第四話 酒宴

 その後、私の補佐役となる、現茨木童子が紹介された。

酒吞童子、茨木童子は両名共に、男がなる時も女がなる時もある。

今世の茨木童子は女性で、名を紅羽くれはという。

栗色の明るい髪と橡色の瞳を持つ、芯の強そうな整った顔立ちを持つ鬼女だった。

彼女は、凛とした笑みを浮かべ、

「これよりわたしの主人たる貴女さまに、誠心誠意お仕えいたすことを誓います。」

と言って美しい、手本のような礼を見せてくれた。

しかし、その穏やかな表情の下には強い霊力がうごめいている。

珠華には届かずとも、茨木童子と呼ぶに相応しい、力量の持ち主。

—末恐ろしい。

だが、自身の右腕となる者がこれほどまでに強いのは僥倖だ。

二言三言、言葉を交わした後、これから酒宴があると知らされ、使用人から支度を受けた。

着せ替え人形になった気分だった。

そして現在、酒吞童子の住む城であり、人間の住む土地テリトリーとの境界でもある、妖蘭殿ようらんでんでは珠華の酒吞童子就任祝いと称した酒宴の真っ最中である。

鬼は、男だろうが女だろうが大抵酒豪だが、その酔い方は人間と同じでそれぞれだ。

泣き上戸もいれば笑い上戸もいるし、やたらと飲みたがるくせに直ぐに潰れる者も、どれだけ飲んでも顔色一つ変えない者もいる。

当然、二日酔いもする奴はするわけで。

そのため、酒宴の準備には厳重な結界を張るというものが含まれており、尚且つその晩及び次の日の見張りは、鬼に次ぐ霊力を持つ妖、妖狐に任せている。

紅羽いわく、以前はその日の当番だった運の悪い鬼が見張りをしていたらしいが、交代の時間になっても次の番の者がこっそり酒宴に参加して泥酔していたり、次の日の当番の者が二日酔いで見張りにならなかったり、あろうことか、当番の者が見張りをさぼって参加したりということがあったそうで。

また、折角の酒宴に全員で参加できないのは如何なものかという意見も出たことにより、妖狐に謝礼を渡し、その一族内の手練れを代わりにすることで落ち着いたのだとか。

まあ、妖狐の手練れならば、下手な鬼よりも強かったりするため、何ら問題はない。

珠華としては、安心して酒宴を行うことが出来ればそれで良い。

そんな珠華は当然、上座に座って酒をあおっている。

アテは猪肉の味噌漬けと、胡瓜きゅうりのぬか漬けだ。

嚙むほどに肉汁の溢れ出る猪肉と、ポリポリとした歯ごたえが心地良いぬか漬けは、辛口の酒によく合った。

酒に関してはもう七合目なのだが、特に変化を感じることはないので、あまり酔いにくい体質なのだと思う。

歴代の酒吞童子は基本的に酒豪であり、酒吞童子という肩書もそこからきていると言うが、歴代の酒吞童子には酔いやすい者もいたし、珠華のように全く酔わない者もいたというので、珠華が酔いにくいのは、酒吞童子だからではない。

そんな中で、珠華は一人の客人に話しかけられた。

言うまでもなく、幽世の妖を統べるお方で、珠華の恩人でもある、羅玄である。

忘れかけていたが、珠華は数刻前に、このお方からサラッと告白されていたのである。

そのため、そのことを思い出した珠華は、羅玄に話しかけられた折、少しばかり緊張し、何を言われるかと身構えていたのだが。

彼の方からの第一声は、感心したように、

「よく飲むなあ。」

という、雰囲気ムードもへったくれもないものだった。

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