第23話 カントリーロード-23

 解散した生徒会室に、大河内と葵と、そして鉄子が残っていた。鉄子は、ぼぅっと大河内を見つめていた。そんな鉄子に気づいて、大河内が問い掛けた。

「どうかしたの?」

「んん、なんでもねえ」

慌てて鉄子は答えた。答えながら、絹代が憧れるのも無理はない、と思っていた。

「さぁ、もうそろそろ、帰らないと」

葵に促されて席を立った。そして部屋を出た。

「上杉さんは、どっちの方?」

大河内の問い掛けに鉄子はにんまりしながら答えた。

「おら、ここだ」

「はい?」

「このあいだも、そんなこと言ってたわね」

「そんだ。おら、学校に住んでる」

「え?でも…」

「まぁ、そんいうことだ」

「独りで?」

「んだ」

「…夜も?」

「ん」

「……、…葵さん…」

「あたしにふられても、答えようがないんですけど…」

「ま、そういうことだ」

 大河内は悩んだ様子のまま帰途に着いた。葵は鉄子に小さく手を振って帰って行った。


 休日の晴天の下、鉄子は家庭科室の窓を開け放ち、洗濯物を干した。やわらかな風が、石鹸の匂いを部屋中に運んだ。半身を窓から出し、日光を浴びながら、鉄子はエネルギーを充填するような気分で空を仰ぎ見た。

 晴天。

 と、歓声が聞こえてくる。

 真下のバレーボールコートには、誰もいなかった。校庭のほうかな、と思い、周りを片づけると校庭に向かった。

 校庭ではサッカー部の試合が行われていた。歓声は、校庭を取り囲む観客のものだった。クラブを中止して応援している者もいれば、制服のまま、あるいは、応援のためだけに学校に来ているような生徒もいた。鉄子は感心したままその光景を見ていた。

「こんなもの、面白いのけ…」

 そう呟きながら目線をグラウンドに向けると、大河内がドリブルで駆け抜けていく姿が見えた。あっと思っていると、声援がグラウンドに向けられている。

「そっかぁ、会長さん、サッカー部の人気者だったんだ」

 鉄子は校舎に寄り掛かりながら、大河内のシュートシーンを見ていた。ボールはキーパーの正面を突きゴールはならなかった。残念がる観客の姿とは対照的に大河内は落胆の様子もなく、次のプレーに移っていた。鉄子はそんな大河内に感心しながら、まわりを見回した。大勢の観客の中に絹代がいるのを見つけた。鉄子は驚きながらも、名案を浮かばせそっと絹代に近づいた。そして、何も言わず絹代の肩を叩いた。振り返った絹代の頬に、突き出された鉄子の指が刺さった。驚く絹代に鉄子はにんまりしながら、

「キヌちゃん、こんにちは」と言った。

絹代は相手が鉄子だとわかると笑みを浮かべた。

「なによ、テッちゃんだったの」

「いやに熱心でねえか。わざわざ応援に来たのけ?」

「違うわよ。ママに頼まれてテッちゃんにお届けもの。そのついで」

「ほんとについでけ?」

「本当よ。たまたま、試合やってたから、見てただけ」

「ほんとけ?」

「しつこいわね」

「んー、まぁいいだ。そういうことにしとくだ」

「もう、テッちゃんたら。はい、これ。渡しておくわ」

「あんりがと。んだども、会長さんうまいんだな」

「そりゃあね。なんでもできるのよ、大河内君は」

「人気者なんだ」

「…ん、まぁね」

「さすがキヌちゃんの憧れの人だ」

「ちょっと、テッちゃん」

 絹代は周りの目を気にして鉄子を連れて校舎内に入った。

「テッちゃん、よけいなことは言わなくてもいいの」

「あぁ、そんだ。おら、デリカシィがなかっただ」

「もう、まったく、よけいなことばっかり言うんだから」

「んだども、見てるだけでいいのけ」

「…いいの。それで、いいの」

「ここは一発、どかんと勝負賭けてみるほうがいいんじゃないのけ?」

「勝負って…」

「愛の告白だ」

「ちょっと、テッちゃん、もう、いいの。ほっといてよ」

「ひょっとしたら、うまくいくかもしんねえだ」

「……うまくいかないわよ」

「どうしてだ?」

「だって…」

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