第十六話 四神 其伍

 珠華の手の上には、細く編まれた紐で繋がった四つの宝玉があった。

 澄み切っていながらも深い色を帯びた深い水辺のような碧いもの。真っ白な中に一筋、吸い込まれるような漆黒が入っているものや、まるで沈みゆく夕日のような緋色のもの。そして、外から内にかけて花緑青から翡翠色へと色が変化してゆくもの。

 

 それら四つ全てが例外なく、陽の光を受けることなく、キラキラと自ら輝き、光を放っている。

 

 説明を受けるまでもなく、この宝玉たちがどんなものであるかを理解した。

 呆然としてしまい、珠華の心の声が、零れる。

 

 「神玉、だと…?何故、このようなものを――」

 

 神玉とは、神の力が宿った宝玉のことで、最も力を持った御神体だ。

 その神の姿が描かれた札などとは比べものにならないどころか、ある程度の霊力を身に宿す者ならば、それを持っているだけで、神玉の神の力の一部を借り受けることすら可能だ。

 また、霊力を持たない者ですら、強い力を持った守護霊が何人も憑いているよりもずっと効果がある。

 

 しかもこれは、都の四方の守りを司る神――四神の神玉が全て繋がっている。


 珠華という、現世で最も膨大な霊力を持った者が使えば、その力は遥か昔、高天原の神々より、邇邇芸命ににぎのみことへと託され、天皇即位の証として皇室にて保存されている神器――三種の神器の力にも匹敵するだろう。

 

 ――そんな大それたものが、何故妾の手の上にある!?

 

 珠華は無言のまま、ただただ動揺した――否、そうするしかなかった。

 そんな珠華へ、先ほどと同じ仏頂面を向けながら、青龍はやっと声が届くような遠距離から説明を始める。

 

 「簡単なことだ。酒吞童子が新たに就任したとき、俺たちはそれを認めた証としてこれを渡す。酒吞童子が死に、常世で眠りにつけば、神玉もまた、その傍らで眠る。――その酒吞童子のためだけに創られた神玉だからな。そして新たな酒吞童子のために、また神玉を渡す。それだけの話だ」

 

 至極当然と言わんばかりにそんな説明をした青龍に戸惑いを感じると同時に、何か、すとんと腑に落ちるものがあった。

 珠華は、とりあえず礼を述べようとしたが、それは続けて発せられた青龍の言葉によって遮られる。

 

 「勘違いするな。先程述べたように、俺はお前を認めてはいない。感情に任せて霊力を爆発させるなど、言語道断。酒吞童子として妖どもを纏めるのならば、常に沈着冷静、冷徹であれ。――隆夜のようにだけは、なるな」

 

 隆夜、さま?

 思わぬところで前酒吞童子の名が出てきたことに疑問を持った。

 そんな珠華に構わず、彼は、話は済んだとでも言わんばかりに珠華へ背を向ける。

 ただ一言、

 

 「あれは優しすぎた」

 

 という言葉を残して。

 

 

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