第36話 目的は魚じゃ無かったりして
どっちもさんは、むしゃむしゃと食べ始めました。焼いたお肉を全部食べちゃいました。お腹が減ってたんですね。でも食べ過ぎるとお腹が痛くなっちゃいます。
「そんな訳で、これもどうぞ」
「ん? それはスープか?」
「そうだよ。消化が良くなるスパイスを使ったんだよ」
「そうか。助かる」
「それで、あなたはおじさん?」
「男だから、おじさんになるな」
「そう。それで、おじさんはこんな所で何をしてたの?」
「それは、だな。えっと、何と言えば良いか」
ミサも性別が気になってたみたいです。違うか、私の為に聞いてくれたんだね。そしておじさんは語り始めました。意味はわからなかったです。
「頼りにならないカナ」
「ごめんね」
「つまり、お魚は関係ないと?」
「違う。調査をしていた」
「何の?」
「海のだ。生態系が崩れ始めている」
「生態系ってなあに?」
「カナ、少し黙ってて」
「わかった〜」
最初の内、おじさんの話しは要領を得なかった。カナが理解出来なかったのも仕方ない。でも時間が経つ毎に、しっかりと話してくれる様になった。
カナが追加の料理を作り始め、少しは静かになったと思ったら、今度はおじさんのお腹が鳴り始めた。お腹の中に新種の動物が住んでるんだと思う。結局よく聞こえない。
「つまり、どういう事?」
「見てろ」
おじさんは少し真剣な表情を浮かべた。そんな顔をしても、お腹の音で台無し。でも、おじさんは気にせずに、棒を持って糸の先を海に垂らした。
さっきと違って、針にウネウネを刺してない。でも、さっきとは全く違った。おじさんは糸を垂らしてから直ぐに棒を引っ張る。引き上げた糸の先には、大きな魚が食らいついていた。
「わかったか?」
「わかんない」
「わからんのなら海面を見ろ。釣るのに餌すら要らん位に、魚が集まってるだろ」
「だから?」
「まだわからんか? いま釣り上げたのは大物だ。この入り江で釣れる様な魚じゃ無い」
「そうなんだ」
「お前は何も知らんのか? 何処から。いや、そんな事はどうでもいい。これだけ集まっていれば、船を出すまでも無く投網で充分だ。わかるか? 異常事態なんだ」
海の常識がわからないから、何が異常なんだかわからない。だけど、おじさんの真剣な表情で、緊迫した何かが訪れようとしてる事を理解した。
「戸惑っているか?」
「うん」
「尤もだ、俺も戸惑っている。だが、この危機を見過ごす事は出来ない。それだけは、わかって貰えるか?」
「大丈夫、理解してる」
「ありがとう。もう一つ、見てくれないか?」
おじさんはそう言うと、近くに有った荷物からナイフを取り出した。その後、魚の尻尾っぽい所にナイフを当てて、真ん中の辺りまで切り裂く。そして、切り裂いた所に指を突っ込み、黒くてぐにょぐにょしたのを取り出した。
「これは魚の腹わただ。見ろ! 普通はこんなにドス黒く無い」
「どういう事?」
「俺にもわからん。少なくとも、こんな状態の魚を食おうとは思わん」
「だからお腹を空かせてた?」
「そんな所だ」
「街の人達は?」
「無論、食べている」
「いいの?」
「良いはずが無かろう。だが、言っても聞かん」
私は少しの間、言葉が出なかった。想像以上に深刻な事態が起きている、そんな気がしたから。
ドス黒いのが何かはわからない。でもおじさんは、それが人間に有害だと考えてるみたい。
もしこれが、直ぐに影響が出ない少量の毒で、それを摂り込み続けているとしたら。兆候が現れるのは今日か、それとも明日か?
街の人達に話しを聞くとしても、私達では相手にしてくれない。どうすれば良いの? 海の様子を確かめるの? 違う、街の人が優先だ! それなら強引にでも具合を確かめる? いや、それはそれで問題が起こりそうな気がする。
そもそも、おじさんの言う事を信じて良いの?
