第23話 新たな仲間

「ようやっと出て来おったか」


 そう言った爺さんは、身構えもせずに立っていた。それに、俺を見ても眉一つ動かさない。

 俺が近付いてるのがわかってたんだな。それと、俺に害意が無い事もな。相当な胆力ってより、洞察力に優れてるって所か? どの道、凄い爺さんには変わり無い。


「それで。爺さんは何者だ?」

「邪悪なる者の一人、ケイン・グレイ。それを聞いてどうする?」


 俺は少し言葉に詰まった。理由は爺さんが名乗ったからだ。ゲームに出てくる街の住人に名前が無いのと一緒だ。中には名前が有るのも居るけど、それは稀だ。


 昔話を持ち出した茶目っ気は無視だ。笑ってやる価値も無い。それと、実際に話すとわかる。凄いけど、かなりふざけた爺さんだ。


「どうもしないさ。よろしくな、グレイ爺さん。俺の名はタカギ。あの子達の護衛兼、育て親の知り合いで、クソ野郎をぶっ殺す仲間を探してる」

「そうか。それで、わしに何をしろと?」


 大雑把な説明で理解したか? 想像以上に頭が回るんだな。


 俺は、洗脳が解かれてからの行動を見ていた。爺さんが混乱する様子は無かった。どうやら、自分を取り巻く全てをわかった上で、この場所に立っているんだな。


 なんて爺さんだよ。あの瞬間に全てを受け止めて、覚悟を決めたんだな。尊敬するよ、俺には真似出来ない。


「話が早いな。爺さんにはこの村を任せたい」

「頼まれんでも、そのつもりじゃ」

「そうじゃねぇよ。この英雄共は、俺が貰っていく」

「ふざけんなてめぇ!」

「はぁ? 喧嘩なら買ってやるぞ!」

「上等だ!」


 会話に割り込まれたのはムカつくが、剣の奴が文句を言うのは仕方がない。『てめぇは何処のどいつだ?』って話だよ。そうは言っても自業自得だ。

 こいつらの感度が低すぎる、若しくは力を過信し過ぎたか。どっちにしても、俺に気が付かなかったのが悪い。


 こんな奴は、ちょっと威嚇するだけでいい。実力差を見せ付ける必要すら無い。槍の奴は気が付いたみたいで、弱腰になってるがな。

 ちょっと説明が難しいが、殺気みたいなもんだ。そいつを奴に見せれば終わりだ。ほら、もう立てない。ガタガタと震えてる。


「何だ? かかって来いよ!」

「お前……、何なんだ!」

「俺は元英雄だ」

「元? 何言ってんだよ!」

「お前等と一緒だ。ある人に、クソ野郎の洗脳を解いて貰ったんだ」

「何を……」

「いいから付いてこい。年寄りに迷惑をかけるな!」

「待て、タカギと言ったか? 俺達はこの御仁に恩がある」

「変わんねぇよ。お前達は、俺と一緒に爺さんの恩人を守れ!」

「異端のガキか?」


 その言葉を口にした瞬間、俺は槍の奴を殴っていた。馬鹿にされた気がして、悔しかったんだと思う。


 別に本気は出してないが、流石に英雄だ。俺が殴っても死んでない。ちっとばかり吹っ飛んだだけだ。

 だが、思いもよらず実力を見せる事になった。槍の奴はもとより、剣の奴が震え続けてるのは溜息が出たけどな。

 

 そして俺は、二人を大人しくさせた後、爺さんとの話しを続けた。多分これが、俺の考える最良の選択肢だ。


「なぁ爺さん。あんた、魔法が使えるな?」

「そうじゃ」

「クソ野郎との繋がりは生きてるな?」

「少しな」

「よし。それなら、みんな死んだ事にしろ!」

「はぁ? ……、いや……、悪くないの。お前さんがクソ野郎と呼ぶ存在に、わしらが死んだと思い込ませるのか」

「全員分の偽装が済んだら、村の結界に隠蔽の効果を追加しろ」

「ほうほう。やってみるかの」


 頼りになる爺さんだ。俺の提案を瞬時に理解し、策を模索した。これこそが、英雄を圧倒した爺さんの本領だ。


 決して敵わぬ相手を前に、臆する事なく立ち向かい打ち倒す。それは気概だけでは足りない、叡智とも呼べる優れた頭脳が有ってこそ成し得た結果だ。


 俺は確信した。この爺さんは、あの子達の力になれる。俺よりもな。だからこそ、やる価値が有る。

 

