第40話 遭遇と囮

 森の調査2日目は2km〜4km圏内を調査するため、途中まで馬車で移動することになった。

 ロドルフとアレッシオに見送られ、街を出てから10分ほどの地点で馬車を停めた。


「ここから東側と西側に分かれましょう。馬車の護衛を2人残して、俺とロバーツさんで隊を分けます」


「わかりました。お昼頃に一度ここに集合で大丈夫ですか?」


「そうですね。では気をつけてください」


「はい。お互いに」


 海斗はロイの隊と一緒に西側の森に入っていった。やはり森はとても静かだった。

 視覚、聴覚、嗅覚を使い注意深く歩いていく。1時間ほど歩いたところで少し休憩をとり、また歩くを繰り返しそろそろ戻ろうとしていた時だった。


「きゃぅんーー」


「ガルルーガゥゥ」


ーバキバキ ドスンー


 進行方向の右、北側の奥から獣の叫び声と樹々が倒れる音が聞こえた。


「「「「「っ!!!???」」」」」


「そんなに離れていないですね。行ってみましょう」


 音がした方へ走って向かっていると、再び叫び声が聞こえてきた。


「近いですね。ここからは慎重に近づいていきます」


 木の影に隠れながらゆっくりと足を進める。10m先くらいに倒れた樹々が見え、その奥に何か動くものが見えた。


「隊長、あれホワイトウルフじゃないですか?2頭見えます」


 ちょうど木の間から真っ白な毛並みと牙を剥き出しにした顔が見えた。牙からは赤い血が滴り落ちて、口の周りを染めていた。


 2頭のホワイトウルフが唸り声をあげて狙う視線の先、同じように真っ白な毛並みの馬の姿が見えた。その額には1本の角。『一角獣ユニコーン』だ。


「なんでこんなところに一角獣ユニコーンが?」


 一角獣ユニコーンは森の奥深くを棲息域にしている聖獣で、滅多に人前にも現れない。


「足元に何か倒れています」


 一角獣ユニコーンはその倒れているものを護るように前に立っていた。

 ロイは確認するため慎重に移動して一角獣ユニコーンの斜め後ろに回り込んだ。


「Σ!?あれは・・子供の一角獣ユニコーンか」


 倒れていたのは、まだ小さな子供の一角獣ユニコーンだった。


「子供を護りながら2頭を相手にするのは一角獣ユニコーンでも難しいですね。ホワイトウルフは興奮状態ですし、恐らくが原因でしょう。まずホワイトウルフの注意をこちらに逸らします。意識がこちらに向いたら引きつけて攻撃、そしてそのまま2頭を引き連れてここを離れて駆除。念のためこの場にも3人残って一角獣ユニコーンを護衛。可能なら子供の治療を。」


 戻ってきたロイが海斗や隊員に指示を出す。


「海斗くんはここにいてください。ラザロス、ネストル、ここはお願いします」


「「はい」」


ーガサガサー


ーシュッ、グサッー


 ロイが小型ナイフを投げた。

 ちょうどホワイトウルフの前脚のすぐ横に刺さり、2頭がこちらに顔を向けた。


ーシュッ、グサッー


 さらにもう1本、今度は体を狙って投げたナイフはジャンプすることで避けられた。しかしこれで意識は完全にこちらに向いた。


「よし、行きますよ」


 3人を残してロイと隊員たちは走り出した。それに反応してホワイトウルフもロイたちを追いかけて森の中に消えていった。


 残された一角獣ユニコーンは足元の子供に鼻を寄せ、首から流れる赤い血を舐めていた。


「まだ息はあるみたいだな。ネストル、止血剤持ってたよな」


「あぁ、だが飲ませるのは難しいだろ。まず近づくことができるか」


「近づけないんですか?もうホワイトウルフもいないですし大丈夫じゃないですか?」


 海斗ははやく治療をしてあげたいのに、何故動かないのか分からなかった。


一角獣ユニコーンはおとなしそうに見えるが、手懐けるのは難しく獰猛どうもうな一面も持っている」


「それに子供が襲われて気が立っている。迂闊に近づかない方がいい。俺たちがいることは気づいているだろう。少し様子をみよう」


 一定の距離を保ったまま様子を伺う。


「光の妖精を連れているのはカリアスだったよな」


「今日はロバーツさんの方に付いている。呼び戻すには時間がかかる」


「キュッ」


「「「!?」」」


「そろそろ限界だな。強行突破するか?」


 倒れている子供の一角獣ユニコーンが吐血したようだ。まだこちらを警戒しているが、落ち着くのを待っている時間はなさそうだった。


「俺が囮になるからその隙に止血剤と造血剤を飲ませてくれ。海斗くんはネストルのサポートを頼む」


「わかった。・・失敗しくじるるなよ」


「そっちこそ」


 ラザロスはニヤッと笑って隠れていた木の影から一角獣ユニコーンの前に飛び出した。

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