第49話 それぞれの動き

 学校の隣りの図書館にも立ち寄り、その先の宿屋の店主に話を聞いて巡回は終了した。


「ちょうど終礼の時間になりますね。演習場に向かいましょう。はじめての巡回はどうでしたか?海斗くん」


「けっこう大変で驚きました」


「毎日の巡回は小さな変化を見逃さないためでもありますが、みなさんに安心してもらうためでもあるんです」


「大切な仕事ですね」


 演習場に並び終礼がはじまった。


「揃ったな。巡回は第3部隊だったな。ライアン報告を」


「はい。特に変わりなく異常ありませんでした。学校では森での実習を暫く中止にするようです」


「そうか。巡回を強化しているがその方が安全だな。ご苦労だったな。ほかに報告はあるか?」


「団長、訓練用の模擬刀がいくつか使いものにならなくなりました」


「わかった。オスカーさんに頼んでおく」


「ありがとうございます」


「不寝番は引き継ぎをしっかりしておけよ。魔獣の異変についてはまだ調査中だ。もし巡回中に遭遇したら駆除して構わない。ただし無理はするな。逃げて応援を呼べ」


「「「「「はい!」」」」」


「以上だ。解散!」


「「「「「お疲れさまです!」」」」」


「団長、お疲れ様です。マリアーニさんがたまには顔を見せてと言ってました」


「最近行けてないからな。明日の昼に行ってくるか。海斗、はじめての巡回はどうだった?」


「大切な仕事だということが分かりました」


「そうか。慣れたら不寝番もしてもらうからな」


「はい。お疲れ様です」


「お疲れ様です」


「お疲れさん」


 その後数日は何も進展はなく、平和な日が続いていた。


 ーーーー


『異世界案内所本部』


ーカタカタカター


「よし、これで・・・ん?コイツは・・」


 様々な機械やたくさんの画面に囲まれた部屋で渡瀬結人わたらせゆいとは2つのパソコンを操作していた。


「確かこっちでも・・・あった。でもいったい誰がどうやって?」


ーガチャー


「結人さん、お疲れさまです。交代します」


 結人はパソコンの画面を元に戻すと、声の主リーリエの方に振り向いた。


「もうそんな時間か。じゃああとはよろしくリーリエ」


「はい」


ーガチャー


 扉を出たところで結人は立ち止まり何か考えていた。そして今出てきたばかりの部屋の扉をそっと開けて中を覗いた。


ーカタカタカタ、タン、カタカタカタカタカタ、タンタンー


「異常なし。本日6名が渡る予定ですね」


 見たところ怪しいところもなく、思い過ごしかと扉を閉めようとしたときリーリエの様子が変わった。


ーカタカタカタカタカタカタカタカタカター


 先ほどの動きより速い動きでキーボードを叩くリーリエ。


「ん?勘づかれたか。そろそろリーリエコイツも潮時か」


 その声はリーリエの声とは違う、少し低い成人男性の声だった。


「・・・・・っは!?あれ?私また寝てた?最近疲れているのかな。気を引き締めないと」


 リーリエは両頬を軽く叩くと再びたくさんの画面を見ながらキーボードを叩きはじめた。


「今のはいったい誰だったんだ?リーリエは気づいていないみたいだな」


 本部の廊下を歩きながら、結人は妹の繋に報告するため考えを整理しようと歩みを速めた。


ーーーー


「決行は3日後だ。それぞれ持ち場はわかってるな?は先に渡しておく。全て使って構わない。できるだけ多く、そして強い魔獣や聖獣を狙え」


「「「「「「了解!!!」」」」」」


 日付が変わる頃『魔獣の森』の一画で黒いマントの集団が集まって何やら話していた。


「騎士団と黒師団の奴らが来たら構わず薙ぎ倒せ。下っ端は魔獣たちが勝手にやるだろう。隊長クラスに集中しろ。ただし狂った魔獣たちは見境ないからお前たちも殺されないように気をつけろよ」


「「「「「「了解!!!」」」」」」


が探している男がいたら生捕りにして連れて来い。多少の怪我は構わないが殺すなよ」


「「「「「「了解!!!」」」」」」


「では解散!」


 男の言葉で黒いマントの集団はそれぞれ森の中に散っていった。


ーーーー


ーバサバサー


「どうしたコーギ。何かあったか?」


 ゼノンは夜の王都を巡回する『フギン』のコーギが早々に戻ってきたことで、休もうとしていた体を起こしてバルコニーに出た。


「メモリアはいないようだな」


 コーギの片割れの『ムニン』のメモリアは巡回を続けているようだ。

 ゼノンが右腕を前に出すとその腕にコーギが飛び移った。


「どうした?・・・そうか、『スコターディ』が動き出したか。黒師団も把握しているだろうが、陛下に報告しておこう。ご苦労だったな。引き続き頼む」


 ゼノンが体をひと撫でするとコーギは再び漆黒の空へと飛び立っていった。真っ黒の体はすぐに空に溶け込み見えなくなった。


ーーーー


「ヴァレリオ、捕まえたあの男何も話さないぞ」


「そうか。まぁそう簡単にはいかないだろう。だが奴が持っていたあの液体は魔獣から検出されたものと同じだった。奴らがこの異変を起こしていることに間違いない」


「ああ。どこで手に入れたのかが分かればいいんだけどな」


ーコンコン ガチャー


「団長、偵察にいっている隊員から報告です。『スコターディ』が何やら計画しているようで、近々大きな動きがあるようだと」


「ちっ、わかった。あの男は牢にぶち込んでおけ。対策を考える。皆を集めろ」


 慌ただしくなった部屋の中、ヴァレリオは窓から覗く月を静かに見ていた。

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