第39話 調査と監視

 食堂で昼食を食べながら魔獣の調査について話をしていた。

 ちなみに食堂のメニューは北の町ならではの温かいメニューが多かった。魚介を煮込んだスープやうどんに似た麺をスパイスの効いた熱々の餡に絡めたものなど、どれも体が暖まりそうなものばかりだった。


「魔獣に襲われた地点は森の中でも比較的町に近い地点でした。ジャイアントベアはもっと南の方が棲息域のはずです」


「ジャイアントボアに襲われた馬車も、町から1〜2kmくらいしか離れていない地点だった。ホワイトウルフは棲息域でのことだったが、ジャイアントボアは同じように棲息域よりだいぶ外れている」


「全て町に近いところで襲われているな」


「もしかしたら人を襲わせるために敢えて町の近くでという可能性もありますね」


「だとしたら町から4〜5km圏内に絞って調査してみるか」


「では準備をして30分後に町の南門に集合にしましょう」


 食器を片付けて各自必要なものを準備をするため一度部屋に戻っていった。


「集まりましたね。今日は2km圏内を調査していきます。東側と西側で2つの隊に分かれましょう」


「こっちは俺と副団長とで隊員を分けます。ディゴリー団長は俺とお願いします」


「わかった。じゃあロドルフにはダミアンを付けよう。うちの第2部隊隊長だ」


「ダミアン・ロバーツです。よろしくお願いします」


「ロドルフ・シュヴァリエだ。よろしく頼む」


「ダミアンはこの辺りの森や魔獣について他の隊員より詳しい。頼りになるだろう」


「それは頼もしいな」


「団長、ハードル上げないでください」


「俺は事実を言ったまでだ。他の隊員は2人ずつで分かれる」


 海斗はロドルフとダミアンに付いていくことになった。


「では夕刻にまたここで落ち合いましょう」


 東と西にそれぞれ別れて森の中へと入っていった。

 森に入ってしばらくしても魔獣や妖精がいる気配はなく、海斗たちの足音が静かな森に響くだけだった。


「何も出てきませんね。この辺りの森ってこんなに静かなところなんですか?」


「いえ、普段はもっと妖精や魔獣の気配を感じますし、この辺りは氷や木、大地の妖精が多く棲息しているはずです」


「俺たち人間より魔獣たちの方が異変に敏感だろう。警戒するのは当然だ」


 それから数時間、アルミラージとバイボースに遭遇したが特に異変はなくすぐに走り去っていった。

 魔獣を詳しく知らない海斗にダミアンはわかりやすく説明してくれた。


「アルミラージは頭に角が生えたウサギです。ノースヴェルダンの個体は王都周辺の生態に比べて毛が長くモコモコしています。寒さに耐えるために進化したそうです。小柄ですが自分より大きな相手も倒すことができます」


「バイボースは巨大な身体と2本の角を持った牛で温厚な性格をしています。ただし怒らせると突進してきて、2本の角で攻撃してきます。角はとても丈夫で、高級な武器や防具、アクセサリーの材料にもなります」


 ダミアンの話を聞きながら先に進んでいくが何も収穫はなく、今日は戻ることになった。

 ちょうど夕刻時に森を出るとロイたちが既に待っていた。


「お疲れ様です。そちらはどうでしたか?」


「これといった収穫はなかったな。アルミラージとバイボースに遭遇したが異変は見られなかった。魔獣も妖精たちも警戒しているのかもしれないな。そっちはどうだった?」


「カタレフコスエラフィの亡骸を見つけました。恐らく他の魔獣に襲われたのではないかと思います。ジィナに屋敷の裏まで運んでもらってます。近くを捜しましたが魔獣は見つけられませんでした」


「陽が暮れてきた。今日はここまでにした方がいい。ペルサキス公爵には俺から報告しておく」


「お願いします。明日は朝からカタレフコスエラフィの解体と森の調査の二手に分かれましょう。血液検査は明日の昼にはわかるそうなので、午後はそれを元に一度情報を精査します」


「じゃあ解体は俺がやろう。森の調査にはダミアンを連れていってくれ」


「それなら俺も解体を手伝おう。ロイはダミアンと隊員を連れて森の調査に行ってこい」


「わかりました。お願いします」


 南門を抜けてそのまま宿舎まで戻り各自解散となった。


「ロイ、ちょっといいか?」


「はい、副団長何かありましたか?」


 宿舎の食堂に向かう途中のロイをロドルフは呼び止めた。


のことだが」


 人差し指を上空に向けてロドルフは切り出した。

 その先には真っ黒な鴉が同じ場所を旋回している。


「あれは『八咫烏』だよな?王都からずっと付いてきているが、誰の監視だ?」


「副団長は海斗くんの能力についてはご存知ですよね。陛下に能力について報告に伺った後から海斗くんの上空を飛んでいます。恐らく陛下の命で監視しているのだと思います」


「あぁ、出発前に団長から聞いたが・・なるほどな。逆に海斗に何かあったときもすぐに陛下に伝わるわけか」


「海斗くんは気づいていないみたいですが」


「気づかないままでいい。自分が監視されているなんて知る必要はないさ」


「・・そうですね」


 2人は上を見上げ、報告に向かうために王都の方向へ飛んでいく真っ黒な鴉を見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る