閉塞のセカイ

旅立ち

第1話 家族と温かい食卓

 私の故郷は、ちっちゃな村です。そして住人は十人です。アハハ、笑って下さい。村の人達は貧乏です。食べ物にも困ってます。貧乏が極まって、私達は売られました。

 ぜんぶ嘘です。ごめんなさい。


 まぁ、裕福では無かったですけど、貧乏でも無いです。両親は畑ですし、ばあちゃんも元気です。因みに、ばあちゃんは凄いです。伝説の魔法使いだそうです。

 嘘っぽいですけど、自分でそう言ってました。


 私は、ばあちゃんから魔法を教わりました。なので、家の家事は私が担当してました。あれ? その不思議そうな顔は何?


 お水は、井戸から汲まないと駄目なんですよ。疲れるんですよ。寒い時は手が凍るんですよ。そして、お風呂に入れる位の水を汲むのは、もっと大変なんです。子供には過酷なんです。


 だから、ばあちゃんが魔法を教えてくれました。井戸を使わないでも、水がじゃ〜って出せます。丁度いい感じのお湯にも出来ます。お風呂に入り放題です、ゔあ〜ってなります。


「ちょっと待ちなさい!」

「何? どうしたの?」

「誰が、妙な小話をしろって言った!」

「嘘? 違った?」

「それに、両親が畑って何だい?」

「畑で暮らしてるんでしょ?」

「夜遅くまで、働いてるんだよ」

「そうなの?」

「まったく、自己紹介をしろって言ったのに。こんなんで大丈夫なのかね?」

「アハハ、大丈夫だよ。ちゃんと出来てたでしょ?」

「出来てない! ほんと馬鹿だね」

「カナは良い子」

「そう! 良い子!」

「はぁ。なら次は、ミサがやってごらん」

「うん。ばあちゃん」

「ばあちゃんじゃない、お師匠様だろ?」

「ばあ匠?」

「混ぜるな! 早よやらんか!」

「うん」


 ミサです。女です。


「……、終わりかい!」

「ん?」

「首をかしげても駄目だよ!」

「ミサ可愛い!」

「カナはもっと可愛い!」

「わ〜い、褒められた!」

「わ〜いじゃないんだよ! あんた達は街に行くんだろ? こんな調子じゃ心配だよ」

「それなら、ばあちゃんも一緒に来れば良いんだよ」

「そう。一緒」

「お師匠様だ! それに、あたしは歳だからね。あんた達と一緒には行けないよ」


 そう言われると、何だか寂しいです。ミサも俯いてます。そんな時ばあちゃんは、優しく頭を撫でてくれます。

 ばあちゃんの手は、温かくて優しくて凄く安心します。ミサが笑顔になります。と〜っても可愛いです、抱きしめたいです。


 ミサをぎゅ〜ってすると、ぎゅ〜って返してくれます。その時の笑顔は、もっと可愛いです。頬をスリスリすると、ちょっと嫌がります。でも、止めてあげません。だって。


「魂の奥底から、熱い何かが込み上げてくるからさ!」

「カナ。うるさい」

「冷たいミサも良いね」

「あんた達、夕飯にするよ」

『は〜い』


 まぁ作るのは、ミサと私なんだけどね。早速ばあちゃんは、ソファでうたた寝マンです。仕方ないよね、ばあちゃんだもん。

 私が台所に向かうと、ミサが後ろから着いて来ます。食材を眺めてう〜んってしてると、決まってミサはこう言います。


「カナ。卵」

「うんうん。ミサは卵が好きね」

「違う。カナのオムさんが好き」

「ひょ〜! そんな事を言う子には、トマさん汁で絵を書いちゃうぞ!」

「ふふっ、嬉しい」

「でも、オムさんだけだと偏るね」

「カレーも。カレオム?」

「お〜、良いね!」


 どうです? うちのミサ! 可愛いでしょ! なんて言うか、もう! もう! って感じでしょ!

 特にね、ふふって微笑む所が、堪らんのですよ。


「この笑顔を守る! その為に生まれてきた!」

「カナ、なに言ってんの?」

「アハハ。夕飯、作っちゃおうか?」

「うん」

「ミサは、野菜を切ってね」

「めった斬り」

「星型にして良いよ」

「うん」


 ミサは包丁の達人なんだよ。ふ〜って息を吐くと、体の周りにモヤっとした何かが見えるの。きっと達人が放つアレだね。そんで、い〜ちって数える間に、玉ねぎが三個くらい粉々になるの。


「星型にした」

「おお! 流石ミサ!」

「朝飯前」

「これから夕飯だよ」

「カナ、勉強足りない」

「大丈夫、ミサが居るし」


 ちっちゃいけど、よく見れば星型に切られてます。うん、もう達人を遥かに超えてるね。

 ちょっと目を離したら、他の野菜も粉末に変わってました。流石はミサ、火が通りやすくなったね。

 ほい、ここからは私の出番だよ。


 ま〜ずはソースだ、ふふんのふん! 油とにんにく、ちょろちょろり! お粉の野菜をじゅわっとね! 黄色と緑と赤い粉、スパイスまぜまぜ良い香り! あっという間にカレーちゃん!


