第6話 野宿は安全に
お夕飯を食べ終える頃には、すっかり暗くなりました。お空を見れば、星が綺麗です。キラキラしてます。そして、ミサは眠そうです。
でもね、まだやる事が有るのだよ!
「ミサ君。ちょっといいかね?」
「なに?」
「俺達は、これから寝るんだ!」
「だから何それ?」
「お外で寝る時はどうするのだ?」
「火を消さない様にして、見張りを立てる」
「ちっちっち。さては貴様、素人だな!」
「なに? 馬鹿カナ?」
「違うよ〜、ミサの好きなやつだよ〜」
「知らない」
ミサはすっかり遠くの人です。相槌がなおざりさんです。だけど、これを見せればミサのお目々もぱっちり!
じゃん、ミサの愛読書『ケイロン著、戦場で生き残りたければ、これを読め!』長いから戦場本だ〜!
これを読んだから、ミサの包丁捌きが達人になったんだよ。私は、錬金書の方が好きだけどね。でも、この本には大切な事が書いてあるの。それは、野宿の仕方!
「野宿じゃない! 夜営!」
「ミサ、目が覚めた?」
「ケイロン先生を、馬鹿にしたら駄目!」
「アハハ、馬鹿にしてないよ〜」
「夜営の基本は、夜襲の警戒!」
「でもさ、この辺で何が襲ってくるの?」
「血を吸う虫!」
「クサクサ草の臭いで、近寄って来ないよ」
「猛毒を持ってて、ウネウネするやつ!」
「それもクサクサ草の臭いに、やられちゃうよ」
「まだ! ケイロン先生は負けない!」
「諦めなよ、ミサ。カーマさんは大先生だよ」
そんな訳で、野宿と言えばこれ! 戦場本に載ってた、野宿の心得をやってみよう。
先ずは、調度良い大きさの枝を用意します。次に、枝の先へ火をつけます。ぼうぼうして来たら、枝の真ん中を持って、クルクル回します。
ここで気を付けるのは、火が消えない様に回す事です。気を抜いたら、回した時に起きる風で、火は直ぐに消えちゃいます。消えない様に回せたら、後は踊り狂うだけです。
これは、ミサがすっごく得意です。私は上手く出来ないので、盛り上げ係です。コツは、低めの声を頑張って出す事です。
「ヘイ! ヘイ! 良いね〜、良いよ〜、ミサちゃんさいこ〜!」
「疲れる、カナ」
「ん? 馬鹿にされた?」
「してない」
「それより、デンデケデンデケ、ミッサちゃ〜ん!」
「うるさい」
「ヘイ! ホウ! ヘイホウ!」
「だから、うるさい」
「フゥ〜、ハァイハァイ! すっごく可愛いミサちゃ〜ん!」
「ハイハイ」
「可愛いよハァイ! すっごいよフゥ! とっても素敵なミサちゃ〜ん!」
「ハァイハァイ!」
何だかんだ言いつつ、ミサが乗ってきました。ミサんがロックです。ジィャ〜ジャ〜、ズズジャ〜です。ピロリロリロラ〜、ピロリロリロリィ〜ィ〜ィ〜です。
残念ながら、今回の踊りはデンデケです。
クルクル回した枝を、ポ〜んと高く放り投げると、ミサ自身がクルクル回ります。凄いね、ミサは目が回らないんだよ。そして、落ちてくるのを見計らって、背中側で棒を受け取ると、そのままクルクル回します。
体の近くで回してるから、熱いんだと思います。汗が飛び散ります。ミサの汗だから平気です。
因みにこれは、『火ぃ〜火っ火ぃ〜の踊り』だそうです。大地に感謝を込めて踊る事で、今夜は安全に眠れるそうです。他にも、鍛える前にやる『葉〜っ葉っ葉〜の踊り』と、旅の無事を願う『お〜っ歩っ歩の踊り』も有ります。戦場本に載ってました。ケイロン先生は、なかなかやる子です。
「カナ。嘘は駄目」
「アハハ、ごめんね〜」
一時間は踊ったかもしれません。ミサは限界です、私はちょっと喉が痛いです。今夜は草むらがお布団です。踊りと結界のおかげで快適空間だしね。ちっちゃい頃とは違うのさ、フフン。
ミサは寝ぼけると抱きついてきます。なので、汗びちょの服を魔法で綺麗にしました。後、髪と身体もね。
水でジャバジャバしなくても、汚れとかをエイって出来るんです。便利でしょ、髪を乾かす時間が減るんだよ。
魔法で綺麗になっても、お風呂には入った方が良いと思うの。ゔぁ〜ってなるから。
ミサはとっくに寝ちゃってるしさ、大豆を水に浸したら私も寝よう。ミサめ、明日はびっくりするがいい! もう、味のしないやつとか、言わせないんだからね!
