第17話 対策しよう

 ミサが行ってから気が付きました。私達の朝ごはんを、取り分け忘れてました。持って帰って来てとは言えないし。作りますか、忘れた私がいけないんだもん。


 ん〜、でも何を作ろっか。おトマさんは、使い切っちゃったし。乾燥麺は夕べ食べたばっかだし、いざという時用に残して置きたいし。卵はもう無いし。野菜も残り少ないね。


 あれれ? もしかして食材が残り少ない? いやいや、そんな事もあろうかと、乾燥シリーズを用意させられたんだよ。ばあちゃんは流石だね。


 そしたら、いよいよ出番だね。ばあちゃんの知恵その八十八、お湯をかけるだけの簡単お味噌汁、ババン!


 お味噌をお湯に溶かすだけでも、お味噌汁にはなるんです。でも違うんです、具がないんです、深みがないんです。

 だから具を乾燥させて、お味噌と一緒に丸めとくんです。長持ちするから旅には必須です。

 丸めた具入りのお味噌に、お湯をかけると美味しそうなお味噌汁の完成です。ついでに、乾燥させたお野菜をちょちょっとポンで、野菜炒めさんの出来上がりです。


 直ぐに朝食が作れちゃうなんて、私はやる子じゃないですか? そろそろ、フフンてしても良いんじゃないですか?


 それより、今朝も虫さんのお祭りが開かれてます。結界のおかげで臭いはしないけど、目に入っちゃいます。今度から野宿の場所を考えようって、ん?

 ちょいとお待ちよ、ここは結界の端っこだよね。反対側の端っこも、同じ事になってない?

 遠目の魔法で様子を見ようと思ったら、ミサを見つけたよ。おじいちゃんと喧嘩してる? あ〜、ないない。ミサだもん。


 それよりお外の状況は? って死骸が凄い量だね。みんなグチョグチョだね。相変わらず気持ち悪いです。

 でもね、全ての命はセカイに還ります。生きる為に頑張ったんですし、迷子にならない様に見送りましょう。


 先ずは目を閉じて、全身に流れる力を感じます。それから祈りを込めて、丁寧に言葉を紡ぎます。


「尊き命よ、戦い破れた気高き魂よ。その身は大地に、魂は輪廻に還れ! 再び出会えた時は、友として語り合おう!」


 よし、土がキラキラしてますね。私ったら、けっこう上達したんじゃないですか? おまけに、養分がいっぱいになったから、クサカラ草を植えたらスクスク育ちますね。ついでに畑も綺麗にしといたから、いつでも作業が出来るよ。


 それじゃあ、可愛いミサちゃんはどうなったかな? ムム、おじいちゃんが独りで、お鍋を運んでる? いや、魔法で浮かせてるし、運んでるとは言わないか。

 いやいや、そんな事はどうでもいくて、ミサはどこに行ったの? 建物の方には居ないね。結界の外に出る訳ないね。あれ、良い匂いがするね。もしかしてミサ?


「カナ、覗き?」

「およ? 帰って来たの? おじいちゃんはいいの?」

「おじいちゃんと話した」

「見てたよ」

「助けたい」

「そっか。なら、朝ごはん食べながら、一緒に考えよ」

「ん」


 この村に来てから、難しい顔をする事が多かったけど、どうやら解決したんだね。ミサがスッキリした感じになってます。とっても可愛いです。思わず頭を撫でちゃいました。

 今朝のミサは嫌がりません。目を細めるミサが堪りません、情熱的なやつが漲ってきます。抱き締めて頬をスリスリした所で、ミサにエイってされました。


「カナ、熱い」

「もうちょい!」

「うるさい。ご飯」

「仕方ないな〜」


 後ろから声をかけたのに、カナはびっくりしない。なんで? カナに抱き締められると安心する。でも調子に乗り過ぎ、暑苦しい。


 頬を少し膨らませてるカナは、とても可愛い。頬を突きたくなる。それから私は、カナにおじいちゃんとの事を話した。カナは、何だか嬉しそうな顔をして私を見てた。何がそんなに嬉しいの?


「えへへ、優しいミサも好き」

「違う。カナが悲しむから」

「それだけじゃ無いでしょ?」

「それより方法」

「あ〜、なんか物騒なやつね。お仕置きする?」

「しない。気持ちを落ち着かせる」

「それ位なら簡単だよ」

「でも、カナの結界は一日程度」

「あれは手を抜いたやつだもん。ちゃんとやれば、効果はずっと続くよ」

「陣を描く?」

「うん。でも今回は、描くだけじゃ駄目かな」

「効果を高める触媒が必要?」

「流石はミサ、相変わらず鋭いね!」

「凄いのはカナ」

「えへへ、そうかな〜?」

 

 ミサの説明である程度は理解したけど、この村は動物以外の何に狙われてるのかな?

