第22話 カントリーロード-22

「どうして、なんて、そんなことはどうでもいいんだよ。要は気に入らないヤツがアタシたちをつるす理由にするんだよ。確かにアタシたちはF組だし、バカさ。こんなカッコしてるし、クチの効き方も悪いかもしれないさ。だけど、それを狙ったかのように、あんたたちの言葉づかいは悪い、いじめられそうな気がする、なんて言われてみろヨ、…あんたたちだって、イヤだろ」

「こんなのは『言葉狩り』みたいなもんだよ。些細な言葉を理由につるしあげようとしているみたいなもんさ」

「んだども、それなら、普通のカッコして普通に話せばいいさ」

「バーカ。たるいこと言ってるんじゃないよ。これだってアタシたちのポリシーさ。他の連中と違うっていうことをアピールしたいんだよ。あんただって、変な喋り方してるじゃないか」

「おら…田舎から出てきたばっかだから、まだこっちの言葉に慣れていねえ」

「そうだろ。あんたは子供の頃からそうやって話してきてて、それで何にも文句言われなかったんだ。アタシたちもこういう話し方になってさ、それでドウシテ文句言われなくちゃいけないんだヨ。ナ?」

「でも、方言とは違うだろ」

「一緒だよ。別に悪気があるわけじゃないんだ。たださぁ、こんな喋り方だと、生意気だって言われるだけなんだ」

「そうだヨ。気に入るか気に入らないかで判断しやがるんだ」

「…おら、そんなつもりはなかっただ。ただ、いじめられてる子がいて、それで…」

「大体、こんなのは、あんたたちみたいに成績のいい子の発想なんだ。それで、先公も、むっちゃ張り切って、あたしらをつるすんだ」

「んだ?先生け?そっただことするのは?」

「あぁ、そうさ」

「そんただこと、あっていいわけねえだ。それこそ、このいじめと同じだ」

「同じじゃないんだよ」

「そうさ、先生のやることなんて、一応は正義だからな」

鉄子は絶句してしまった。いいことだと思った提案が実は新たな問題を引き起こしているとは思いも寄らなかった。

「…んだども、おら…」

「いいよ、わかったよ、あんたに悪気はなかったってことは。もちろん、あんたちにもネ」

太田は会長らを指してそう言った。大河内は少し恐縮した風で、俯いた。

「でもさ、アタシらに言わせてもらえば、あんたたちは先公の都合のいいように使われてるんだ、ってことさ」

皮肉たっぷりに言う太田に鉄子はぽつりと答えた。

「…んだども…おら、今回のこれは悪いことだと思ってねえ」

「そうさ、悪いことじゃないさ。全然。でもな、それを都合のいいように使う連中もいるってことさ」

「まぁ、アタシたちも文句言わせてもらって、すっきりしたし、これ以上やらないって言うんなら、まぁいいよ」

「んだども、いま、イジメられてる人はどうしたらいいだ?」

「そんなの…」

「そうだ」葵が叫んだ。「目安箱、作ったらどうかしら。そこに、色々と書いて投書してもらうの」

太田と田口は笑った。

「いいね、あんた、呑気で。アタシは優等生でございます、って感じだよ」

「いいよ、好きなようにやってくれて。ただ、今回のイベント…じゃねえや、キャンペーンはやめてくれるんなら、ネ」

「あの…、申し訳ないけど、キャンペーンはやめないつもりです」

大河内ははっきりと言い切った。その言葉に太田と田口は驚いて大河内の顔を見つめた。大河内は凛として答えた。

「上杉さんが提案したように、いじめは些細なことから始まって、加害者側からしてみれば大したことじゃないかもしれない。でも、被害者には苦痛以外の何物でもないんだ。だから、日常の何かが狂ってないか見直す、いい機会だと、僕は、思ってる。だから、やめる必要はない」

「テメェ!」

「だけど、改善する必要はあると思う。いま、先輩がたが言ってくれたように、逆にこれを利用して、誰かをつるしあげるようなこともあるかもしれない。だから、それを、今度は、改める必要があるんだ。完璧なんてないよ、絶対。僕たちは子供だから、なおさら。だから、例え、相手が先生でも、異議申し立て…と言うのかな…、それはイジメだと言い切ればいいと思う」

 強い語調の大河内に太田も田口も圧倒された。されながらも太田は言った。

「だけど…、それで、内申点が悪くなったら…、どうすんだよ」

「そんなのは先生じゃない」

はっきりと言い切った大河内に注目が集まった。その中で大河内は言ってのけた。

「先生は、僕たちを指導する…いい方に導くことが仕事なんだ。悪くなるようにするような先生は、先生じゃない」

 鉄子は、知らず知らずのうちに大河内に見とれていた。周りにいた全員が大河内に注目し、感心していた。

「だから、先輩たちも、文句があったら、僕たちに言って下さい。僕たちは、そこから、また、新しい提案をします」

 圧倒されたままの太田は、怯みながら、応えた。

「……そんなこと言ったってヨォ、先公に、文句、言えるのかヨ…」

「それが、僕たち生徒の側の主張であるなら…、言います」

 鉄子は思わず拍手していた。そんな鉄子に呼応するように、葵も、鏡原も拍手をした。田口も、表情を和らげ、小島も拍手をした。大河内は、照れることもなく、ぐっと太田を見据えていた。太田は、気押され、素直な子供のように、こくりと頷いた。それを見てようやく大河内の緊張も解けた。ひと息つくと、

「そういうことで、納得してもらえますか?」と訊ねた。太田は、不承不承という風を装いながら、頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る