第44話 別れと火の妖精
次の日、会議室に集まった全員にロイはゼノンからの指示を伝えた。
「本日をもって一旦異変の調査を中止します。俺たちはこのまま王都に戻ることになりました。そしてこの調査は黒師団が引き継ぐかたちになります」
「黒師団・・・」
「それじゃあ俺たちはここまでか」
「
「そういうことです。ペルサキス公爵には俺からお伝えしておきました。ディゴリーさん、隊員の皆さん、短い間でしたがありがとうございました」
ロイはノースヴェルダンの騎士団隊員たちに頭を下げた。
アレッシオが大通りを案内してくれるとのことで、身支度を済ませて南門まで歩いて向かうことになった。
「せっかく来たんだからゆっくり見ていってくれ」
大通りには魚屋、肉屋、花屋、八百屋、雑貨屋、武器屋、薬屋の他に飲食店も建ち並んでいた。
「見たことないものばかりです。やはり王都とは違うんですね」
海斗は建ち並ぶ店を見ながらロイに話しかけた。
「ノースヴェルダンは1年を通して気温が低いので、野菜や花などは王都と同じ品種でも大きさや色が違います。ハンサイなど寒い地域でしか育たないものもあります」
ハンサイとは白菜に似た野菜で大きさは白菜の倍くらいあり、寒ければ寒いほど育つそうだ。
「肉も寒い地域のほうが脂肪が蓄えられていてうまい。ベアやグルニなんか最高にうまい」
「グルニは焼くのもいいが、油で揚げるとジューシーでうまいな」
ロドルフとアレッシオはグルニの調理法で盛り上がっていた。グルニは巨大な豚で脂がのっていて美味しいそうだ。
「薬草もこちらにしか自生しないものもあるので帰りに少し採っていきましょう」
「そうだな。アレッシオ、世話になったな」
「いや、こっちこそいろいろ悪かったな。落ち着いたらゆっくり飲もう」
「あぁ楽しみにしている。それまでくたばるなよ」
「そっちこそ」
互いに顔を合わせてニヤッと笑うとグータッチしてロドルフは馬車に向かった。
「ディゴリーさん、お世話になりました。最後までできなくてすみません」
「いや、十分助かった。気をつけて帰れよ」
アレッシオに見送られてロイたちを乗せた馬車はノースヴェルダンを後にした。
暫く走ったところで休憩のついでに薬草をいくつか採取した。
「このくらいでいいですかね。帰ったら医療班と薬屋のエリックさんに渡しましょう」
「たくさん採れましたね。雪の中でも育つ薬草もこんなにあるんですね」
「はい。特にこのスノーカロルは解熱作用があって、ここでしか手に入らないので貴重ですよ」
その他にも火傷に効くものや止血剤に使用するものなど様々な種類の薬草が麻袋いっぱいに入れられた。
「そろそろ出発するぞー」
ロドルフの声でそれぞれ休憩していた隊員たちが馬車の周りに集まった。
ーガサガサー
集めた木の枝を組み立てて火を起こそうとしていると、草むらから何かが飛び出してきた。
「「「!!!???」」」
ヒラヒラと辺りを飛んで回り、その何かは組み立てた枝の上に
「火の妖精だな。珍しいな」
「そうですね。あまり寒い地域では見かけないですよね」
現れたのは火の妖精だった。寒い地域や雨の多い地域には珍しく、暖かい地域に多く見かける火の妖精が何故
「なんか元気がないように見えますけど大丈夫でしょうか」
海斗が少し近づいてみても逃げる様子もなく、枝の上に座り込んで動かなかった。
「寒さにはあまり強くないですから弱っているのかもしれないですね」
「その枝に火を点けてやれば少しは元気になるんじゃないか?」
ロドルフに言われて組み立てた枝に火をつけると、どんどん火が大きくなった。
すると座り込んでいた妖精がその焚き火の周りをグルグルと元気に飛び回りはじめた。
「元気になったみたいですね」
「俺たちも夕飯にするか」
夕食はロドルフが作った、駆除したジャイアントベアの肉と野菜の簡単なスープとパンを食べた。
その間も先ほどの火の妖精は飛び回っていて、何故か海斗の頭の上に落ち着いていた。
「気に入られたみたいだな」
「なんで俺が?」
「火を点けたのが海斗くんだったからですかね?」
その後もずっと海斗の周りから離れなかった妖精は、そのまま寝る時も変わらなかった。
次の日の朝、海斗が起きた時も妖精はまだそこにいた。
「おう、起きたか。おはよう」
「おはようございます。ロドルフさん」
「
「そうなんですか?どうして帰らないんでしょうか」
朝食を食べて馬車に乗ったあとも付いてきて、結局王都の北門近くの森の外れまで来てしまった。
「どうしましょう。ずっと付いてきてしまいましたね」
「海斗くんを気に入っているみたいですし、契約してみたらどうですか?」
「えっ!?初めてですけど俺にできるでしょうか」
「誰にだって初めてはある。懐いてるようだしレベルも問題ない。いい機会だ、やってみろ」
ロイとロドルフに背中を押され海斗は初めて
の契約に挑戦することになった。
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