第7話 最高で残念な朝食からの

「そういえばミサ。お金って」

「ん〜、卵が欲しい時どうする?」

「頂戴って言う」

「それじゃ貰えない」

「それならどうするの?」

「お金と交換する」

「そのお金って、どうしたら手に入るの?」

「働いたら貰える」

「おぉ〜。私の料理でも貰えるかな?」

「大丈夫。いっぱい貰える」

「駄目だったら?」

「その時は、持ってる人から奪う」

「ミサ、怖いよ」


 ミサは、たまに怖い事を言うんです。私を脅かして面白がってるんです。まったく、ミサめ。

 でも、流石はミサだね。私が知らない事をいっぱい知ってるよ。ばあちゃんに教えてもらったのかな?


 そういえば、ばあちゃんが難しい事を言ってた時、私は寝ちゃってたね。ちゃんと聞いてたら、私も賢くなれたかな?


「カナは、やれば出来る子」

「それは、出来ないって言ってるのと同じだよ〜」

「カナには眠ってる力が」

「有るの? わぁ〜い!」

「無いかも」

「え〜!」


 カナは、わかってない。料理と家事が出来るだけで凄い。しかもカナの料理は、凄く美味しい。

 しかもカナは、錬金書の魔法を新しい魔法に変えてる。少なくとも錬金書の結界魔法は、あんなに凄い効果じゃない。カナの魔法だから、見張りを立てないでも安心して眠れた。


 ほんの断片でいい。その断片からでも、カナは本質を理解する。もう錬金書の技術は、全て使えるはず。それをカナはわかってない。だから凄くない。


 カナは私を褒める。でも、今の私はカナのおまけ。今はまだ、本当のカナが目を覚ますまで、それでいい。

 まだ、のんびりで少し間抜けなカナが良い。否応なく時は来るから。


「カナ……いいや。ご飯」

「うん、そうだね。そして刮目せよ!」

「作ったの?」

「そうだよ〜、お豆腐だよ〜。美味しいんだよ〜」

「知ってる」

「なに? 昨日と違うよ?」

「不味いとは言ってない」

「そうだっけ?」

「カナが勝手に勘違い」

「ほんと?」

「そう」

「そっか、アハハ。良かった〜」


 ミサは、何でも美味しそうに食べてくれるから、嬉しくなるね。お口をモグモグさせてる所は、堪らんのですよ。うぉ〜、ミサちゃん! ほっぺをツンってしたい!


「ん。美味しい。味噌汁」

「違うよミサ、お豆腐だよ」

「だから、お豆腐の味噌汁」

「普通のお豆腐は?」

「カナ、お醤油」

「はいはい、お醤油ね」


 ミサが、お豆腐にお醤油をたらします。そして、ちっちゃく切り分けて、お口に入れます。

 ほぉ、笑顔だね。美味しいんだね、うんうん、存分に堪能するが良い!

 つるんと滑らかな口当たり、ふわっと優しい口溶け、濃厚なお味、お醤油をかけたら美味しさ爆発だぞ〜!

 

 食事はこうでなくちゃね。ミサが楽しそうにしてると、嬉しくなっちゃう。美味しさが増すよ。


 それに、登りたてのお日様は、まだギラギラしてなくて。その光を葉っぱが反射して、キラってする。

 夜の間に冷えた空気が、少し温まり始める。そんな空気を、風さんがすぅっと流す。頬に当たると、まだちょっと冷たくて、それが気持ち良くて、思いっきり息を吸い込みたくなる。


 そしてミサの笑顔! もう、もうっ! 


「最高だぜぇ!」

「何が?」

「何がって。ミサちゃん、わからない?」

「うん」

「なんでよ〜」

「その辺に、カナが埋葬した死骸が」

「ちょっと! そういう事を言わないで!」

「深呼吸したら、ちょっと臭う」

「やめようよ〜。ってミサ、食べ終わっちゃったの?」

「カナは、食べるの遅い」

「もぅ! 台無しだよ!」


 私がウヒヒってなってる間に、ミサは食べ終わってました。なんて事でしょう。私は殆ど食べてないのに。

 ムムム、そういえば今日のミサは、おかわりしてない! あんな事を言ったから、気にしてるのかな?