先ず、おじさんだけがこの事態を把握してそうなのがおかしい。それに、おじさんは調査をしていたと言うけど、ウネウネを海の中でウヨウヨさせるのが調査なの? そんな訳が無い。
最初はカナの料理が作用して、おじさんの洗脳が解け始めたんだと考えていた。もしかすると、私は考え違いをしていたのかも知れない。
何より、おじさんは極めて冷静に話しをしている。操られていた事実は、そう簡単に受け止められるもんなの? 今、おじさんが話しをしているのは、ちゃんと自分の意志なの? 本当に洗脳は解けているの?
全てがアレの思惑なら、首を突っ込む方が危険だ。今なら逃げられるかも知れない、その代わり猛獣の相手をさせられるだろけど。でも、それで本当に良いの?
街の人達が死に絶えるのは殆ど確定だろう。
アレが存在する限り、偶然なんてものは有り得ない。つまり私達は巻き込まれたんだ。
おじさんと出会ったのも、海の異変が起きているのも、全ての魚が毒をもっているのも、全ては私達をここに留める為の罠なんだ。
「まずは」
「ご飯だね!」
「え?」
「ご飯だよ! おじさんに食べられちゃう前にさ」
「カナ! そんな場合じゃ無い!」
「大丈夫だよ。何とかするから」
その言葉を聞いて私はハッとした。得体の知れない恐怖に駆られ何を焦っていたのか、私にはカナがいるのに。
私のお腹も、匂いに釣られてグゥと鳴る。これじゃあ他人の事は言えない。おじさんは串焼きに貪っている。取り敢えず今は、食べ尽くされる前に私の分を確保しよう。そして、少し冷静になろう。
☆ ☆ ☆
「お腹いっぱいになった?」
「ん」
「落ち着いた?」
「ん」
「まずは結界だね。ミサは踊る準備ね」
「結界?」
「そうだよ。幾つも一変になんて無理だし、一つ一つ片付けよ」
「カナっぽくない! 偽物!」
「あはは、違うよ〜」
「まぁ、そうだね。ありがとう、カナ」
さっきまで真っ青な顔をしてたから心配したけど、落ち着いたみたいで良かった。
ミサは私の分まで色々考えてくれるから、凄く不安になっちゃうんだと思うんだ。だって、先の事なんて誰にもわからないんだしさ、どうしようってなるよね。
だけど、ミサには私がついてるからね。頼りない様に見えるかもだけど、今の私は無敵なんだからね。ミサの踊りを見たら、更に無敵になっちゃうんだよ。
「お前達、何をするつもりだ?」
「街の人を救うんだよ。変なお魚を食べて具合が悪くなってるかもしれないんでしょ?」
「そうじゃない! どうやって助けるつもりだ? お前達に医療の心得でも有るのか? そんな歳では無いだろ?」
「あはは。安心してよ、変な事はしないよ。おじさんは少し休んでると良いよ」
「何だ? 何なんだ? 誰も信用しない、誰もが俺を嘘つき呼ばわりする。なのに、お前達はなぜ俺を信じる?」
「大変な事が起きようとして、おじさんは止めたいんでしょ?」
「あぁ」
「それなら手を貸すよ。おじさんも一緒に助けるよ」
ミサの準備が整った所で、おじさんには目を瞑ってもらいました。だって、可愛い可愛いミサちゃんの踊りで、おじさんが興奮しても困りますし。
料理をしながら聞いてたから、何となく状況はわかってるつもりです。おじさんの心配は、海とお魚さんと街の人達でしょ? ミサの心配は、おじさんと街の人達でしょ?
つまりは街を守りつつ、街の人達が具合を悪くしないようにすれば良いんです。
都合が良いのか悪いのかですけど、街の結界が薄っぺらで簡単に壊されそうなんです。なので今回は、元の結界に色んな効果を付け足して、街を人ごと守っちゃおうと思います。
街の人達を治療するだけなら、お魚さんの内臓を触媒にして結界を張れば良いんです。凄く簡単に結界が張れますし、病気の原因を限定しているから効果が高くなります。
でも、それだと他に悪さをする原因が見つかったら、結界が上手く働かずに困っちゃいます。
なので、今回は大まかな感じにします。触媒を使わないし、効果の範囲が大まかなので、少し難易度が上がります。でも、今の私なら楽勝です。何せ最高のミサを見る事が出来るんですから。
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