのも困難になる。領地に下がり静養を希望するならそれでも良い。だが、離縁は少し待って欲しい。」
確かに一度に全ての妃が居なくなると怪しまれるのは仕方がないわ。私達の今後を考えると少し経ってからの離縁がよさそうね。
マイア様も同じ事を考えたようで分かりましたと頷いている。
私達は話が終わると部屋に戻った。
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