月読丸は俯せに臥し、一糸纏わぬ裸体を順慶の手に委ねる。


「信長公も中将様の何方も、御首級は見つかっておりませぬ」


 順慶が今、答えを欲しているかどうかなど意に介さず淡々と語り始めた。


 順慶の返事は無い。


「私は明智の兵に紛れておりましたが、焼け跡を探せと命じられました」


 月読丸の一人語りが続く。


「数多の兵達の骸は黒焦げで、焼けていない骸の中にも信長公の御遺骸は見当たらず、明智の兵達は諦めたのでございます」


「諦めた? 」


「はい」


 低く答え、裸身を表に返した。

 背面よりも遥かに刺激的な眺めに、順慶の目が細められた。


「そなたは、上様が真に御無事でおられると思うか? 」


 細い首筋を丁寧に拭った後、徐々に下に降りていく。

 雪のような白肌に意識を強く向けながら、怖々という体で訊ねた。

 斯様な時、歳上で主という立場にありながら順慶の弱さが露呈してしまう。


「私には、そうは思えませぬ。信長公御自害を確信したからこそ二条城に移ったと見るべきでございましょう。どうやら二手に分かれて同時に攻める筈が一方が遅れた由にございます。なれど合わせて一万。二条城も包囲され焼け落ち、御首級は一旦諦めても、その後執拗に残党狩りは続けられておりまする」


「可能性は低い、か」


 落胆の色がはっきりと声に滲み、信長に生きていて欲しかったという本音を自覚させた。


 月読丸の手が順慶の頬にそっと触れる。

 汗の代わりに、今度は精が薫った。


「儂はどうすれば良い?他の者達は決断したのか……まるで暗闇の中に落とされたようじゃ」


「山岡美作守が瀬田橋を焼いたそうにございます。都人の中には天晴れな忠義と称える者もおりました。なれど声を大にして申せる状況ではございませぬ。明智は安土への侵攻を阻まれ坂本城に入りました。また明日、出来得る限り情報を集めて参りまする」


 弱気な順慶を励ますように、二十代半ばにも満たぬ青年は約束した。


「月……ならぬ!儂から離れるな!ならぬ……」


 最早形振り構わず、これでもかと情けない泣き言をぶつけた。


 そっと順慶の唇に月読丸の唇が重なる。


 それを皮切りに、初夏の宵の爽やかな風が、生温い濃厚な甘さを纏っていく。

 項に回された順慶の左腕の脇毛の匂いが、月読丸の欲を掻き立てた。


 激しい口吻に反して、順慶の手指は絹をなぞるように繊細に肌を撫で回す。

 月読丸の両手が、順慶の突き出た肩甲骨に浮いた汗を掬いながら何度も行き来する。


 舌が肌に触れただけで、月読丸の身体が反り返る。

 上から押さえ付ける順慶の二の腕の筋肉が隆起した。

 月読丸の両手首を掴み床に縫い付け、舌先で容赦なく嬲り続ける。


「あ…は……ぁ…」


 加えられる様々な愛を全て感受し、甘い吐息で返してくるのが愛しい。


「月!おおーー月──」


 昼は戦場を駆け回る武将にしては温厚な順慶も、夜の褥においては荒々しく月読丸の肌を揉みしだいた。


 眉根を寄せ全身で主の愛を受け止める月読丸は、菩薩のように麗しく順慶を癒す。

 悶え喘ぎながら、生真面目な順慶を極楽に導いているようにさえ見えた。


 胸から腹、全身くまなく己の所有とばかりに唇と舌で激しく貪る。

 

「殿……あっ……うぅ」


「まだじゃ──今少し心地好うしてやる。」


 猛る欲望を抑え、中指でじっくり快感を探りつつ、目の前で乱れる柔らかな肉にも歯を立てた。


 温かい息と冷たく硬質な歯の感触が、月読丸をすすり啼かせる。

 順慶の指という指が繊細に蠢き、月読丸の肉体に宿る淫らな花を咲かせていく。

 

 獣の体勢を取り、順慶を求めて泣き叫ぶ。


 褥の上の月読丸には妙な癖があった。

 幼子のような従順さと、性に対する貪欲さ。

 主よりも先に達すまいと、淫らな慎ましさを己に課す事で、益々淫奔に乱れていく。


 契り交わした者として余り考えたくはないが、月読丸が数多の男達に身体を開かれてきたのは承知していた。


 生真面目で純朴な順慶よりも性技に長け、受け身でありながら教え導くような余裕を垣間見せる。


 だが彼は、表向き男に支配される事を望んだ。

 それが例え行為を加熱させる戯れに過ぎずとも、辱しめられれば辱しめられる程一層乱れ啼いた。


 月読丸の術中に嵌まり、男達は獰猛な雄の支配欲を煽られ、彼が望むように攻めさせられる。

 精を絞り尽くされるまで、肉欲に溺れていくのだ。


 仏道に帰依する順慶とて例外ではない。

 魔性と知りつつ、菩薩と言い聞かせ彼に溺れた。


 月読丸を一心不乱に抱いている時は無心になれた。

 槍術の鍛練に勤しみ、過食を嫌う禁欲的な鋼の肉体は、無駄が一切無く見事に引き締まっていた。


「ああ……殿……どうか……」


 月読丸が懇願した。


 右頬を褥に押し付けた月読丸を、立った儘背後から突いた。

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