第30話 黒師団とスコターディ ちょっと謎の組織を出してみた

 海斗は一度部屋に戻ってシャワーを浴びてから第2演習場へ向かった。まだ時間がはやかったためストレッチをしながらキッドが来るのを待っていた。


「おっ、ちゃんとストレッチしてるな」


「あっ、キッドさんお疲れ様です」


 ちょうどストレッチが終わる頃にキッドが何かを持ってきた。


「よし、海斗これを持て」


 キッドが渡したのは両手剣だった。


「剣なら持ってますが」


「いきなり本物は危ないからな。それは剣術訓練用の模擬剣だ」


「模擬剣?見た目も重さも本物みたいですね」


「そりゃ全然違ったら訓練にならねぇからな。まずは素振りからな」


 基本的な持ち方や構え方を教えてもらい素振りをはじめた。


「両手剣は基本斜めに振り下ろす。まぁまだ筋力も体幹も全然だからフラフラするだろうがな」


「おっと、ふんっ」


「振り下ろした剣先をそのまま一回転させて、また振り下ろす。これが『水車斬り』でこの動きの繰り返しだ」


 剣を振り上げるとバランスを崩してしまう海斗に、キッドは手を貸しながら教えていった。


「単調だが重量がある分勢いがあれば強力な攻撃を与えることができる」


「なるほど。だから俺には体力と筋力が必要なんですね」


「そうゆーことだ。トレーニング頑張れよ。それができるようになったら『蛇行斬り』を教えてやる」


 ひと通りこなしたところで休憩をしていると、森の中が騒がしくなってきた。


「なんか森の中から唸るような鳴き声が聞こえませんか?」


「魔獣同士の喧嘩じゃないか?珍しいことじゃない」


「そうなんですか?でも怪我とか死んでしまったりとかしたら・・・」


「弱肉強食。俺たちは自然の摂理には手を出さない。勿論こちらに危害を加える恐れがあれば対処するが、縄張り争いや餌の取り合いなんかは干渉しない」


「食物連鎖が崩れないようにということですね。もし人に危害を加える場合はどう対処するんですか?」


「俺たち騎士団に鎮圧命令か討伐命令が出る。できるだけ殺すことは避けたいから、最初は威嚇攻撃や契約獣で鎮圧を試みる。だがそれが難しいと判断したら討伐に切り替わり、本格的に攻撃を仕掛けることになる」


「もし、討伐になったらその魔獣の亡骸なきがらはどうなるんですか?」


「そのままでも他の魔獣の餌になる。種類によっては骨や血、内臓は薬になったり、毛皮は服飾に、肉は食糧になるから解体することもある。俺たちは奪った命は責任持って余すことなく使う」


 魔獣と共生する『モロノーフ』は、国王が魔獣を傷つけたり殺すことを好まない。国民を護るためにやむを得ず命令を下すことはあるが、奪った命は無駄にすることなく全て使用する。


「魔獣や聖獣の子供を乱獲して売り捌いている人たちがいるって聞いたんですけど」


「ああ、裏組織『スコターディ』の奴らだ。希少価値の高い魔獣や聖獣を中心に取引されている。陛下も把握されているが、なかなか取り締まっても減らないのが現状だ。裏組織の方は俺たち騎士団ではなくて、『黒師団こくしだん』が専門で動いている」


「黒師団?」


「黒師団は隊員の人数も名前も非公表で、隊員は団長が直接勧誘しているらしい。俺たちも詳しくはわからない。知っているのは陛下と宰相のシルバさん、あとうちの団長くらいだ。ーーよしっ休憩終わり。じゃあ闇の妖精見てみるか?」


「あっ、はい!お願いします」


 謎が多い『黒師団』。海斗はきっと自分には縁のないものだと思い、すぐに頭の隅に追いやった。


「闇の妖精は明るい場所を嫌うから呼んでる間は暗くなるぞ。スコトス出てこい」


 キッドが呼んだ瞬間辺りが夜のように暗くなった。海斗が自分の手も見えないほどの暗さに戸惑っていると、淡いオレンジ色の灯りが点いた。キッドが携帯用のランプを点けたようだ。


「大丈夫か?こいつが闇の妖精のスコトスだ」


 闇にまぎれて見えたのは全身黒で髪と瞳の色が濃藍色の男の子の妖精だった。


「スコトスはあまり社交的ではない、というか闇の妖精は一匹狼が多いから協調性や社交性はほとんどない。さらに夜にしか姿をみせない。だから契約までも時間がかかるし『対話』できるまでも時間がかかるんだ」


「そうなんですね。できるかわからないですがやってみます」


 小さな灯りを頼りに海斗はスコトスとの『対話』を試みた。

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