「そうだ、偽装するんだ。それで、お前達は自由に動き回れる。村が襲われる心配も無い」

「願ったり叶ったりじゃな」

「出来るな?」

「恐らくな」


 爺さんは自分を実験台にした。実際には一瞬、体がピカッと光るだけ。そして爺さんは軽く笑ってから、結果を説明した。


「上手く行ったようじゃ。本当に騙されてくれたか、様子を見る必要が有るじゃろ」

「わかった。それなら槍の奴を置いてく。小間使いにしろ。家がぶっ壊れたんだろ?」

「そんな所も見とったか?」

「爺さん。馬鹿も程々にしとけ」

「全くじゃ、返す言葉がないの」

「それじゃあ爺さん。馬鹿二人の分も頼めるか?」

「任せよ」


 爺さんは、英雄達を同じ様に偽装してくれた。


 これが上手く行くとは限らない。寧ろ失敗する可能性が高いだろう。何せ俺達は相手の情報を一切持って無い。

 それなら、試行錯誤を繰り返すのか? 違うな、それが長い時をかけても、クソ野郎に手が届かなかった原因だ。


 こちらの情報どころか、考えてる事さえ筒抜けだと仮定するなら、せめて与える情報を制限する事から始めなければ駄目だ。無闇に攻撃を仕掛ければ、返って出来る事は少なくなっていく。


 爺さんが様子を見ると言ったのは、クソ野郎の反応を見たかったからだ。もし、直ぐに英雄を送り込んでくるなら、クソ野郎は俺達の事が見えてない事になる。要するに、『本当に死んだかどうか確かめて来い』って命令が出てるはず。

 

 何もして来ないなら、クソ野郎が高を括ってる事を意味する。俺達はそれに付け込む。好き勝手に暴れて、同じ様に仲間を増やし、役立たずの『セカイ』にクソ野郎と対抗出来るだけの力を持たせる。

  

 未知の存在への対抗手段を持たないなら、こちらも未知の存在を作り上げるだけだ。無知蒙昧と言われようが、そんな事でしかクソ野郎を弱らせる事は出来まい。


 無論、最後は俺達でとどめを刺す。そうじゃ無ければ、割に合わねぇよ。


「さて、暗躍の始まりだ」

「良いの。タカギ、わかっとるの」

「そうだろ? 爺さん、頼りにしてる」

「それは、わしの台詞じゃ」

「そんな訳だ。いつまでも座り込んでんじゃねよ、元英雄のお二人さん」


 凄い爺さんだけど弱点が有る。寧ろ弱点だらけだ。現れた英雄がこの馬鹿二人じゃ無くて、狂戦士の様な奴だったら今頃は命が無い。

 俺でさえ、爺さんと馬鹿二人が死に物狂いでかかってきても、数秒もかからずに無力化出来る。


 一番の問題は村の奴等だ。いずれ戦力に数えるが、今は足手まといだ。幾らカナの結界があっても、絶対に守り切れるとは限らない。


 爺さんには村の奴等を鍛えつつ、知恵を活かして戦略の構築をして貰う。そして、少しは会話が成り立ちそうな槍の奴を補佐につけて、爺さんの負担を軽くする。


 まぁ暗躍するにも、現状では人手が足りないんだ。姉さんはそれを見越して『英雄を捕まえろ』なんて言ったんだろう。姉さん自身も、首都で似たような事をするんだろうな。


「おい、木偶の坊共。お前達の名前は?」

「はぁ? てめぇ、何言ってんだ!」

「おい、止せ! 殴られるぞ!」


 わかってるじゃねえか。槍の奴は役立ちそうだ。それで直情的な剣の馬鹿は俺が鍛える。


「タカギ。済まないが、名前とは何だ?」

「剣の馬鹿、お前もか?」

「あぁ、俺もだ。それより、馬鹿は止めろよ!」

「うるせぇよ。お前等は英雄にされる前、何をしてた?」

「何を? 俺は……、何だ? 知らない……、いや、本当にわからない」

「剣の、お前は?」

「知るか! 英雄は英雄だろ?」

「それじゃあ、この場所に来る前は何処で何をしてた?」

「そりゃあ……。ん? 何だ? 覚えてねぇ?」


 これは俺と同じか。どうやら情報は期待出来ないな。


「お前さん等、いつからの記憶が無いんじゃ?」

「爺さん、無駄だ。俺もこいつ等と似た様なもんだ。英雄だった時の記憶が無い」

「そうか。残念じゃの」

「こいつ等は、俺と違って話しが出来たから、何か知ってると思ったんだけどな」

「それは、時間をかけて情報を得るしか無いの。タカギ、わしに任せよ」

「魔法でも使うのか?」

「あぁ、わしは大家じゃぞ」

「それなら、その辺は爺さんに任せるとして。槍の、お前はクロジシ。剣のはアオジシと名乗れ」


 名前そのものが理解出来ず、馬鹿二人は少しキョトンとしてた。他にも色々と教える必要は有りそうだ。


 そもそも俺自身が、英雄や洗脳の仕組みを理解出来て無いんだ。色んな事が解明すれば、クソ野郎の攻略が進むだろう。姉さん達と連携を取る必要も有るしな。


 ここからだ。見てろよクソ野郎!

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