第十三話 四神 其弐

強気な笑みを浮かべて、朱雀は続ける。

「そちらの想像通り、ワタシたちは四神だ。珠華、そなたが無事に酒吞童子に就任したと聞いてな。祝いを述べに来た」


ありがたいことこの上ないが、青龍――蒼い長髪の男――に関しては、どう見ても祝いに来た態度ではないだろうという思考を放棄し、珠華は流れるような動作で再度頭を下げる。


「四神の方々におきましてはご機嫌麗しく。本日はお忙しい中ご足労いただき光栄に存じます。未熟な身ではありますが、以後お見知り置きを」


珠華の口上に対して朱雀は笑みを浮かべたまま頷いた。竜胆色の瞳の少年――白虎も、十二単姿の女性――玄武も、似たような反応を見せる。

ただ、青龍だけが珠華をきっと睨み、口を開いた。


「別に俺たちはお前を認めているわけじゃない。実力を認めてもらいたくば、実績を立てて証明して見せろ」


自身が未熟者だということは自分が一番よくわかっている。

そのため、その言葉に頷こうとした。

だが、それは、今まで沈黙を貫いていた羅玄が初めて口を開いたことによって、果たすことはできなかった。


それは――珠華のすぐ横から発せられる彼の覇気は今まで以上に濃くて強い、怒気が見え隠れしていたからだ。


「青龍、お前の言葉使いが悪いのは承知済みだが、もう少し直そうという努力はないのか?それか、もし本気で珠華を認めていないのだとしたら、お前の目は節穴だ。四神の席に座る資格すらない」


羅玄は、嫌悪感を隠す素振りすら見せず、そんな言葉を吐き捨てた。


――驚いた。


羅玄がここまで怒りを露わにすることは初めてだったし、四神なんて存在に向かってそれをぶつけるということが、想定外だったから。


案の定、青龍は目を見開いて固まっている。


一瞬、あのようなことを口走って大丈夫なのかという不安が胸をよぎる。

だが、すっかり慣れてしまったが、羅玄はこれでも、鬼神という存在なのだ。

四神とも面識があったようだし、不敬だとかそういった心配はないに等しいだろう。


それよりも、羅玄の怒りの要因が、青龍が珠華を認めないといった発言だということが、予想外だった。


――まだ、恋愛感情なんてものを、知らないから。


愛しい者が貶されることに覚える苛立ちというものを、珠華は知らない。


そんな珠華の思考は、突如として発生した誰かの笑い声によって断ち切られることとなる。


――それは、まだ変声していない、高く澄んだ少年の笑い声。


その声の主は、白虎だった。


一言も声を発することなく、珠華と羅玄をつぶさに観察していた彼が、腹を抱えて爆笑している。


あっけにとられて朱雀を見ると、こちらもくすくすと楽しげに笑っている。玄武は袖で口元を隠してはいたが、向けられる視線が何だか生温い。


――どうしたらいいんだこの状況。


珠華が現実から逃避しようとした矢先、やっと笑いの波が引いてきたようである白虎が、言葉を絞り出す。


「ぷっ…あ、あの羅玄が?…あの堅物が?…浮いた噂の一つもない羅玄が?女を認めないって言われただけで怒った…面白すぎるだろ…」


未だ笑いながらも告げられたその言葉に、珠華の思考は完全に停止した。

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