第16話 答え合わせは要らないよ
おじいちゃんが、ちょっと格好良いです。ニコって笑うと、ずかって地面に胡座をかきます。
そして寝ました。ぐああって言ってます。おじいちゃんは、凶暴な肉食動物だったのかな?
「そんな訳ない。ただのいびき」
「アハハ、そうだよね」
ちょろっと辺りを見回すと、子供達が大人に寄りかかって寝てます。ははは、流石は私。名付けて、絶対安眠子守唄!
子供を抱えて、大人達が家に帰っていきます。おじいちゃんも連れてって欲しいです。そしておじいちゃんは、ぐごがごがぁって言ってます。とってもうるさいです。
「ねぇ、ミサ」
「放っておこう」
「まだ何も言ってないよ」
「いい、わかってる」
「何が?」
「おじいちゃんは朝までぐっすり」
「そういう問題じゃないと思うよ」
「おじいちゃんは、丈夫な体を手に入れた」
「そうなの?」
「カナのスープで頑丈になった」
「私のスープって凄いね!」
丈夫になったのは大袈裟だけど、まぁいいか。どうせ私達だって草むらで寝るんだし。おじいちゃんは、道端でも大丈夫だよね?
大人達は戻って来る気配がないし、私達じゃ運べないし。その前に! おじいちゃんのお家が、何処だかわかんない!
仕方なく、そう! 仕方なく! 私達は、おじいちゃんを見捨てて、村の外に出ます。お鍋が空になったから、持つのが少し楽になりました。でもね、私は重大な事に気が付いちゃったんです。
スープを全部配ったので、私達の分が残りませんでした。夕ごはんの危機です。ミサが少しグッタリしてます。予定外です。
だけどね。私は、万が一に備える女。そして出来る女。もうちびっ子とは言わせない!
なんて、嘘です。ばあちゃんに持っていけと、言われてリュックに詰め込んだだけです。
それは、ババン! 乾燥させた『茹でた麺』です! 前にお家でカレーちゃんを作った時に、余分に麺を茹でときました。魔法で一気に、麺の水分をビャっと抜いたんです。家庭の知恵特集です。
乾燥してカリカリになった麺が、お湯をかけると元通りになっちゃいます。お醤油をちょろっと、スパイスをパラっとするだけで、お夕食の完成です。
「麺がウニャウニャ」
「そっか〜、改良が必要だね」
「カナなら出来る」
「今晩はこれで我慢してね」
「大丈夫」
味見の達人ミサが言うんだから、間違いないね。落ち着いたら、これも改良しよう。そして寝よう。
食べ終わったら、ミサはパタッと力尽きた様に寝ちゃいました。仕方ないよ、今日はすっごく大変だったし。私も眠いよ、お片付けしたら寝よ……う。
……ん? いつの間にか、ミサを抱き締めてます。お空が明るくなってます。そして見覚えが有る背中が、ドデンとしてます。どなたさん?
「あれ? この匂いは、おじいちゃん?」
「起こしてしまったかの?」
「どうしたの?」
「腹が減ったんじゃ」
「そっか。すぐ作るから、ご飯はもう少し待って」
「いいんじゃ。昨日は疲れたろ、ゆっくりせい」
お話ししてたら、目がパッチリしてきました。よし、お布団の魔力から抜け出そう、っていやいや。このお布団は私達のじゃないね。おじいちゃんがかけてくれたのかな?
起きてぐるっと見渡します。お鍋とかが綺麗になってます。寝る前に片付けたっけ? それより、いつの間に寝ちゃったのかな?
おじいちゃんを見ると、任せなって顔をしてます。そっか、片付けてくれたんだね。どうやら今のおじいちゃんは、格好いいままみたいです。何だか、温かい気持ちになります。
「カ〜ナ〜、うるさい」
「およ、ミサも起きた?」
「ん、おじいちゃん?」
「そうじゃ」
「何しに来た?」
「おじいちゃんはお片付けして、お布団まで貸してくれたんだよ」
「それは、ありがとう」
「私も、ありがとう」
「いいんじゃ」
「恩に着せて、朝食をたかると」
「難しい言葉を知っとるのぉ。賢い子じゃ」
ミサは未だ、おじいちゃんを疑ってるのかな? なんか絡んでるし。『おい、そこで飛んでみろよ。ほら、持ってんじゃねぇか。出せ出せ、全部出せ』とか言わないよね。
「カナ、ちゃんと意味わかってる?」
「アハハ、よくわかんない」
「そんな言葉を覚えちゃ駄目」
「ん〜、そっか。それより、ご飯を作ろ」
「いっぱい作る?」
「そうだね」
まだお腹が弱ってそうだし、村の人達に配るのは、昨日と一緒でスープが良さそうだね。ちっちゃい子も居たし、お肉も食べて元気出して欲しいな。
そんな訳で、今朝の主役はおトマさんです。この際なので、持って来たのを使い切っちゃおう。
おトマさんと沢山の野菜を、じっくり煮込んで水気を出しつつ柔らかくするの。特別に燻製したお肉を、小さく刻んで入れちゃおう。
後はお腹の調子を良くするスパイスを何種類か使って、味を整えたら完成だよ。
名付けて、元気になるスープ。
なかなかだね。美味しそうだね。でもね、出来たのは良いけど、運ぶのが面倒だな。どうしよう。でも仕方ないか。
「ねぇ、ミサ」
「ん。大丈夫」
「わしが持とうか」
「なに? どうしたの?」
「鍋を運ぶじゃろ?」
「そうだけど、おじいちゃんは持てるの?」
「任せよ。わしはこれでも魔法の達人じゃ」
待ちきれなかったのかな? ミサと一緒にお鍋を持とうとしたら、おじいちゃんが話しかけて来ました。