おっと、うるさくしたらミサが起きちゃうね。うん、寝ちゃおう。
「カぁナぁ」
「ごめんねミサ、寝よ。ほら、ぎゅ〜」
「ん」
熟睡のコツは、やっぱりこれだね。ミサまくら。柔らかくて、温かくて、安心する。私がぎゅ〜ってすると、ミサの寝顔が更に可愛くなるの。ふふふ、おやすみ〜。
☆ ☆ ☆
はい、おはようございます。昨日はミサまくらで、ぐっすりでした。そして、結界の外は見ちゃいけません。朝から気持ち悪くなります。
戦場本には、『野宿で一番厄介なのは朝』と書いてましたが、その通りですね。
先ず、血を吸う虫が集まります。結界の中に入れないので群れます。その虫を食べようと小さい動物が、いっぱい集まります。小さい動物を食べようと、肉食の大っきな動物が集まります。
そして真っ暗の中で、壮絶な戦いが始まります。朝には、結界の外は動物の死骸やら何やら、散乱する事になります。
残骸となった死骸には、小さい虫がたかります。更に鳥が集まってきます。朝に鳥がさえずるのは、そういう事です。
因みに、鳥が食べない死骸には、毒が残ってます。間違えて食べちゃた鳥は、その辺で動かなくなってます。
後、毒にやられて転がってる肉食の動物も、危険なので近付いてはいけないんです。病気になっちゃいます。
まあ、生命の循環ってやつですけど、ミサにはちょっと見せたくない光景だね。そんな訳でいってみよう!
「戦い疲れた命よ、今は眠れ。セカイへ還り、やがて新たな生を」
野原が光って、毒を浄化します、残骸は土と一緒になります。お腹いっぱいにならなかった鳥は、他の場所を目指して飛んでいきます。そんな鳥達も、最後は人のお腹に入るんですけどね。
「さて、朝ごはんを作るよ!」
ミサには、いつも爽やか朝を。やるぞ〜ってな所で、先ずは水につけてた大豆を潰しましょう。みょろ〜んってなったら温めて、濾したり苦いのを入れて、混ぜ混ぜしたらお豆腐の完成。美味しいんだよ、ミサめフフフ。
それにしても、大豆が手に入って良かったね。他のお野菜も採れれば良かったけど、こればっかりは仕方ないかな。何処かで手に入れないと。お味噌とお醤油は、作るのに時間がかかるから、落ち着いたら何とかしないと。
一番の問題は卵かな。あんまり長持ちしないからな〜。どっかで貰えるといいな。後でミサに相談してみよ。だって、オムさんが作れなくなるしね。
せっかくお外に出たんだし、これからミサと頑張るんだし、どうせなら畑が欲しいな。後、牛さんと鶏さん。そうすれば、食材に困る事は無いもんね。
でもな〜、私は枯らしちゃうんだよね。ばあちゃんに怒られたな。なんでかな〜、雑草をマメにとったし、摘芯もしたのに。ミサはちゃんと育てたのは、美味しいかったな〜。私には難しいかな〜、そんな事ないよね〜。
結局、私には何が出来るんだろ? 農作業は駄目、家畜の世話も駄目、お馬鹿だし、迷子になるし。それに比べてミサは凄いな、何でも出来るもん。
おっと、考え事してたら、お料理が終わってたよ。うんうん良い匂い。お豆腐でしょ、野菜炒めでしょ、おからのサラダとお味噌汁。まぁ、今はこれしか出来ないけど、これからだよね。
「カナ。どうしたの?」
「ミサ、おはよ〜」
「ん。で、何か有った?」
「どうして?」
「お料理しながら百面相」
「お〜、それはだね。ミサ君、これからお野菜とか、どうしようかなって」
「買う」
「買う?」
「でも今は駄目」
「なんで?」
「お金無いし」
「お金って?」
「はぁ……。カナは、もっと常識を知らなきゃ駄目」
「ミサは知ってるの?」
「これから知る」
「そっか。一緒に頑張ろうね」
「ん」
もしかしたら、ミサにも出来ない事が有るんだね。それもそうだね。うん、私も頑張るよ。ミサ、大好き。
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