第42話 久しぶりの渡瀬さんとあの男

 ーヒュッ トンー


「さすが『白龍』ですね。間に合ってよかったです」


「ギリギリだったけどねー。人使いが荒いなぁ繋ちゃんは」


「たまには役に立ってください。それにさりげなく傷も塞いでたんですね。いつの間に光の妖精と契約してたんですか?」


「ついでにねー。実はけっこう前なんだけど言うことでもないかなぁって」


「そうですか。とりあえず今日のところは戻りますか」


「そうだね。ホワイトウルフこの子は持っていくよ?いろいろ調べたいから」


「はい。何かわかったら教えてください」


 海斗たちから少し離れた森の中、ゆっくりと飛ぶ白龍の背に乗ったまま会話する渡瀬と1人の男。


「じゃあこのまま王都に飛んでくよー。落とされないでねぇ」


「帰りはゆっくりでもかまいませんけど」


「それじゃあつまらないから飛ばすねー」


ーヒュッー


「っちょっ、っと」


 渡瀬の返事を聞かずに男は白龍を飛ばした。


ーーーー


 一角獣ユニコーンが去ってからしばらくしてロイたちが戻ってきた。


「すみません、遅くなりました。戻る途中で3頭のアルミラージに遭遇して時間をとられました」


「こっちもホワイトウルフが3頭、まるではかったかのようですね」


「そうですね。少し気になります。とりあえず全員無事でよかったです」


「無事ではあったんですが・・」


「何かありましたか?」


「助けてくれたんです。『白龍』が海斗くんを」


「『白龍』が?」


「残像しか見えなかったけど、あれは『白龍』でした」


「本当ですか?俺も話でしか聞いたことがないですが、『白龍』だとしたらかなり珍しいですね。実際に目撃した人はほとんどいないですから」


一角獣ユニコーンも無事に森に帰りました。子供の傷もいつの間にか塞がっていて、それも『白龍』でしょうか?」


「能力についてはまだ分からないことが多いですが、癒しの力があるとは聞いたことないですね」


「では他の『何か』が?」 


「可能性はあります。ですが確かめようがないですし、みんな無事ならそれでいいです。馬車まで戻りましょう。遅くなってしまいました」


 ホワイトウルフの亡骸を1頭だけジィナに任せて、ロイたちはダミアンたちとの待ち合わ場所まで少し足速に戻っていった。


「あっマーティンさん、よかった」


「すみません、遅くなりました」


「こちらは何もなかったですが、そちらは何かあったみたいですね」


 予定より遅れて到着したロイたちを見て、ダミアンは何かあったのだとすぐにわかった。


「はい。一角獣ユニコーンの親子がホワイトウルフに襲われているところに遭遇しました。無事ではあったんですが、タイミングを謀ったかのように後からさらにホワイトウルフとアルミラージが襲ってきて手間取りました」


「それは誰がが近くで見ていたということですか?」


「わかりませんが、やはり人為的の可能性もあります」


「そうなると狙いが何かですね」


「はい。ひとまず戻って副団長とディゴリー団長に合流しましょう。あちらも何か収穫があるかもしれません」


「そうですね」


 ロイたちは馬車に乗り込んで町へと向かった。


「ただいま戻りました」


「お疲れさん.こっちも終わったところだ。何かあったみたいだな。ジィナがホワイトウルフを運んできた」


「はい。そちらはどうでしたか?」


「血液検査の結果がでた。それも含めて今わかっていることを精査するか」


「ロドルフ、その前に昼飯を食べるぞ」


「ん?あぁ、そうだな。悪い悪い」


「調査も大事だが休憩はしっかりとらないと。ロイくんもだぞ」


「え?あ、はい。気をつけます」


 アレッシオに促され昼休憩を挟んで1時間半後に会議室に集合すことになった。


 海斗は昼食を済ませたあとシャワーを浴びに部屋に戻った。シャワーを浴びている時も出てからも一角獣ユニコーンに言われたことが頭から離れなかった。

 狙いが自分かもしれないと一角獣ユニコーンは言っていた。だが何故?狙われるような覚えは何もない。


「いや、もしかして俺の能力を知っている誰か?」


 このことを言った方がいいのか、でも能力のことはロイとロドルフしか知らない。


「あぁあーーっもう!とりあえず隊長のロイさんには言っておこう」


 考えても答えが出なかった海斗は、結局隊長であるロイに話してどうしたらいいのか相談することにした。



「それではまず今日の報告を。森での調査ですが、ロバーツさんと隊を分けて東側と西側で調査しました」


「東側では約4km地点まで調査しましたが特に問題はありませんでした。やはり魔獣たちも警戒して出てこないようです」


「俺たちは西側の森約3kmの地点で2頭のホワイトウルフに襲われる一角獣ユニコーンの親子に遭遇しました。その後ラザロスとネストル、海斗くんを一角獣ユニコーンの護衛に残してホワイトウルフを引きつけて別行動をしてました。速やかに駆除して戻ろうとしたところ、3頭のアルミラージに襲われて手間取りましたが無事に駆除できました。アルミラージもやはり興奮状態でした」


一角獣ユニコーンまで被害に・・」


 アレッシオは驚きの表情を浮かべた後、眉間に皺を寄せ険しい表情をした。


「俺たちが子供の一角獣ユニコーンを治療しようとしていた時も、ホワイトウルフが3頭襲ってきました。まるで謀ったかのように」


「狙いが『』ではなく『』の可能性もあるな」


 ロドルフの言葉に海斗は体を固くした。


「あともう一つ、海斗くんがホワイトウルフに襲われそうになった時に『白龍』が現れて助けてくれました。速すぎて残像しか見えなかったですがあれは『白龍』でした」


「一瞬ですが瞳の色も見えました。白銀しろがねでした」


「「「「「!!!???」」」」」


 その場にいなかったダミアンたちも驚きを隠せない様子でラザロスを見た。


「まさか本当に存在していたのか」


「俺も話でしか聞いたことがないが、確か白い鱗と白銀の瞳を持ちドラゴンの中で最も速く飛ぶことができるとか」


 アレッシオとロドルフも話でしか聞いたことがなく、存在すら疑うくらいであった。


「怪我をしていた子供の一角獣ユニコーンも、いつの間にか傷口が塞がっていて・・」


「能力は分からないが関係はあるかもしれないな」


一角獣ユニコーンの親子は無事に帰っていきました。こちらは以上です」


「よし、俺たちの方だが・・とりあえずこれを見てくれ」


 ロドルフは解体結果と臓器と血液検査の結果が書かれた紙をテーブルに広げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る