第三話
第三話
「イロツキ」そう呼ばれる動物達がいる。
例えば、紫色の狼。
例えば、青い毛並みの猫。
例えば、緑と桃色の瞳を持つ兎。
ただ、色が普通と違う。それならばただの「色付き」であったのだろう。
けれど、幸か不幸か彼らは人間の姿形を取る事が出来た。
色の獣に憑かれた者。それが「色憑き」の所以である。
動物が人を真似ているだけでも、人はそこに見える人間を憑き物の獣から救えと声高に喚くのである。
人は、人間の目線でしか見られないのかもしれない。
■■■
父は「イロツキ」の保護活動をしていた。
父の最初の保護対象は、
黒炭のような両手と左足を持つ、
「まっくろにんげん」。
つまり、私だった。
父は真っ直ぐな人だった。
「No.21はどこでも寝てしまうから心配だ。
でも、羊の枕を気に入ってくれたから、
前ほど寝違えは心配していないかな」
「No.7には2つの人格が見られる。
活発なナナと慎重ななな。
けれど2人とも猫缶が好きみたいだ」
「No.168は一緒に保護した兎達と仲が良い。
出来れば離れ離れにならない様に、
まぁ、全ては彼の決断だけど」
けれど、父はあっけなく死んでしまった。
いや、殺された、か。
ここを研究所と改めたあの男に、
動物達を材料と扱うあの男に。
父が死んだ日から、
私はこの研究所から出るのを許されていない。
■■■
「来羽、ハイジ。新しいオトモタチだ」
そう言って職員がオレたちの部屋に麻袋を投げて部屋を出ていった。
液化剤によるものであろう真っ白な固有色の血が水溜りを作っていく。
来羽と呼ばれた右目に医療用眼帯を付けた少年が麻袋をひっくり返すと、
重量に引かれるまま白いキツネが転がった。
白いキツネは水音を立てながら人間の姿をとる。
「…ッ!?あ、左腕が…あの、貴方、」
長髪の青年、ハイジが声を掛ける。
が、それを来羽が片手で制した。
白いキツネ、和桜が淀んだ目で部屋を見渡したからである。
和桜は視線を惑わせた後、残っている右腕をドアノブに伸ばす。
しかし、左腕からぼとぼとと液化していくのは止まらず、遂にはぐしゃりと前のめりに倒れてしまった。
「止血薬…!!!止血薬をいただいてきます!!!」
「待て。止血薬を普通にくれるくらいなら、最初から打って持ってくるだろ。
止血薬を盗めってそやされてるんだよ。
悪い事をしたから折檻しただけですって言う為にな」
「………しかし!このままでは!」
床に倒れた和桜の前に来羽がしゃがみ、
温度の無い口調で尋ねる。
「なぁ、お前」
来羽はつまらなそうに言う。
「このまま死ぬ?オレ達に助けて下さいって言ってみる?どうしたい???」
瞬間、和桜が来羽の襟を掴んだ。
「……たす、け……ぇあ……」
痛みで涙の張った瞳に光が灯り、掴んだ襟がぐしゃりと潰れた。
「…いもうと、を、助け…な…きぁ。
ぼくは…いか…ら、いもう、と、たち…を」
血と同じくらいに真っ白な顔をしながら、
よろよろとドアの方へ足を引きずる。
「ふぅん」
来羽の口元がニヤリと歪む。
「おい、ハイジ。気が変わった。
そいつ押さえてろ。20分はかかるかな」
「来羽様。…たしが、私が」
ハイジの声が珍しくも震えているあたり、世話係であるこいつでも、それなりの仕打ちを強いられるのだろう。
「飯作る奴が腕無くなったら困るだろうが。
適材適所って奴だ」
ドアから剥がした和桜をハイジの方に押し付け、来羽が不敵な笑みを浮かべる。
「まぁ、何があっても出て来んな。
あいつらは、オレを殺さない。
オレは、有益な個体だからな」
彼は少しも怯えた様子は見せず、
ドアの向こうへ消えた。
ぽつり、青年の口から溢れた言葉は
青磁色の長い髪が遮り誰にも知られる事は無かった。
そう、格子の窓から彼らを覗いている
彼女にさえ、
彼が誰に何を漏らしたか知るよしも無い。
つづく
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