第48話 はじめての巡回と隊長の重み

 海斗もそろそろ巡回に同行してみろとゼノンに言われ、ライアン率いる第3部隊に混ざり初の巡回に出ていた。


「巡回は3班に分かれて町中と森を周ります。今日は僕たちと町中の巡回をしましょう」


 ライアンと隊員5人、そして海斗で町の西側から1日かけて町全体を周る。


「まずは『ラプレーサス』に行き何かトラブルなどないか確認します」


 中に入り受付の女性に声をかけるライアンの後ろで、海斗は行き交う人を見ていた。


「おはようございますレイティアさん。何か変わりはありましたか?」


「おはようございますライアンさん。特に問題はありません。トラブルなどの報告も上がっていません」


「そうですか。何かありましたらいつでも声をかけてください」


「ありがとうございます」


 『ラプレーサス』を出るときロビーに目を向けた海斗は、こちらを見る男と一瞬目が合った気がした。


 市場を通りながら違法な物がないかを見て、診療所で問題がないか確認したあと南側の店舗と居住区へ向かった。

 裏路地に入り細い小道にも目を配りながら異常がないか確認をしていく。

 表とは違い、裏にはアンティークショップや昔ながらのカフェ、インテリアショップなど落ち着いた店が多くみられた。


「こんなところにもお店があったんですね」


「目立たないですが老舗が多く、常連の方や貴族の方々にも愛されています」


 ひと通り見て周るとちょうどお昼になったため昼食を食べにカフェに入った。


ーカランカランー


「いらっしゃいませ」


 店内はアンティーク調で、年配の夫婦2人だけで営んでいるそうだ。


「騎士団の方かい?ご苦労さまです。ご注文はお決まりですか?」


「はい。ランチセットを人数分お願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 夫人が注文を聞くと奥の調理場にいるご主人が調理をはじめた。時々2人で何か話しながら笑い合っているのを見て、海斗はなんだか温かい気持ちになった。


 運ばれてきたランチセットはパスタとサラダ、魚のフライにスープとなかなかボリュームあるメニューだった。味もとても美味しく、食後にデザートとコーヒーもあり隊員全員が大満足だった。

 お会計はライアンが全員分を払ってくれた。


「ご馳走様でした。とても美味しかったです。」


「それはよかったわ。若い子のお口に合うか心配だったのよ」


「また他のメニューを食べに来ます」


「あら、ありがとうございます。ゼノンさんにもよろしく伝えてください」


「ゼノンさん?」


「団長はここの常連なんですよ」


「ここ最近は忙しいみたいで顔を見てないのよね」


「そうですか。伝えておきます。ではご馳走様でした」


ーカランカランー


「ライアンさん、ご馳走様です。ありがとうございます」


「はい。次は表の通りと東側の学校や図書館の方を周ります」 


 裏路地から表の通りに出てお店を確認しながら通りを抜けていく。

 東側の通りに入り『ロンドデスモース魔獣学校』に着いた。ライアンが守衛室に声をかけて話をしている。


「では中に入りましょう」


「学校の中も確認するんですか」


「先生方から話を聞いたり子どもたちの様子を見たりします」


「中に入るのははじめてです。ほんとに大きいですね」


「右から幼等部、中等部、高等部の校舎になってます。それぞれの校舎に職員室があります。校長室は高等部にのみです。まず校長室に向かいます」


ーコン コンー 


「騎士団第3部隊隊長ライアン・フローレスです。」


「どうぞ入ってください」


 ライアンの後に続いて中に入ると、そこには白髪の長い髪をひとつに結び立派な顎髭を蓄えた初老の男性が座っていた。


「失礼します。フォンテーヌ校長、変わりはありませんか?」


「ええ、大丈夫です。ただ安全のために森への実習を暫く中止することにしました。子どもたちには我慢を強いますがしょうがありません」


「そうですね。こちらも巡回を強化してます。特に夕方から夜は近づかないようお願いします」


「はい。みなさんも毎日ありがとうございます」


「これから校舎をまわってきます」


「よろしくお願いします」


 校長との話が終わるとそのまま高等部から順番に校舎をまわっていった。


「高等部は主に実践的な勉強が多くなります。模擬刀を使った演習や実際に妖精や聖獣と触れ合って経験値を積んでいきます」


 教室では魔獣について授業をしており、外を見ると別のクラスが実践演習をしていた。


「けっこう本格的なんですね」


「定期的に騎士団からも特別講師として教えに来たりしてます。僕は魔獣や聖獣の生態や契約について特別授業に来てます」


 その後中等部と幼等部をまわった。幼等部はちょうど帰る時間だったため、迎えに来た保護者たちで混雑していた。


「あらライアンくん、こんにちは」


「フランソワ夫人、こんにちは」


「うちのが迷惑かけてないかしら?」


「ブレーズさんには支えていただいてます。とても頼りにしてます」


「それならよかったわ。ガンガン使ってちょうだいね」


「ありがとうございます。失礼します」


 幼等部を出て正門に向かう。


「お知り合いですか?」


「うちの隊の隊員の奥様です。子どもが幼等部に通っているみたいですね」


「家族のことまで覚えているんですね。大変ですね」


「大切な家族の命を預かっているんです。隊長として当然ですよ」


 先を歩き出したライアンの背中を海斗は眩しそうに見つめた。

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