 村の人達は怪我してるし、おじいちゃんはいつまで元気かわかんないし、不安にはなるね。さてさて、ご飯を食べ終わったら、触媒になる物を探そっか。村の中にそれっぽいのが有れば良いけど。


「お嬢ちゃん。鍋を持って来たぞ」


 ふいに声をかけられたので、びっくりしました。ミサは素早くおっきい包丁を構えます。仕方ないです、音をさせずに近付いたのが悪いんです。だからといって、いきなりグサッとしないですよ。


「あのさ、おじいちゃん。女の子に声をかける時は、気を使いなよ」

「悪かったの。鍋は綺麗にしたぞ」

「今それは関係ない!」

「そうだよ! ミサの包丁が火を吹く所だったよ!」

「返り討ちじゃ」

「するな!」

「ミサを虐めたら、容赦しないんだからね!」

「せんよ。安心せい」

「安心出来ない」

「おじいちゃんの馬鹿!」

「それより触媒の事じゃろ?」

「盗み聞き?」

「いけないんだよ!」

「良いもんが有るぞ」

「ほんと?」

「おぉ、流石はおじいちゃんだね」


 おじいちゃんってば、お役立ちさんです。こっそり近付いたのは、許してあげます。

 触媒がなんとかなるなら、後は力仕事だね。せっかくなら、もう少しおじいちゃんに役立って貰おう。力仕事だしね。ミサと私だけだと、一日がかりになりそうだしね。

 

「おじいちゃん。怪我してない人はいる?」

「おらんが、軽症のもんはおるの」

「ならさ、その人達にも力を貸してもらってよ」

「わかったが、何をするんじゃ?」

「畑仕事みたいなやつだよ」


 そして私は、地面に絵を描きながら説明しました。おじいちゃん達にやって欲しいのは三つです。


 一つは、夕べ私が結界を張った範囲を耕す事。二つ目は、耕した場所にクサカラ草の種を植える事。村の中心と東西南北にそれぞれ一つずつ、触媒を設置する事です。


 ここまでやってくれれば、触媒を中心に陣を描いて、結界を発動させるだけです。

 因みにクサカラ草は、臭さと辛さを足した感じなので、嗅いだら目と鼻と口がやられます。

 早ければ一日で育つと思いますし、種を落として増えまくるので、動物避けの柵になってくれます。

 

「要するに、村を囲む様に耕して、種を植えるんじゃろ?」

「そうだよ。どの位かかる?」

「半日って所かの」

「それなら丁度いいよ。私も陣を描くのに半日はかかるし」

「それよりのぅ。グーロとかは襲ってこんのか?」

「大丈夫。あと半日位なら、私の結界は無くならないもん」

「お前さんが結界を張るなら、さっきのお嬢ちゃんは」

「ミサ」

「ミサは、肉体労働かの?」

「おじいちゃんのお馬鹿! ミサは支度が終わってから!」

「支度とは何じゃ?」

「女の子には色々有るんだよ!」

「そうかの。わしは村のもんを連れて、先に始めとるよ」

「うん、よろしくね。はい、これが種」

「任せておけ、お嬢ちゃん」

「カナだよ!」

「うむ。カナよ、色々と助かるぞ」


 クサカラ草の種を渡したら、おじいちゃんは建物に向かって歩いて行きました。 

 それから、忙しくなりました。おかげで、ミサの髪を梳かす時間がほとんど有りませんでした。でも、今日だけは我慢します。だって、仕方ないですし。


 村の周りを耕してくれたのは、三人の大人と子供達でした。意外と子供達が元気です。子供と言いつつ、私達より年上かも知れませんけど。いや、それはいいんです。問題はおじいちゃんです。


 おじいちゃんが持って来たのは武器でした。なんでもずっと昔に、この村から二人の男の人が、英雄に選ばれたそうです。その二人が残した武器を、触媒にしようと考えたみたいです。


 何て言うか英雄って……、まぁいいか。そんな変なのが見つかっただけでも、良しとしなくちゃね。


 そんで、私も頑張りましたよ。棒で地面に線を引いただけですけど。

 でもね、真っ直ぐ線を引くのは大変なんですよ。コツがいるんです。方角もきちっとしなくちゃ、全く意味が無いんです。


 そんなこんなで準備が終わって、私の結界もそろそろ効果が切れそうです。早く結界を張り直しちゃいましょう。


 先ず私は、村の中央に設置した触媒の前に立ちます。これが、陣の起点になります。そして、ミサに向かって手を差し出します。


「ミサ、お願い」

「ん」


 ミサがおっきい包丁の先で、私の指をチクっとします。じんわりと血が出て、雫になって触媒の上にポトッと落ちます。

 続いて、両手で触媒に軽く触れたら、大地から線を伝って力が広がる様に、私は意識をセカイと同調させます。


「セカイよ、我が血に応えよ。何者にも壊せぬ強固な壁を造り、この地に永久の安寧を齎せ」


 大地から、大きな力の流れを感じます。中央の触媒と東西南北の触媒を繋ぐ線が、光りを放ちます。同じ様に線が光り、四ヶ所の触媒が隣り合う触媒と繋がります。


 光ってるのは、私が引いた細く弱い線です。だけど光と共に大地に刻まれ、決して消える事は有りません。

 五つの触媒は、セカイから流れる力を陣へ受け渡し、護る力に変えます。


 結界が完成した後、全身から力が抜けました。崩れる様に倒れるのがわかります。でも、自分ではどうにも出来ません。そんな私の体を、ミサが抱き留めてくれました。

 

「カナ。お疲れ様」

「ありがとう、ミサ」

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