壊れた希望のセカイ

東郷 珠

プロローグ むかしむかし、ある所に

 その昔、邪悪なる者が存在した。その者は、身から瘴気を撒き散らした。そして瘴気からは、怪物が産まれた。また怪物は、その身に瘴気を宿していた。

 作物は枯れ、大地からは緑が消えた。瘴気にあてられた動物は、怪物へと変化を遂げた。

 人間は飢えで死ぬか、怪物の餌になるしかなかった。


 そんな時、世界を救おうとする、勇敢なる者達が現れた。彼らは、果敢に怪物へ立ち向かい、人間を守った、

 そして長い戦いの末、怪物を駆逐し、邪悪なる者に戦いを挑んだ。


 しかし、邪悪なる者の力は、強大だった。数多の怪物を倒した勇敢なる者達でさえ、抗う事は出来なかった。そんな状況を見かねた神は、勇敢なる者達へ聖なる武器を与えた。

 勇敢なる者達は、手にした武器で邪悪なる者を浄化し、世界を平和に導いた。

 これが、語り継がれてきた英雄譚。


 しかし、人間達は知らない。何故、邪悪なる者が産まれたのか。何故、それに立ち向かう者達が現れたのか。

 そして、邪悪なる者は何処に行ったのか。人間達は知らない、世界が何者によって動かされているのか。


 仮初の平和を享受し、安穏と暮らす中で、危機感は薄れていく。かつての騒乱は単なる物語となり、その真意を誰もが忘れ去る。

 だから誰も気が付かない、脅威が消えた訳では無い事に。人間は愚かだと、嘲笑う者がいる事に。

 勇気も愛も命でさえも、借物である事に。


 むかしむかし、更にそのむかし。ある所に、お爺さんとお婆さんがいました。

 お爺さんは、土をこねて人形を作りました。お婆さんは、人形に命という魔法を吹き込みました。

 お爺さんとお婆さんは、人形に言いました。


「これから、庭を作るよ」

「お前の庭だよ。好きに遊びなさい」


 人形は喜びました。しかし庭が出来た後、お爺さんとお婆さんは姿を消しました。

 人形は、お爺さんとお婆さんに言われるままに遊びました。ずっと、ずっと、ずっと。

 

 風がなぜ吹くのか、水はなぜ水なのか、植物はなぜそこに在るのか、動物はなぜ言葉を話せないのか、人間は何処から来たのか、誰も……誰も……知らない。


 誰も、知る事が許されない事を知らない。なぜなら、教える事を知らないから。言われたのは、遊ぶ事だけだから。


 世界という箱庭の中で、精一杯に生きる人間。そして人間を守ろうとした、勇敢なる者達。その全ては……。

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