第35話 副団長がいたんです

 次の日海斗は最低限の荷物とメディカルボックスをテーブルの上に準備して朝礼に向かった。


「揃ったか?朝礼をはじめる。急で悪いが今日の昼にノースヴェルダンへ向けて視察隊を送ることになった。編成はロイを隊長として組んだ。今から呼ぶ奴はこのあと準備をして演習場ここに戻ってきてくれ。向こうは気温も低いから防寒対策もしっかりしていけよ。他の隊員は通常業務で頼む」


 その後ゼノンに呼ばれた隊員はそれぞれ準備のため宿舎に戻って行った。海斗も自分の部屋に荷物を取りに戻った。


「第1部隊は俺が付くが、俺がいない時は第2部隊と合同でキッドに頼む。以上だ、解散。」


 15分もすれば準備を終えた隊員たちが演習場に揃っていた。


「今回の視察はノースヴェルダン付近の森での魔獣の動向調査だ。最近魔獣同士の争いが多発していて住民にも被害が拡大している。原因究明と鎮静化、場合によっては討伐もあり得る。気を引き締めていくように」


「「「「「「はい!!」」」」」」


「向こうの騎士団支部と共同だから喧嘩するなよ。それと、ロドルフもロイの補佐として付く」


「よろしく」


「副団長がですか!?でしたら隊長は俺より副団長の方が良いのでは?」


「俺はあくまでもお前の補佐だ。お前の指示に従う。まあ助言くらいはするがな」


「ロイ、俺はお前の頭脳もだが洞察力や観察力も買っている。今回の視察はその力が必要になる。俺やロドルフよりお前の方が適任だ」


「そ。だから俺はロイのバックアップ。よろしくな」


「わかりました。ご期待に添えるよう努めます」


「気をつけろよ。みんな無事に帰って来い」


「「「「「「はい!!」」」」」」


 ゼノンに見送られ視察隊は西門を出て王都の北門に向かった。


「お疲れ様です。準備はできています」


 北門に着くと門番の隊員が大きな馬車を用意していた。馬車の前に2頭の白馬が大人しく待っている。


「ありがとうございます。この子たちは副団長が?」


「あぁ、普通の馬車だと時間かかるから今回は

イリョスとソールに轢いてもらう」


「確かにその方が速いですね。お願いします」 


「最初は馭者ぎょしゃは俺がやる。まぁやる事は見張りくらいだがな。」


「その後は交代で回していきます」


「えっ、馭者ぎょしゃって誰でもできますか?」


「海斗くんははじめてでしたね。イリョスとソールは副団長の契約獣で、特に何もしなくても目的地まで連れて行ってくれるんです。もちろん異常があれば止まって知らせてくれます。一応見張りとして馭者ぎょしゃはいますけどね」


「そうなんですね。聖獣さんですか?」


「そうだ。『アールヴァク』と『アルスヴィズ』だ。白い毛並みと燃えるたてがみがが特徴だな」


「すごい綺麗ですね」


 海斗はその美しい毛並みと、オレンジ色の炎を纏うたてがみに魅入っていた。


「話は中でしましょう。みんな中へ。では副団長お願いします」


 全員乗ったのを確認して馬車は走り出した。中は思ったより広く、大人14人が乗ってもゆとりがあるほどだった。


「こんなに大勢乗っているのにすごいスピードですね」


 全員の体重と馬車の重さを考えれば1tはあるだろう。それを感じさせないスピードでこの馬車は走っている。


「もともと馬車を轢くための馬ともわれています。さらに副団長の契約獣なのでレベルに伴って力も強くなってます」


「副団長のロドルフさんってどんな方なんですか?はじめてお会いしましたが今までどちらにいらしたんですか?」


 海斗が『モロノーフこちら』に渡ってきてから今日まで、ロドルフとは会うことがなかった。副団長という役職なら尚更もっと前に会っていてもおかしくないのに。


「副団長は5日前にウエスディーから戻ってきて休暇中でしたから。ピンズは紫色のセクターですが、実力は団長と変わらないくらいの方です。団長は総合的にバランスが良く、俺たちを纏める統率力もあります。副団長は感覚や直感が優れていて実戦に強く、機転が効くので予期せぬ事態にも瞬時に対応できます。なのでとても心強いです」


「すごい方なんですね」


 休憩をしながら順調に森を進んで行くが、日が傾いてきたため少し開けた場所で野営をすることになった。

 薪になる枝を拾って焚き火をし、夕食は携帯食で済ました。魔獣除けも置き、夜は交代で見張りをしながら休むことになった。


「イリョス、ソールお疲れさん。ありがとな。ゆっくり休んでくれ。明日もよろしくな」


 ロドルフは2頭の体を優しく撫でた。


「ノースヴェルダンにはどのくらいで着くんですか?」


「順調にいけば明日中には着くかと思います。イリョスとソールのおかげです」


「普通はもっとかかるんですか?」


「宿屋が持つ馬車は『バヤール』が轢いているが、スピードはそこまで速くないから3、4日はかかる。その分力があるから大人数を乗せることができる」


「なるほど。俺、森に入るのははじめてなんですが、もっと魔獣や妖精さんとかたくさんいるのかと思ってました」


 ここまでの間に魔獣や妖精などと遭遇することはなく、海斗は想像していたより静かに感じていた。


「馬車が通るルートは決まっていますから、わざわざ近づいてくることはほとんどありません。もっと奥の方なら別ですけど。魔獣除けもしてますから安心して休んでください」


「そうなんですね。では先に休ませていただきます。おやすみなさい」


「おやすみなさい。副団長も休んでください。見張りは俺と他の隊員で回しますので」


「おう。悪いな。何かあれば起こしてくれ。おやすみ」


「おやすみなさい」


 どこか遠くで獣の鳴き声が聞こえた気がしたが、それが夢なのか現実なのか海斗にはわからなかった。

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