「ヘイ!」

「ヘイヘイ!」

「おー!」

「おー、おー!」


 つ〜ぎは、パカッと卵ちゃん。た〜まに双子が出て来るの〜! カキカキくるくる、ま〜ぜまぜ! 油は少しで良いのです! じゅわりのくるりの、あちょ〜さん! あっという間に、オムさん誕生!


「ふわふわ」

「ミサはふわふわが好きね」

「ばあちゃんも」

「そうね。ばあちゃん、ふわふわが好き」

「起こす?」

「ミサ、頼んだ!」

「おっす」


 私が盛り付けをしている間に、ミサがばあちゃんを起こしに行きます。少しぼんやりしてるけど、鼻をくんくんさせてます。スパイスは、ばあちゃんも倒す!


「カナ、倒しちゃ駄目」

「しないよ〜」

「ふん、返り討ちだよ」

「ばあちゃんには勝てないよぅ」

「ミサ、カナ。ほら食べよう」

『は〜い』


 それにしても、不思議だね。クサクサ草はとっても臭いのに、乾燥させたら良い香り。ばあちゃんもうっとり。


「してないよ」

「してる。ほにゃって」

「そうそう、ほにゃって」

「あかか、みょうみわけわくまいめ」

「ばあちゃん、食べながら駄目」

「そうだよ、ばあちゃん。いつもミサを叱るくせに」

「叱られるのはカナ」


 もぐもぐしながら喋ると、ばあちゃんに叱られます。でも、ばあちゃんも良くやります。きっと私は、ばあちゃんに似たんだね。


「ん〜、ふわとろ」

「粉末野菜が、深いコクを産み出している。名付けてミサエキス!」

「なんか嫌」

「え〜、ミサエキスは美味しいんだよ!」

「相変わらずカナは、料理が上手いね。料理人になりな」

「私は、ばあちゃんみたいな魔法使いになるの」

「五百年は早いよ」

「私は超えた」

「あんたもだよ、ミサ!」


 何を言っても説得力は無いです。だって、ニコニコしてるし。食事はみんなを笑顔にするの。そうすると、美味しい食事を作れる私は、ばあちゃんより強い?


「カナの勝ち」

「そんな訳ないだろ!」

「へへへ。ばあちゃんの胃袋は私のだ!」

「馬鹿な事を言ってんじゃないよ!」

「私の胃袋はカナの」

「ミサ〜、だ〜いすき!」

「今はカレオムに夢中」


 ふっふっふ、ミサは私の作ったオムさんが好きなのです。もう、私のトリコなのです。私は世界を手に入れたのです。凄いでしょ? 勝ち組だよ!


 ばあちゃんは、お皿に残ったカレーちゃんを、刮げる様にしてます。お皿はみるみる綺麗になります。それからチラッと私を見ます。


 わかってます、お替わりなんです。オムさんは、余分に作ってないけど、カレーはちょっぴり多めに作って有るんです。すぅおうなんです、うぃ〜んです。


 でもね、カレーちゃんだけだと、本領発揮しないんです。そこで必殺「茹でた麺」ババン!

 これにカレーちゃんをまぜまぜすると、あら美味しそう。お腹いっぱいになると良い、うははは!

 因みに、ミサのお替わり分も作りました。さっきからフォークとスプーンを、ぎゅって握り締めてますから。


「そう言えばね、自己紹介の練習はもういいの?」

「あんた達には期待しないよ。名札でも付けな」

「斬新!」

「ばあちゃんが作ってくれるの?」

「やだよ、カナが作りな」

「え〜!」

「カナの方が器用」

「そういう事にしておくよ」

「わ〜い、ばあちゃんに勝った」

「調子に乗るんじゃ無いよ!」


 楽しい夕食はここまでです。ばあちゃんは、夕飯を食べ終えると、直ぐにお部屋へ行っちゃいました。寂しいのかな? そうだよね。


 ごめんね、ばあちゃん。


 でも、私達は行くよ。


 ばあちゃんが応援してくれたから。だから頑張るよ。ばあちゃんの教え子として、私達は世界を見て来るよ。


「大好きだよ、ばあちゃん」

「私も」

「ミサ。明日は泣いちゃ駄目だよ」

「カナこそ」

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