第41話 伝説の神獣と狙われる者

 両手を上げて武器を持っていないことをアピールしながら少しずつ一角獣ユニコーンの後ろに移動する。


 子供から意識を少しでも逸らすことができればとラザロスは一角獣ユニコーンに話しかけた。


「俺たちは危害を加えるつもりはない。その子を助けたいだけだ」


 子供に背を向けるように向きを変えた一角獣ユニコーンにラザロスは1歩近づいた。


「ほら、何もないだろ?」


 その間にネストルと海斗は子供の正面に回り込んでチャンスを伺っていた。


「このままだと危ないから薬を飲ませたいんだ。お前も心配だろ?」


 さらに1歩近づこうと足を出した時だった。


ーガサガサー


「ガルルル」


 ラザロスと一角獣ユニコーンの右側、ネストルと海斗の反対側からホワイトウルフが1頭飛び出してきた。


「Σ!?ホワイトウルフ!?さっきのとは別の個体か」


 一角獣ユニコーンを見ると、耳を後ろに倒し鋭い目つきでホワイトウルフに威嚇していた。


 ラザロスも剣を構えて戦闘態勢をとる。


「ヴーガゥガゥッ」


 ホワイトウルフが狙ったのは一角獣ユニコーンだった。

 飛びついてきたホワイトウルフを鋭い角で突き上げる一角獣ユニコーン


「きゃぅんっ」


 刺さりはしなかったが脇腹に傷を負わせることができた。


「海斗くん、今のうちに薬を飲ませます。僕が口から手を入れて飲ませるので、海斗くんは手で口を開けてください」


 一角獣ユニコーンが子供からホワイトウルフに意識が向いているうちに2人は行動に出た。


 姿勢を低くして素早く子供の側に行き、海斗が両手で口をこじ開ける。そこにネストルが手を入れて止血剤と造血剤を喉の奥に入れて飲ませた。


「あとは傷口を塞げたらいいんだけど、癒し系の力は僕もラザロスも契約してないからな」


「このままだと感染症や傷口が化膿して危ないです」


「あぁわかっている」


「ヒュ、ヒーン」


「「「!?」」」


 薬を飲んで少し楽になったのか、子供の一角獣ユニコーンが鳴き声をあげた。

 それを聞いた一角獣ユニコーンが子供の顔に鼻を近づけた。


「ガゥーガウッ」


 それを狙ったかのようにホワイトウルフが一角獣ユニコーンに飛びかかった。


ーカキンー


「っく、立派な牙だな。咬まれたら痛そうだっ」


 2頭の間に滑り込みホワイトウルフの口を剣で受け止めたラザロスは、力一杯それを弾き返した。


ーガサガサ ガサガサー


 一回転して地面に着地したホワイトウルフの後ろから、さらに2頭のホワイトウルフが現れた。


「ヴゥーガウッガゥ」


「グルルル、ガウガウ」


「おいおい、マジかよ」


「ラザロス、僕も加勢するけどこのまま庇いながらは厳しいよ。どうする?」


「とりあえず子供は一角獣この子に任せよう。海斗くん、剣を構えて。今は自分を守ることだけを考えて」


「はいっ」


 海斗はわずかに震える手で剣を構えてホワイトウルフと対峙した。


「こんなタイミングよく異変の魔獣が何頭もっ」


「ガゥッ」


ーカキンー


「まるで狙ったかのようですねっ」


「ガウーッ」


ーカキンー


 剣で応戦するラザロスとネストル。


「キリがないな。パーゴス、動きを止めたいから足を凍らせてくれ」


 ラザロスに呼ばれた氷の妖精がホワイトウルフの足を凍らせて地面に縫い付けた。


「まだパーゴスの力は弱いからそんなに長くはもたない。今のうちに駆除を」


「了解。ごめんね」


ーザシュー


「悪いな」


ーザシュー


 苦しまないように急所を狙い一撃で終わらせた。


「グルルルーガウッガゥッッ」


ーバキバキバキー


「「Σ!?海斗くん!!」


 残っていた最後の1頭が自力で氷から抜け出して海斗に飛びかかった。


「っ!?」


 海斗は無我夢中で剣を振り下ろしたが、その剣はホワイトウルフに届くことなく地面に振り落とされた。


 もうダメだと誰もが思った。海斗は鋭い牙が目の前に迫るのをスローモーションのように感じながら目を閉じた。そしてくるであろう痛みに備えて歯を食いしばった。


ーブワッ ヒュッー


 海斗は痛みがこないことを不思議に思い目を開けた。

 目の前に迫っていたはずのホワイトウルフはどこにもおらず、2頭のホワイトウルフが倒れているだけだった。


「えっ?」


 訳がわからずラザロスとネストルに目を向けると、2人は驚きの表情で固まっていた。


「今の見たか?」


「あぁ、速すぎて残像しか見えなかったけど」


「「『白龍』だ」」


 襲われそうな海斗の目の前を物凄い速さでが通り過ぎた。目で追えないほどの速さでハッキリとは見えなかったが、その体は白い鱗で覆われていた。


「本当に存在していたんだな」


「実際に見た人はほとんどいないからね。でも何でこんなところに」


 白龍は神獣であり、その姿を見た者はほとんどいないほど伝説的な存在でもあった。


「俺を助けてくれたんでしょうか?」


「理由はわからないけど無事でよかった」


「どうやら一角獣この子も俺たちが敵ではないとわかってくれなたみたいだ」


 ホワイトウルフから護ったことで認めてくれたようだった。


「あれ?子供この子の傷口が塞がっています!」


 海斗が子供の傷の様子をみようと確認すると、さっきまであった咬み傷が綺麗に塞がっていた。


「これも白龍でしょうか?」


「いや、わからない。白龍はまだその能力や生態についてわからないことばかりなんだ」


「伝説と云われるくらいだしね。今まで契約した者もいないと聞いたことがあるよ」


ーキュ ヒヒーンー


 傷が塞がり回復した子供が元気に立ち上がった。そこに一角獣ユニコーンが寄り添う。


「よかった」


 その様子に海斗は心の底から安心した。


(ありがとう。貴方たちのおかげでこの子は助かりました。今、この森は危険です。正気を失った魔獣を何度も見ました。あれは自然の力ではありません。たびたびの人間が森を出入りしていると聞きました。貴方たちも気をつけてください)


「えっ!?なんで?」


 いきなり頭に響いた『コエ』に海斗は驚き一角獣ユニコーンをみた。


(貴方のことは噂で聞きました。どうやら本当に綺麗な『気』を持っているみたいですね。気をつけてください。狙いは貴方かもしれません)


 それだけ伝えると一角獣ユニコーンは子供と一緒に森の中に消えていった。


「どーゆうこと?」


 自分からではなく一角獣むこうから『対話』をしてきたことの驚きと、狙いが自分かもしれないという驚きで海斗は頭がショート寸前だった。

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