第55話 『氷孤』

 森の方をジッと見つめて動かず、どこか警戒しているようにみえた。


「ジィナ、どうしました?」


 ロイの問いかけにも反応せず森から目を逸らさない。火の妖精たちも落ち着きなくソワソワしだした。


ーバキバキバキッー


 森の奥から冷気が漂い、禍々しい殺気が近づいてきた。


「!?なんだこの殺気は。全員戦闘体制!ジィナ!」


「ギャッ」


 ジィナはロイたちの前に立ち、翼を広げて低い姿勢で威嚇の声をあげた。


「グルルルル」


ーバキッバキバキー


「森が凍っている・・・まさかっ!?」


ーヒュッ ドゴッー


ーヒュッ ヒュッ グサッ ガキンッー


 突然飛んできた氷柱つららをジィナが牙で噛み砕いた。


「ぐあっ!」


「ユーゴ!」


 防ぎきれなかった隊員の腕に氷柱が突き刺さった。傷口からは血が滴り落ちている。


「『フェンリル』に乗せて王宮で治療を!アンドレウも一緒に行ってください!団長に『氷孤』が出たと伝えてください!」


「はい!」


 アンドレウはユーゴを『フェンリル』に乗せ、自分もその後ろに乗ると王宮に向かった。


「ジィナ、ちょっとキツイかもしれないですが耐えてください」


「ギャッ」


 ロイの言葉に応えるようにジィナは戦闘体制に入った。

 目の前には真っ白な毛並みの狐。3mはあろう体躯と口元から覗く鋭い牙。聖獣の中でも上位に立つ『氷孤』がロイたちの前に立っていた。


「グゥルルル、ギャウ!!」


 『氷孤』が作り出した氷柱がいくつも飛んできた。 

「ジィナ!火焔かえん!」


「ゴォーーーゥ」


 ジィナが口から炎を吐き出し氷柱を溶かしていく。だが数が多く全てを防ぐことは出来なかった。


ーガキンッー


ーガキン ガキンッー


 飛んでくる氷柱を剣で叩き落とす。


「『氷孤』の周りを炎で囲います。隙をついて鎮静剤を打つので援護をお願いします!」


 ジィナと妖精の炎で『氷孤』を取り囲み、隊員たちが気を逸らしている隙に背後からロイが鎮静剤を打とうとしていた。その瞬間


「グルゥ ギャーーーゥッ」


ーブワッ ピキピキピキー


 『氷孤』が咆哮を上げた。


 同時に強烈な殺気と冷気が辺りに広がり、炎も周辺の森も全て凍らせてしまった。


「っ!?みんな大丈夫ですか!?」


「っはい!炎が壁になったおかげでなんとか!」


「隊長!1人負傷です!右腕が凍りました!」


「こちらは全員無事です!」


 海斗も他の隊員も負傷者は出たものの無事が確認できた。しかし形勢は悪いままだ。


「負傷者は下がって!光の妖精を送ります!木と大地の力で『氷孤』を捕縛します!契約してる者は援護を!絶対にここから先には行かせない!!」


「「「「はい!」」」」


ーメキメキメキ ドゴッボコッー


 木と大地の妖精の力で『氷孤』の足を地面に縫いつけ、体に木の枝を巻きつけて動けないよう捕縛した。


「これで鎮静剤を打てば・・・っ!?全員離れろ!!」


ーピキ ピキ ッドッガーンー


 ロイの言葉で『氷孤』から離れた直後、海斗の体に強い衝撃が走った。

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司書兼異世界案内人の渡瀬さん 水無月 @negum-infinity

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