第45話 火の妖精フォティアと帰還

 馬車を降りて少し離れたところで火の妖精と向かい合う。


「えっと、俺でよければ一緒に来ますか?」


 海斗の言葉に嬉しそうに海斗の周りを飛ぶ妖精。


「ははっ、それじゃあ契約をしてもいいですか?」


 海斗が手を出すとその上に妖精が降りてお互い見つめ合う形になった。顔を近づけ妖精が海斗の額と自分の額をコツンと合わせた。


 その瞬間、海斗と妖精は光に包まれた。そして数秒後には光がだんだん小さくなり最後には消えていった。


 ゆっくりと閉じていた目を開けた海斗の前には、契約を終えた火の妖精が嬉しそうに笑っていた。


「おめでとうございます。初めての契約妖精ですね」


「おめでとう。名前はどうするんだ?」


 ロイとロドルフに祝福され照れ臭くなった海斗の頬は少し赤みを帯びていた。


「名前ですか。火の妖精だから・・・」


 名前を考える海斗を期待の目で見つめる妖精。


「・・『フォティア』はどうですか?」


 フォティアと呼ばれた妖精は名前を気に入った様子で海斗の頭の上に座った。


「気に入ったみたいだな」


「それにしても随分と懐いてますね」


 結果的に海斗が火を点けたことで元気になったが、何故そこまで懐いているのか不思議だった。


「契約したあとはどうしたらいいですか?」


「名前を呼べばすぐ来てくれるから、普段は自由にさせて大丈夫ですよ」


「だいたいの奴は今まで通り森で暮らしながら、呼ばれたら力を貸す感じだな」


「そうなんですね。じゃあフォティアも戻っていいですよ?」


 まだ頭の上にいるフォティアに声をかけると、フォティアは海斗の髪を引っ張り何か文句を言っていた。


「イタタタタ、フォティア痛いです」


 引っ張るのをやめて海斗の前に降りると、フォティアは大きく首を振った。


「帰りたくないんですか?」


 その言葉に今度は大きく頷き、フォティアは再び海斗の頭の上に戻った。


「フォティアみたいにずっと一緒にいることもあるんですか?」


「ないこともないですが、珍しいです」


「まぁ本人がいいならいいんじゃないか?」


 ロイとロドルフの言葉を聞き、海斗はとりあえずこのまま一緒に帰ることにした。


 森を出て王都の北門に到着すると門番に馬車を預けて門をくぐった。イリョスとソールともお別れをし、ゼノンに帰還した旨を伝えるため王宮へと向かった。


 王宮の西門から中に入り、とりあえず演習場に行ってみると第1部隊と第2部隊が合同訓練をしていた。


「キッド」


「ん?おう、無事に戻ってきたな」


 訓練の指揮をとっているキッドにロイが声をかけると、キッドはニヤッと笑った。


「ええなんとか。団長はどこにいるかわかりますか?」


「今は陛下のところに行ってる。けっこう時間経つからそろそろ戻ってくるんじゃないか?副団長もお疲れさまです」


「ああ、お疲れさん。留守をありがとな」


「それなら一度宿舎に帰って荷物を置いてからもう一度ここに集合しましょう」


 ロイの言葉でそれぞれ部屋に帰り戻ってきたのと、ゼノンが陛下のところから戻ってきたのがちょうど同じタイミングになった。


「あっ、団長!お疲れさまです。ただいま戻りました。大きな怪我もなく全員無事です」


「みんなご苦労だったな。ロイから報告はもらっている。中途半端になってしまって悪かったな。今日はゆっくり休んでくれ」


「「「「「お疲れさまです」」」」」


 ゼノンへの報告を終えてその日は解散となった。海斗も部屋に戻ろうとした時ゼノンに呼び止められた。


「海斗、初めての視察はどうだった?」


「いろいろありましたが良い経験になりました」


「そうか。ソイツは火の妖精か」


 海斗の頭の上にはまだフォティアが座っている。その姿を見てゼノンが聞いた。


「はい。『フォティア』です。ノースヴェルダンの森で出会ったんですが、ずっと付いてきて離れなかったので契約しました」


「おめでとう。よかったな。フォティア、海斗をよろしくな」


 ゼノンの言葉にフォティアは大きく頷いた。


「ありがとうございます。でも自由にしていいと言っても帰らなくて、普段も連れていても大丈夫ですか?」


「問題ない。何も支障はないからな。時間があるときは『対話』をしたりコミュニケーションをとりながら信頼関係を築いていくといい」


「はい。あと、ロイさんから報告があったかと思いますが俺が狙われているって・・」


「ああ、それに関してはまだはっきりと断定できないが警戒しておくことに越したことはない。1人で森には行かないほうがいいだろうな」


「そうですか。わかりました」


「呼び止めて悪かったな。ゆっくり休め」


「はい。失礼します」


 海斗は不安な気持ちを抱いたまま部屋へと足を進めた。

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