うんうん、何を言ってるんだか。魔法を使えると言ってたけど、おじいちゃんに運べるはずが無いですよ。
でも、おじいちゃんは意外とやる子でした。お口をモゴモゴさせると、お鍋がちょっぴり浮かび上がります。お鍋を軽く押すと、すーっと動きます。
「お〜、やるね。おじいちゃん」
「そうじゃろ。村のもんに配って来るから、お嬢ちゃん達は、待っておれ」
「いいの?」
「勿論じゃ。只で飯を貰う訳にはいかんじゃろ」
「そっか。頼んじゃおうかな」
「カナ、騙されちゃ駄目。運ぶ以外は何もしてない」
「お布団を貸してくれたよ」
「私がついてくから、カナはおとなしくしてて」
「大丈夫?」
「ん。行ってくる」
おじいちゃんは、昨日と違って普通に歩いてる。カナを置いてきたのは、正解だったかもしれない。
おじいちゃんは、村の人達とは全く違う。動くのが遅くて、ゆっくり喋る。それなのに、戦い慣れた人みたいにグーロを倒した。その時は、普通の大人みたいに喋ってた。直ぐ元に戻ったけど、カナのスープを食べて、また普通に喋ってた。
しかも、お布団をかけてくれた。なんで、そんな事をした? 私達が心配だった? そんなの有り得ない。それとも全てが、アレの筋書き通り? いや、何かがおかしい。
カナから少し離れた、ここなら話し声を聞かれない。私は確認する為に、おじいちゃんへ話しかけようとした。でも、おじいちゃんに先を越された。
「わしも。よくわからんよ」
「は? なに? 魔法を使って、心を読んだ?」
「いいや。わかりやすく顔に出る所は、二人とも子供らしいの。特にお前さんは、わしを疑っとったからの」
「気が付いてたなら、何で言わなかったの?」
「お前さんなら、わかるじゃろ? 尋ねるという選択が、わしには無かった」
わしは、王都の魔法研究所で所長をしとった。子供の頃から、そうなるもんじゃと思っとった。だから、お嬢ちゃん達の歳には王都に行って、魔法を学んだ。何年か前に引退して、縁も所縁もない村の長となった。
どれもこれも、わしが決めた事じゃ。理由が無くても、そういうもんじゃ。
だがの、今は何でそうしようと思ったか、わからんのじゃ。そうするのが当然としか、言いようがないんじゃ。
それとな、村のもんを悪く思わんでくれよ。余所者に慣れてないだけじゃ。わしは良くてお嬢ちゃん達が駄目なのは、矛盾しておるがの。
つまりじゃ、お嬢ちゃん達との接し方がわかっておらん。
「じゃあ、おじいちゃんだけ、村の人達と違うのは何で?」
「最近、物忘れが酷くなっての。呂律が回らん時が多いし、魔法を使わんと思う様に体も動かん」
「それだけ?」
「いいや。今は、お嬢ちゃん達を殺せって声が、頭の中に響いとる。それが、やるべき事だと騒いどる」
「私達を殺す? やってみる? 返り討ちにするけど」
「せんよ。絶対にじゃ。そう確信しとる」
「なんで?」
「大いに矛盾じゃの。わしはお嬢ちゃん達に救われた。理由はそれじゃいかんか?」
「今ここで、私に殺されても?」
「お前さんは、そんな事せんよ。あっちのお嬢ちゃんを、悲しませるからの。絶対にせん」
「他の人が、同じ事を思ってたら?」
「それも無いじゃろ。鎮静の効果じゃな」
「わかった様な事を言うね」
「わしは、何もわかっとらん。色々と知りたくて、お嬢ちゃん達を訪ねた。寝とったから、布団をかけた」
「何で布団をかけたの?」
「布団か? 何でじゃろな。気にする事かの?」
「当たり前でしょ! ただの人形が、感情を持つ? 有り得ない!」
「そうじゃの。……奇跡、それじゃ駄目かの?」
駄目じゃない。そう言いかけて止めた。
おじいちゃんは、歳のせいで脳の動きが鈍ってた。だから、アレの意志に従う事が出来なかった。それで、他の大人と違う行動をした。
アレの意志が届き辛いから、カナの影響を強く受けた。それで今は、自分の意志を持っている様に見える。
私が感じてた違和感は、それで説明がつく。だけど、今のままじゃ駄目。まだ、アレの支配から解放されてない。
従えば死、意思に背けばもっと残酷な死。意思に背いてでも生きていられるなら、それが可能なら最初の人が人間を解放してるはず。アレからは逃れようが無いの? カナの力でも駄目なの?
「悩まんでもいい。わしがおる」
「おじいちゃんに何が出来るの?」
「お嬢ちゃん達が起こしてくれた奇跡を、本物にする事は出来よう」
「本当に? おじいちゃん達は、生きる為に戦える?」
「自信はないの。じゃが、やるしか有るまい」
「本気で戦うなら、私達が力を貸す」
「そうか、頼もしいの」
「違う。私達には未だ、戦う力が無い」
「仕方なかろう。幾ら賢くとも、お嬢ちゃん達は子供じゃ。それに、子供を守るのが大人の役目じゃろ? 爺に任せておけ」
そう言って、おじいちゃんは胸を叩いた。凄く頼もしいと思った。
これは些細な抵抗で、滅びの結末は変えられないかも知れない。だけど波紋の様に広がって、地上に影響を与えるはず。
ねぇ、ばあちゃん。セカイの望みを叶える旅が、ようやく始まったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます