第37話 たまにじゃ無くて、いつも本気なんだよ
やってまいりました。私はこの時の為に産まれてきたんです、きっとそうなんです。始まる前から鼻血が出そうです。
「カナ、興奮しないで」
「ミサさんよ、そりゃあ無理ってもんですぜ」
「はぁ、全く」
「お前達! 何をしてる!」
「あ〜! おじさん、目を開けちゃ駄目だよ!」
「だから説明しろ!」
「難しくて説明出来ないの!」
「目を閉じる必要は有るのか?」
「おじさんが興奮しちゃうからだよ!」
「子供を見て興奮する馬鹿がいるか! お前と一緒にするな!」
「ミサは特別なの!」
おじさんの気持ちはわかるけど、今は大人しくしていて欲しいです。なので、リュックから布を取り出して、おじさんの頭にグルグル巻いて目隠ししました。
ついでに、口の辺りもグルグル巻にしました。おじさんはモゴモゴ言ってます。鼻はグルグルしてないので、ちゃんと息が出来ます。安心です。
私の準備はこれからです。お楽しみの時間で力を溜めて、一気に爆発させるのです。
「さぁ、いってみようか!」
「ん」
両足を肩幅に広げると、胸の前で手を合わせます。続けて手を合わせたまま、指先が空を指す様に両腕をゆっくりと上げます。
それから、手を離した後に左右へ大きく広げる様にして、両腕を下ろしていきます。その後、お腹の前で手を合わせて、ゆっくりと呼吸を整えながら、合わせた手を胸の位置まで上げます。
先ずは、こうやって呼吸を整えつつ、全身に力を巡らせて行くんです。応援だけの私も、ミサの呼吸に合わせて力を溜めます。
静かに、そして厳かに、ミサは自然との融合を待ちます。意識を集中し、風へ、海へ、大地へ語りかけます。
共に歩もう、共に進もう。声を持たぬなら、代わりに声を上げよう。耳を持たぬなら、意思を届けよう。
我等はセカイの為に有る、セカイの為に力を尽くす。故に、我等はセカイの子達を守護する、セカイの子達に祝福を与える。
ミサの問いかけに自然が応えます。そして、ミサの力が身体から放たれ、辺りが輝き出します。
ミサが腕を降ると、風が起こります。くるりと回れば、凪いでいた海面が波立ちます。足を踏みしめれば、陸側から道を伝って温かな力が流れて来ます。
綺麗です、圧倒されて声が出ないです。でも、本番はこれからです。ミサが踊り始めると、辺りは幻想的から情熱的へと変わります。
「うぉ〜、ドンドコドンドコ、ハァイハァイ! ミサちゃん、ミサちゃん、ハァイハァイ!」
踊りに併せる様に、海へ突き出した道に波がぶつかり飛沫が上がります。飛沫は陽の光でキラキラと輝き、ミサの美しさを引き立てます。
「う〜、ハァイ。う〜、ハァイ。とっても可愛い、ミッサちゃ〜ん!」
大地から力を受け取り、全身を使って風を繰り、飛沫を浴びてミサは踊ります。
可愛くて、綺麗で、かっこよくて、素敵で、もう、もう、堪りません! 鼻血どころじゃ有りません!
身体の奥底から、途轍もない大きな力が湧き出して来るのを感じます。溢れそうです、身体が勝手に動き出しそうです。
私はリュックから包丁を取り出し、指の先をチクリと刺します。そして手早く地面に陣を描きます。
ミサを中心にして、風と海と大地の力が渦巻いてます。私は力の奔流を受け止めて、陣に注ぎ込みます。陣の中央に立つと、頭の中に言葉が浮かんで来ます。
「セカイよ、我が想いに応えよ。セカイよ、血に宿りし盟約に従い我が望みを叶えよ。セカイよ、病に冒されし汝の愛子に癒やしを与えよ、夢に惑わされし我が同胞を揺り起こせ、迫りし危機に立ち向かう力を貸し与えよ」
陣が眩い光を放ちます。そして陣に集まった力が、入り江に造られた街へ広がって行きます。
海辺から街の中央へ、そして入り江の先へ。広がった力は、既存の結界と溶け合う様に合わさり、街を取り囲みます。
力の限り踊って疲れ果てたんです、ミサは糸の切れた人形の様に崩れ掛かります。でも大丈夫です、私がいます。
直ぐにミサへ近寄り、強く抱き締めました。役得です。でも、ミサを抱き締めた所で、私も力尽きました。
☆ ☆ ☆
どれだけ経ったのか、目を覚ましたらカナが私を抱き締めていた。途中から記憶が無いけれど、私は倒れたんだ。でも上手くいったのはわかる、風や海を凄く身近に感じる。
私は意識を風に乗せる、そして上空から街を見下ろす。高い所から見ると、この街がかなり大きいのがわかる。
入り江の奥まった辺りに船が密集している。そこを中央に建物が集まり、入り江に沿って街が広がっている。
私達が居るのは、入り江の先端から少し内側に入った辺り。こうやって眺めているとわかる。これは道じゃ無くて、波を防ぐ為に造られたんだ。
海は静か、風は穏やか。恐らく以前は、入り江の先にまで結界が張られてなかったんだろう。入り江に囲まれてる海の辺りも含めて、結界の範囲が広がっているのを感じる。
カナが頑張ったのは見て取れる。どれだけの力を操れば、結界の範囲を広げ、強化まで出来たんだろう。
凄い、凄い、凄い。私と同じ身体で、私と同じ頭で、なのに私の何倍も大きな力を扱えて、私の何倍も頭が良い。
私は少しでも力になれたかな? そうなら嬉しい。
「ふひ〜、ふはぁひは〜」
「カナ。あくびが可愛くない」
「およ? ミサ〜! しかもぎゅ〜してる!」
「抱き締めてるのは、カナ。そろそろ離して」
「やだよ。もうちょい」
「離れて。色々と確かめなきゃ駄目でしょ?」
「そっか〜、仕方ないね〜」
ミサのおかげでグッスリでした。ちょっと寝過ぎた気もします。でも、お日様が沈んで無いし、そんなに時間が経って無いかもね。
何よりもミサが凄く近いです、ちゅ〜が出来そうです。流石にしないけど、怒られそうだし。照れ屋さんめ!
もっとミサとのんびりしてたいけど、そうもいかなそうなんだよね。結界を張る前にチロッと見えちゃったんだけど、遠くの方に何か凄いのがいるんだよ。お魚さん達はあいつが怖くて逃げて来たんだね。
いや〜、どうしよっか。海には大っきな生き物がいるみたいだけど、そんなのが可愛くなる位だよね。
このまま放っておくと、この辺にはお魚さんがいなくなるね。そんで街をバクって丸呑みにしちゃう。
まぁ結界が有るし、あの大っきさだと入り江が邪魔で、街の方まで来れないと思うけどさ。でも、何とかしなくちゃ駄目っぽいね。
後はお魚さんかな。私はわかんなかったけど、ミサは知ってるかな? ミサは海とも繋がってたからね。
「そんな所で。ミサさん、どうしましょう」
「先ずは、おじさんを起こす」
「おぉ、すっかり忘れてたよ」
「それから問い詰める」
「なんか怖いよ」
「大丈夫。優しくトコトン問い詰める」
「あれだね。戦場本の第三章、尋問の仕方」
「そう」
「お前が犯人だろ! 知ってる事は全部はげ!」
「違う、掃け」
「そっか。頭のお掃除だね!」
「ん」
おじさんは普通のおじさんだけどね。面白そうだし尋問ごっこだね。そしてケイロン先生は、お空の向こうで弟子の成長を喜ぶんだよ。
「違う。ケイロン先生は生きてる。私の成長を見守ってる」
「え〜、そうかな? 酔っ払って、道の真ん中で寝てると思うよ」
「それは仮の姿。本当は戦場を駆ける孤高の狼」
「人間じゃ無いの?」
「今のは例え。ケイロン先生のカッコよさを表現した」
「ねぇミサ。ケイロン先生なら、あのでっかい奴をどうやって倒す?」
「私達が戦うより良い方法が有る」
「ほうほう」
「名付けて『海の生き物大集合』作戦!」
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