第3話 人生方針

 朝食を食べ終わった俺は一旦自室へと戻り、ベットで横になった。

 当然ではあるが俺だけではなく家族も若返っていた。

 若い両親に小学生の姉貴。

 良く言えば新鮮、悪く言えば違和感がある。

 まあでも案外、歳が違っても性格はみんな変わらなかったな。

 姉貴は特にこの頃から傍若無人だった。

 この点に関しては変わって欲しかったな。


 まあ家族のことに関して今は深く考えなくていいだろう。

 今問題なのは家族よりも俺自身のことだ。


 どういうわけか俺は28歳にまでの記憶を持ったままタイムトラベルしてしまった。

 これ以上に由々しき事態があるだろうか。いいやない。

 なんたってタイムトラベルという非現実的な事象に巻き込まれてしまったのだ。

 これからどうすればいいのかなんて皆目見当もつかない。


 今思いついたことと言えばこの体なら合法的に女湯に入れるのではないかという下心に満ち満ちたことくらいだ。

 流石に罪悪感とか後ろめたさでそんなことはできない。

 これでも一応中身は理性と常識ある立派な大人だ。

 思いついてすぐ行動に移すなんて野獣と同じだ。

 ……だがまあ、機会があればとは考えていなくもないような気もするようでしないような。


 って、女湯関連はどうでもいいんだよ!

 いや男としてはどうでもよくはないが……、今はどうでもいい!

 

それより問題は今後の方針だ。

俺も頭のいい学校出身ではないため時間の逆行による二次災害つまりバタフライエフェクトやタイムパラドックスなどによって、未来の記憶を持った俺がどのような影響をもたらすのかがわからない。


(バタフライエフェクトとタイムパラドックスを木っ端みじんにかみ砕いて説明。


・バタフライエフェクト……小さな変化がその後大きな変化に変わっちゃう的なアレ。例えると誰かが過去に行って石ころを蹴ってから未来に帰ると地球が滅んでいたみたいな感じ。


・タイムパラドックス……過去に行ったら矛盾が起きちゃった的なアレ。未来の自分が過去

の親を殺したら自分は親が自身を生む前に死んだから存在でき

なくなり、すると自分は親を殺せないという矛盾が起きる「親殺

しのパラドックス」が有名だよ。


この説明を聞いても解からなかったらググってね♪)


下手すれば俺の一挙一動が世界滅亡の可能性を秘めているかもッ……!

いや、流石に考え過ぎだな。

いくら何でもただの平凡な一小学生が世界の命運をかけているなんてことは無い。

 ファンタジーは一度のタイムトラベルだけで留めて欲しいものだ。


 ならファンタジーはこのタイムトラベルのみを前提として方針を立てるとしよう。

 いささか希望的観測にすぎるかもしれないが、そこはしょうがなしとしよう。

 これ以上のファンタジーが来たら俺は対処しきれないからな。

 

 となると、真っ先に問題になるのは周りの目だな。

 俺は現在小学一年生の外見で中身は28歳という外と中がかみ合っていない状態にある。

 そうなると中身が28歳である俺の言動に一般の小学一年生の言動とではかなりの差異が生じることだろう。

 ただの小学一年生を演じられるほど俺は器用じゃないため、きっと注意していてもすぐにボロが出る。

 意外と鈍い両親ならまだしも、友達とかになら不審に思われ——。

 

あっ、そういえば友達いなかったわ俺。

「……なんでだろう。急に涙が」


 自虐により自身の心にダメージを負う。

 ま、まあ、友達じゃなくても教師や大人などに不審がられる可能性は十二分にあるわけだし、その事に対する対処をしなくては。

 できる限り俺の実際の過去に沿って生活を続けて——……。


 本当にそれでいいのか?


 ふとそんな疑問がよぎる。

 もしこのまま俺が見た過去通りの人生を再び送ったら、待っているのはあの貧乏暮らしだぞ。

 あの生活に戻りたいのか。

 

断じて違う。

 俺はあの生活が嫌で、孤独な生活が嫌で、バイト三昧な生活が嫌で、貧しい生活が嫌で堪らなかった。

 その生活が嫌で、抜け出したくて何度ももがいた。

けどダメだった。

 だから諦めてその生活に甘んじていたのだ。

 でも心の片隅には確かにあったのだ。

 この生活を変えたいという欲求が。


 何度も後悔した。

 もっと勉強していれば、もっと友人を作れば、もっとちゃんとした過去を歩んでいればと、後悔に駆られ続けた。

 だから俺はどうしても過去をやり直したくて——。



「……やり直せるじゃん、……俺」



 そうだ。そうだよ……!

 やり直せるじゃん! 今なら!

 これは奇々怪々な出来事であっても決して不幸なことなんかじゃない。

 むしろ大チャンスだ!

 俺の人生の転機は今この瞬間に訪れているんだ!

 

 そうと決まれば方針なんて今から決める必要なんてない。

 なんせもう方針など決まっている。

俺は走り出すように学習机に向かい、白紙の紙を三枚とネームペンを取り出す。

 

ずっと前から決めていた。

もし人生をもう一度やり直せるならばこういきたいと願ったことが俺にはある。

 白紙の紙1枚に大きく2文字を書いて合計6文字の方針内容が完成する。


 「夢を見るな」という座右の銘。

 まさか28年間生きてきたことによる教訓が二度目の人生で活きるとは思わなかった。

 そう、俺の2度目の人生は夢を見ない。

 地に足付けて、ちゃんとした高校入って、ちゃんとした大学卒業して、ちゃんとした定職について、そこには友達も家庭もある生活。

 そのためには勉強も人との交流もしっかりやらなくてはならない。

 ちゃんとした生活をするには、ちゃんとしたキャリアを積まなければならない。

 3枚の紙を順に並べて、セロハンテープで壁に貼る。

 俺の2度目の人生の目標、それは——。




【堅実に生きる】


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