第25話 カントリーロード-25
放課後、鉄子は生徒会室の前に立って待っていた。待ちながら、ぶつぶつと言葉を整理しながら言うべき言葉を反芻していた。
しばらくすると葵が現れた。鉄子を見つけると微笑みながら、
「今日はどうしたの?」と訊ねた。
鉄子は顔を上げて、
「おら、また、相談があるだ」と笑顔を返しながら言った。
大河内は鉛筆を回しながら考えていた。鉄子の申し出を受け入れるべきか否か。先日のいじめ見直し運動の件もまだ続いている。今回の鉄子の提案を受け入れることはできるだろうか。
「テッちゃん。もう一回訊いてもいい?本当にそんなこと必要なの?」
葵の問い掛けに鉄子ははっきりと答えた。
「んだ、必要だ」
「でも、勉強会なんて…」
大河内は言葉を濁しながら呟いた。
「んだども、ここは、この学校は、成績が大事だ。おらも来年になったら、F組に落とされて、辛い思いするかもしんねえ。これから先もみんなそうだ。だから、一年から三年まで混じって、勉強会開いて、助け合って勉強ができるようにするだ」
「…でも、そんなの……」
「成績のいい人は、自分だけがよかったらいいのかって、そんなことねえはずだ。やっぱりみんな助け合ってよくなった方がいいだ」
「それはそうだろうけど、…誰が、協力してくれるんだ?」
「ん、おら考えただ。三年であんまり成績がよくなくても、一年の面倒は見れるんじゃねえかって。おら、バカだ。んだども、一年下の啓太の勉強くらいは見てやれただ。だから、ここの上級生が下級生の面倒を見てやるってことで、どうだ」
あまりにあっけらかんと答える鉄子に呆れながら、大河内は言った。
「だけど、受験勉強もあるんだよ」
「復習だと思えばいいだ」
「思える人はいいけど、…無理だよ」
「会長さんなら、頭いいし、一年も二年も面倒見れるんじゃないか?」
「そんなこと言ったって、全員は見れないよ」
「だから、助け合って、少しでも」
「無理だよ。ぜんぜん、無理」
「テッちゃん。言いたいことはわかるわ。だけど、みんなクラブもあるし、塾もあるのよ。その中で時間を作って勉強会なんて」
「初めからうまくいかないだ。そんなこと当たり前だ。おら、何人か頼んでみる。そんで、少しずつ始めて、協力者が増えればいいだ」
「それはそうだけど…、誰か当てはあるの?」
「もうすぐ来るだ」
鉄子の言葉に呼応するように扉が開いて、太田と田口が顔を覗かせた。きょろきょろと見回して鉄子を見つけると、つかつかと入り込んできた。
「なんだよ、アタシたちに用ってのは?」
鉄子はにんまり笑うと二人を座らせた。
鉄子の説明を聞いて太田と田口は驚いて呆れ返った。それでも、にこにこと微笑む鉄子に強く言い返せるわけでもなく、ただ不貞腐れたようにふんぞりかえった。
「オマエってサァ、バカだろ」
「そうだよ、アタシたちに、何頼んでんだよ」
「だめけ?」
「ダメケ、じゃねえよ。アタシたちが教えることできると思うか?」
「おら、バカだけどいっこ下の啓太に教えてやってただ。先輩がたはこんないい学校に通ってるんだ、おらよりも勉強はできるはずだ。んだから、おらたちに勉強教えて欲しいだ」
「下級生でも頭のいいやつはいるんだよ。そこの、会長さんみたいに」
「そんな人は教える側に回ればいいだ。教えてもらいにくるのは、おらみたいなバカだ」
鉄子の言葉に呆れながらも、太田は真剣に鉄子を見つめた。
「じゃあさ」太田は言った。「じゃあ、あたしたちは誰に教えてもらえばいいんだ?」
「先生に頼むだ」鉄子は即答した。
「何人かの先生に頼むだ。キヌちゃんのお父さんは、ここの先生だ。由起子先生に頼んでもいいだ。他の先生にも頼んで、参加してもらうだ。それに、確か…副会長さんは、頭いいんでなかったか?その人にも頼めばいいだ」
「野上さんは、来ないよ」
「たぶんね…。あの人は名誉職だから…」
「じゃあ、しかたねえ。先生でだめか?」
「…ダメってことはないけどさぁ、でも…」
「…相手してくれるかな、アタシたちなんか」
「やってくれなきゃ、先生じゃない。そだな、会長さん」
「…まぁ、うん」と大河内は圧倒されながら頷いた。
「ということで、どんだ?」
大河内はため息をついた。葵も乗り気ではなかったが、あまりに毅然とした鉄子に頷かざるをえなかった。
「いいよ、やってみよう。生徒会主催で。先生にも頼んでみるよ」
「おらも、頼んでみる。たぶん、由起子先生と上杉先生は大丈夫だ。それに、キヌちゃんやクラスの人にも来てもらうだ。それで、お願いするだ」
鉄子は大きく頭を下げた。その仕種にその場にいた誰もが反論できなかった。
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