第32話 同郷 

 次の日、海斗は身体中筋肉痛になっていた。


「うー、痛い。筋肉痛なんてはじめてだ」


 なんとか着替え朝食を済ますと、痛む体に鞭打って演習場に向かった。今日は第3部隊がトレーニングのためライアンにお願いして一緒に混ぜてもらった。とはいっても1セットこなすだけでヘトヘトで、やはりお昼を少し過ぎてしまっていた。


 午後は第2部隊の実習訓練に混ざり模擬剣を貸してもらって、ロイが戻るまで教えてもらった素振りをひと通りこなした。

 海斗が休憩していると隊員の1人が声をかけてきた。


「お疲れ。やっと話せた。志麻海斗くん」


「えっ?」


 海斗の前にはロイと同年代くらいの青年が立っていた。黒髪のツーブロックマッシュで、黒色の切長の目、180㎝はあろう体躯は程良く筋肉が付いていた。


「俺は氷籐龍一ひょうどうりゅういち。5年前に『モロノーフこっち』に渡ってきた。以前いた世界はあんたと同じ『地球アース』の日本だ」


「Σ!?じゃああなたが渡瀬さんが言っていた、同じ世界から渡って来たという・・」


「あぁ、それ俺のことだな。団長が紹介してた時、すぐにわかった。同じだってな。なかなかタイミングがなくて話せなかったが、少しは慣れたか?」


「いや、まだまだです。体力も全然ないのでとにかくトレーニングを中心に今は頑張ります。はじめて見るものばかりで驚きの連続ですけど」


「俺も妖精や聖獣を見たときは驚いたな。食べ物も知らないものばかりだったし、剣なんて持ったこともなかったし。でも『モロノーフここ』の人たちはみんな優しくて、困ってたら助けてくれる。だから海斗も何かあったら頼ればいい」


「はい。確かに食べ物が知らないものが多くて、食堂でよく悩みます」


「だよな。食べてみるしかないからな。ちなみに俺はモーのステーキが好きだ。和牛の赤身が多めのステーキみたいな感じだな」


「あっ、食堂のメニューで見ました。今度食べてみます」


 その他におすすめのメニューを教えてもらったり、向こうの世界の話をしたりして盛り上がっていた。


「随分楽しそうですね」


 座り込んで話す2人の後ろから突然声がかけられた。


「Σ!?あっ、ロイさん!お疲れ様です」


「お疲れ様です!」


「お疲れ様。海斗くん友達ができたみたいでよかったね」


「はい。龍一さんも俺と同じ世界から渡ってきたのでいろいろ話ができて楽しかったです」


「じゃあ海斗くん借りてもいいかな?」


「はい!俺は戻るので大丈夫です。失礼します。じゃあな、海斗。また今度」


「はい。お疲れ様です」


 氷籐はロイに頭を下げてから他の隊員のもとへ戻っていった。


「とりあえず他の隊員がいなくなるまでちょっと話しましょうか」


 そう言うとロイは海斗の隣りに腰を下ろした。


「まず俺が契約しているのは、氷、風、木、大地の妖精と聖獣のジィナです」


「たくさん契約してますね。聖獣のジィナさんはどんな聖獣なんですか?」


「それはお楽しみで。終わったら『ミステ』でステータスを確認しておきましょう。レベルも上がっているでしょうから。さて、はじめましょうか」


 訓練を終えた隊員たちは、終礼までの残りの時間を部屋で休んだり、シャワーを浴びたりして自由に過ごしている。


「俺の契約獣のジィナはちょっとじゃじゃ馬だから気をつけてね。でも悪い子じゃあないよ」


「じゃじゃ馬!?気をつけるってどうやって・・」


「まぁなるようになるから。ジィナちょっといいかい」


ーバサッ バサッー


「ギャア」


 海斗の前に降り立ったのは、竜の頭と蝙蝠の翼、鷲の脚に蛇の尾、尾の先は矢尻の生き物。        


 ゲームや漫画の中で見たことがあるが、実際に目の前にするとかなりの迫力があった。


「ワ、ワイバーン・・。本物だ」


 10mほどある大きな体に海斗は圧倒されていた。


「『ワイバーン』を知っているみたいだね。気難しい子ばかりだから契約が難しいんだ。『対話』してみるかい?」


 ジィナの体を撫でながらロイは海斗に聞いた。 


「してみたいですが、ちょっと怖いです。そのままロイさんも側にいてくれますか?」


「いいですよ。このまま撫でてますから安心してください」


 その言葉に少し安心した海斗は、ジィナの方を見て深呼吸をした。

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