第36話 暴走と鎮魂
太陽の光で目が覚めた海斗は起き上がって辺りを見回した。何人かは起きているがまだ寝ている隊員が多いみたいだ。
「起きたか?おはよう。はじめての野営は寝れたか?」
「ロドルフさんおはようございます。不安でしたが寝れました」
「そりゃよかった。ここから先は気温が下がるから防寒しっかりしておけよ」
「はい。ロドルフさんは何をされてるんですか?」
「あぁ、イリョスとソールの食事とブラッシングだ。今日も頑張ってもらわないとだからな」
ロドルフにブラッシングされているイリョスは気持ちよさそうに目を細めている。その隣りでソールはムシャムシャとご飯を食べていた。
「おはようございます、海斗くん。よく寝れましたか?」
「おはようございます、ロイさん。意外と寝れました」
「それならよかったです。簡単に朝食を済ましたら出発しますから準備しておいてください」
「わかりました」
野営の後始末をして隊員たちが馬車に乗り込んでいく。
休憩と
「うわ雪だ」
外を覗いた海斗は久しぶりに見た雪に声を上げた。
「ノースヴェルダンに近づいてきたみたいですね」
「あと2、3時間で着くだろう」
ロイとロドルフが話をしていたその時、
「どうしました?」
ロイが
「すみません。この子たちが止まってしまって。それに何か唸り声が聞こえます」
「イリョスとソールが止まったのなら、何か異常を感じたんだろう」
「降りて様子を見てきます」
「俺も行こう」
ロイとロドルフが馬車を降りて様子を見に行った。海斗や他の隊員も外を覗いて辺りを見ている。
「なんだか空気が重いですね」
「何かが近づいてる気配を感じるな。気をつけろ」
ーガサガサー
「「Σ!?」」
茂みが大きく揺れた。
すぐに剣を構えて戦闘態勢に入った2人の前に、ジャイアントベアが2頭現れた。
「グルルルゥゥグァー」
興奮状態のジャイアントベアはロイに向かって大きな手を振り上げた。
「!?っ」
後ろに飛ぶことで回避したロイは、態勢を整えてロドルフに視線を送った。ロドルフはもう1頭のジャイアントベアと対峙している。
「なんだか様子がおかしいですね。目が血走ってます」
「あぁ、今は繁殖期でもないしジャイアントベアはもっと南の方が棲息域のはずだ」
「ガルゥゥ、グァァー」
「っと、正気ではないのは確かです」
「よっと。そうみたいだな」
ーザシュー
「ギャゥッッ・・グルルガゥーッ」
ロドルフがジャイアントベアの腕を切り付けた。
「全然効いてないな、こりゃ」
切り付けられても怯まず威嚇をしてくるジャイアントベアにロドルフは苦笑した。
「しょうがないですね。他に危害が出る前に駆除に切り替えます」
「了解」
するとロイの前に2匹の妖精が現れた。
「テレノ、アイツらの動きを封じてください」
(◎◆∞☆●□)
ーボコッボコッドガッー
ジャイアントベアの足元の地面が動き、足が地面に縫い付けられた。それでも抜け出そうと暴れる2頭にロイはさらに続ける。
「アルボル、首を絞めてください。苦しまないよう一瞬で」
(□△※●〜)
ーメキメキメキッー
近くにあった木の枝が伸びてジャイアントベアの首に巻きついた。ゴキっという音がすると2頭は力が抜けて動かなくなった。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
その言葉を聞いてテレノとアルボルは姿を消した。
「助けられなくてすみません。あなたたちの
倒れたジャイアントベアに触れながらロイは目を閉じた。
「俺の出番はなかったな。さて後始末はどうする?」
「ここに長居はしたくないのでノースヴェルダンまで運んでそこで調べます。気になることもありますし」
「そうだな。お前らもう出てきていいぞ。怪我はないか?」
その声に様子を伺っていた隊員たちが馬車から降りてきた。海斗もそれに続いた。
「近くにまだ魔獣がいるかもしれません。ジャイアントベアの調査と解体はノースヴェルダンで行います。少しペースを上げます。大丈夫ですか?副団長」
「あぁ、まだスピードは上げられる。
「お願いします。ジャイアントベアはジィナに運んでもらいます」
ロイとロドルフが話しているのを聞きながら、海斗はジャイアントベアを見ていた。
2mはあるだろう大きな体と、自分の顔くらいある手、その先にある鋭い爪。海斗ははじめて見る魔獣に、恐怖と好奇心が入り混じった複雑な感情を抱いた。
「海斗くん、大丈夫ですか?」
ボーっとしている海斗にロイが声をかけた。
「っはい。すみません」
「魔獣を見るのははじめてか?」
「はい。森に入るのもはじめてです」
「本来は無闇に人を襲ったりしないんですが、やはり何かが起こっているみたいですね」
「そうみたいだな。まぁ心配するな。最初は誰だって恐怖で動けない。いい経験ができたと思えばいいさ」
ロドルフは海斗の背中を励ますよに叩いた。
「そろそろ出発しましょう。ジィナ」
ロイが呼ぶと空から『ワイバーン』のジィナが飛んできた。
「すみませんがこのジャイアントベア2頭をノースヴェルダンまで運んでくれますか?」
隊員たちによって大きなシートに包まれたジャイアントベアを口に咥えて、ジィナは再び飛び立った。
「よし、出発するぞ。全員乗り込め」
その後を追うように馬車も走り出した。先ほどよりもスピードを上げて走るイリョスとソール。その蹄の音と馬車の走る音が静かな森に響いていた。
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