 ミサはお片づけを始めてます。私は急いで食べます。モグモグする早さが、ミサとは違うんだよ。追い付けないんだよ。あ〜もう! せっかくのお豆腐が! でも、美味しい!


「ミサ、おかわりは?」

「満足」

「おっと兄弟! 遠慮はいらねぇぜ!」

「片付かないから、早く食べて欲しいカナ」

「ん? 馬鹿にされた?」

「してない」

「どうして、ミサは食べるのが早いのかな?」

「ダジャレで返すとは。流石カナ」

「よくわかんないよ」

「カナは集中力が足りない」

「どの位?」

「ここから、お日様の向こう位」


 集中力だそうです。それも、お日様の向こうなんて、すっごいです。でもさ、集中力って何だろうね? そういえば、ばあちゃんにも言われたね。うつり木って、どんな実をつけるのかな? 美味しいのかな?


「移り気は今のカナ」

「なんの事?」

「早く食べて」

「アハハ、わかってるよ〜」


 急かされました。頑張ってモグモグしてると、お皿が無くなっていきます。焦ります。ちょっと悲しいです。

 楽しい楽しい朝食が、早食い勝負になりました。対戦相手は、私の集中力とやらです。


 集中力って、シチューに似てるね。美味しいのかな? 私に作れるかな? おっと、多分これがいけないんだね。でも、仕方ないのさ。


「熱い魂は、止められないんだよ〜!」

「食べ終わったの?」

「アハハ、片付けるよ〜」

「ん。よろしく」


 魔法を使えば、お皿を綺麗にするなんて、一瞬なんです。でも私が洗うのは、ちょこっとなんです。後はミサが綺麗にしちゃったんです。私もお片づけしたかったよ。


 お皿をリュックに入れたら、片付け終わりです。チラッと見たら、ミサが靴を履いてます。出発の準備も先にしちゃってます。熱いなにかが、しゅるしゅると萎んでいきます。


 でもミサは、やっぱり最高なんです。チョコチョコと歩いて、私の靴を持ってきてくれました。


「カナのだよ」


 おお、ミサちゃん。ちっちゃい可愛い手で、履かせてくれても良いんだよ。うふふふ。

 おっと、そんなのより大切な事に気が付いたよ。ミサの髪がボサついてるね。


 なんてこったい! 私ともあろう者が、今の今まで気が付かなかったなんて! 早く髪を梳かさなきゃ!

 私の手で、ミサがも〜っと綺麗になるのさ!


 リュックから櫛を取り出すと、ミサは私の前にちょこんと座ります。可愛いです、後ろからぎゅってしたいです。でも今は、込み上げる熱いやつを、エイって押し込めます。お楽しみは、これからなんです。


 髪を梳かし始めると、ミサは目を瞑ります。栗色の髪が段々と艶を増し、朝の陽を浴びて煌めきます。す〜っごく綺麗です。

 しゅる、しゅるるっと梳かしていく内に、それはもう幸せそうな、うっとりとした表情になります。


 これこれ、これですのよ。頭を洗ってあげる時も、この素敵な表情を見せてくれます。

 私は後ろから覗きこんで、色々と堪能するんです。至福の時間ってやつです。ほとばしりそうです。よくわかんないけど、多分そんな感じです。

 

 至福の時間は、まだまだ続きます。髪を梳かし終わると、ミサはクルって振り向いて、上目遣いで言うんです。


「カナの番」


 可愛いでしょ? もう、もう、アニャラカホニカラヘって感じでしょ? ウヒョウヒョハヒハでも良いですよ。


「変なこと考えてないで早く」

「ありがとう」

「ん」


 堪えました、頑張りました。全ての力を注ぎこんで、一言だけ言えました。

 ミサさん、あなたは何者でふか? 癒やしの権化でふか? ただでさえ可愛いのに、あんな柔らかで極上の笑顔をされたら、私でも耐え切れませんよ。


 それにあの可愛い手で、私の髪を梳かしてます。ミサと同じ髪が、私の自慢です。

 そんな事より、気持ち良いです、うっとりです。今の私なら、でっかい木の根も引っこ抜けます。それだけ漲ってます。

 

「終わり」

「もう?」

「昨日は殆ど歩いてない」

「そうだね。出発しますか!」

「ん」

「手、繋ぐ?」

「ん」


 至福の時間が終わっても、幸せの時間は終わらないんです。今日は何が起きるか楽しみです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る