第十二話 四神

ぐるぐると思考の海に漂いながらも、珠華が歩みを止めることはない。

むしろ、それは早まっている。


もっと奥へ。更に、奥へ。


羅玄を引き連れて、珠華は進む。


曼珠沙華の色が、燃え盛る炎の如く。身体を巡る血液の如く。

これ以上ないほどに紅く染まった時。


珠華は、円になって座り込んだ四人の人――否、人型をとった者たちを、見た。


一見しただけでも、彼らは皆例外なく整った顔立ちをしており、浮世離れした雰囲気を醸し出していた。

それだけでなく、彼らは神々しく淡い色の光に包まれていた。


右方に膝を立てて座り込む男は、蒼い長髪を結わうことなく背中に流している。引き結ばれた口元からは愛嬌のかけらも感じられない。そんな仏頂面とも取れる表情をした男は、紺青色の狩衣に黒橡色の袴を上品に着こなしている。


その向かいに同じように座った、十~十二歳程度に見える、赤墨色の直垂と松葉色の袴姿の少年は、白髪に一筋黒髪の混ざった短髪で、いかにも悪戯好きといった茶目っ気に溢れた表情をしている。竜胆色の瞳はくるくると視線を変えており、一時たりとも同じ場所を見つめることはない。


少年の右隣には、紅梅色の瞳を持った、珠華と同年齢位の見目をした少女が佇んでいる。彼女は、月白の単衣に赤橙の袴。それに珊瑚色の袿に濃緋色の小袿という比較的簡素な出で立ちをしていた。肩くらいの長さの緋色の髪は二つに分けて結わえ、前に垂らしている。口元には蠱惑的な笑みを浮かべており、見た目に釣り合わない色気を醸し出していた。


その少女の背後に座っているのは、身長と同じ長さの艶やかな白髪に、翠の瞳を持った妙齢の女性。湛えた笑みは慈愛に満ちたものでありながら、同時に底知れない深さをも感じさせるもので、全体的にどこか不思議な空気を纏っている。彼女は、緑を主とした、なかなかの重量を持つ筈の十二単を、軽々と着こなしていた。


彼らが人ならざるものであることは、一目瞭然。

更には、彼ら全員が強烈な霊力を辺りに振りまいている。

この、霊力が極限まで高められた空間のそれが、霞みかねない程に。

しかしながら、彼らの霊力の性質は、珠華や羅玄。紅羽に莉炎といった妖の類のそれとは違う。

もちろん、清明のような陰陽師のものとも異なる。


――神力


その名の通り、神のみが持つ力だ。


つまり、それは。

彼らは、神であるということを指す。


その中でも、彼らは四神だろう。


青龍、白虎。朱雀に玄武の四柱の神。


東西南北それぞれの方角を司り、四方から京を守る神だ。


彼らが何故、この大江山に。


珠華は混乱しながらも、首を垂れる。

気配から察するに、横に並んだ羅玄も同様にしたようだ。


「面を上げよ」


凛とした声を上げたのは、唯一立ち上がっていた少女――朱雀だった。

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