第十四話 四神 其参
…羅玄が、堅物?あの羅玄が?
現在、珠華の胸の内を占めるのは、その思いのみ。
彼女は目の前に、四神が勢揃いしているという状況下ということも忘れ、そのことばかり考えていた。
羅玄は。彼は。
――初対面で、助けてくれて。…惚れた、なんてぬかして。自身の居場所へ連れて行ってくれて。その夜には、ひたすら混乱させ、困惑させて。慰めて、くれて。その後に…接吻まで、してきて。可愛い、なんてのたまって。手をつないで。黙って付いてきてくれ、て。
色々なことが起こりすぎたため、考えるのを放棄していたが…どう考えても展開が早すぎる。
そして、そういうことに手慣れすぎているように、感じた。
他の者にも、珠華にしたようなことや、それ以上のことを行っているかもしれないと考えると、何やら胸がざわめいた。
だが、どうしても、そんなことを考えずにはいられないのだ――羅玄は、色男だと。
それが、堅物だと!?浮いた噂の一つもなかっただと!?
あり得ないあり得ないあり得ない――
表情を変えぬまま固まってしまった珠華の心境を察してか、朱雀は呆れたような口調で羅玄に語りかける。
「羅玄…お前に春が来たのは喜ばしいと思う。思うぞ?しかしな…行動が早急すぎる男は、嫌われるぞ?」
「…余計なお世話だ」
――別に、嫌ってはいないのだが。
だが、彼の行動がかなり早急だというのもまた事実。
人間の男と比べれば――の話だが。
そんな中、口元を扇で隠して上品に笑っていた玄武も、楽しげに口を開いた。
「羅玄、あなたとて、知らぬわけがないでしょう?酒吞童子殿の育った貴族社会では、男が女性に懸想すれば、何か月もせっせと何通もの和歌をしたためて想いを伝えてから対面されるというのが常識です。貴方も、功を急いで逃げ出されるのはお嫌でしょう?それに、じっくり口説いて落とすというのも口説き甲斐があるというもの。気長に楽しみましょう、気長に」
いや、確かに貴族社会ではそれが常識ではあるが、珠華としては別に逃げ出すつもりとかはこれっぽっちもないのだが。
しかし、穏やかそうな印象で、いかにも深窓の姫君といった玄武の発言内容には驚いた。
しかも、口説き甲斐とはこれ如何に。
珠華が思考の海に漂い続けていることをいいことに、羅玄は苦々しく呟く。
「それもそうだが…手を伸ばせばあっさりと届く位置に彼女が居て、しかも少しちょっかいをかけるだけで表情がコロコロ変わるんだぞ?ついつい手を伸ばしてしまう俺の心境も察しろ」
…何やら聞き捨てならない単語が聞こえたような気がする。
しかし、珠華がそれを指摘するより、玄武が口を開く方が早かった。
「それとこれとは話が別でしょう?本当に好かれたいのだったら、きちんと手順を踏んだ方が得策と思うけれど」
「う…」
――何やら白熱していくやり取りを、珠華は内心ひどく動揺しながら聞くことしか出来なかった――
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