第1話② お知らせは突然に。

どうやって会えるチャンスを作ればいいんだろう?

うーん、普通にお隣さんに行けばいい?

でもそれだと微妙だよねぇ…


うーん…来年の事で透悟君帰ってくるんだし……


来年……?来年って、私も受験生?大学?短大?専門学校?まだ、全然何も決まってないけど進路相談とか……?


あっ!!そっか。

勉強!!ちょっとの間だけでも勉強教えてもらうってのはどうだろう……


考えている内に洗い物を済ませ、布巾で拭きながら母親に聞いてみる事にした。


「ねぇお母さん。夏休みの間だけ透悟君に家庭教師って頼んじゃダメかなぁ?」


「あら。珍しいわね、舞が自分から勉強の話なんて。」


ふふっと微笑みながら食後の焙じ茶を準備してくれる。


「うん…。進学するかも迷ってるし、大学生の透悟君から話聞けたらいいなぁなんて思って。」


綺麗になった食器を食器棚に戻しながら振り向いて言った。


我ながら苦しい言い訳だなぁ、とは思う。

でも少しだけ本当の事だ。

迷ってるのは本当の事だし。


食器の片付けを終えたのでリビングのテーブルへと移動する。


座ったのを確認した母親が私の前にコトッとマグカップを置いてくれた。

私は小さく「ありがとう」と言い母親を見つめる。


「そうねぇ…。」

母親は少しだけ考える様な仕草をした後にゆっくりと口を開いた。


「上の学校に行くのなら通っている人に話を聞いてみるのも良いわよねぇ。」


母親はそう言うと自分のマグカップへと手を伸ばし湯気の立つ焙じ茶を啜った。


その様子を見ながら私もマグカップへ手を伸ばし、一口啜る。


「だからね、大丈夫そうなら勉強見てもらったりしたいなって思って…」


私の成績は悪くもなく良くもなく普通だと思う。

大体250人中100位ぐらいの中途半端で得意な教科も特には無い。

若干苦手なのは数学と英語だ。


私はマグカップから上がる湯気を見つめながら母親の言葉を待った。


ゆらゆらと揺れては消えていく。


「明日の朝にでも桐矢さんに聞いて見るわね。」

「!!ありがとう、お母さんっ。」


私は嬉しくなってニコニコと笑っていた。

母親の方も微笑んでいた。


「それで、舞は今も透悟君に恋しちゃってるの?」

悪戯っぽい微笑みを浮かべながら母親が聞いてきた。


「うぇっ?!な、何のコトカナー?」

思わず変な声が出てしまい視線を泳がせながら適当に誤魔化し、部屋へと逃げる事にした。

逃げるが勝ち!だもんね。


「部屋で明日の準備してくるねっ!」


言いながら立ち上がり、マグカップに蓋をしてそそくさと部屋へと移動する。


トントントントン…パタン。

階段をのぼり部屋に入ると机にマグカップを置き椅子へと座る。




リビングでは今まで口を挟まずに静かに会話を聞いていた父親が固まっていた。


「…舞は透悟君の事がす、好きなのか…っ?!」


何も知らなかった父親が聞いていた妻子の会話にしょげたように背中を丸めて椅子に座り込みながらずずっとお茶を飲んでいた。


そんな父親に母親が言う。


「あら、知らなかったんですか?小さな頃からもうずっとよ?良いじゃない遠くへお嫁に行くより。」


「よ、嫁……」


ニッコリ笑顔でとどめを刺した母親に父親は完全にしょぼくれてしまい、椅子から立ち上がるとトボトボと冷蔵庫へと向かい缶ビールを持ってソファーへと移り、寂しそうな背中のまま晩酌を始めるのだった。




そんなしょぼくれた父親が出来上がっているとは知らずに私は家庭教師になってもらえた時の為にある計画書を作る事にした。


もちろん彼女になる為の、である。


隣のお母さんの性格を考えると家庭教師を断られる事は無いと思うのでどうやって私の事を妹認定から女の子として見てもらうか、どういう行動を取るか一生懸命無い知恵を絞って考えて計画を立てていくのであった。



目指せ!透悟君の彼女!!

頑張れ!!私!!




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