第29話 体力なんてありません 2番隊員はキッドさん大好き
次の日海斗はキッドと一緒に演習場に来ていた。第2部隊の隊員はすでに訓練をはじめており、あちこちでかけ声が聞こえる。
「今日は基礎体力をつけるためにトレーニングメニューを行う。まぁいきなり同じメニューはキツいだろーから通常の1/3でやってみるか」
「俺ほんとに運動だめなのでお願いします」
「まずはストレッチな。しっかりやらないと怪我するからちゃんとやれよ」
キッドと2人ストレッチをして体をほぐすと、いよいよトレーニングのスタート。
「まずは演習場10周、その後腹筋・背筋・腕立て・スクワットをそれぞれ35回、その次にそこの土嚢を抱えて端から端までダッシュ10本な」
「え・・ぶっ続けでですか?」
「あ?当たり前だろ。俺たちはこれの3倍を3セットやってから剣術の稽古だが、海斗はとりあえず1セットやってみろ」
「3倍を3セットもやってるんですか。ゴールが遠い。1セットもできる自信ない」
海斗は遠い目をしながらも演習場を走り出した。その後をキッドが付いて走っていく。
「下を向くな前を見ろー。腕を振れー」
「ハァ、ハァ、ハァ、はぃ」
「あと8周だぞー」
キッドは海斗のペースに合わせて声をかけながら一緒に10周を走った。
「よし、よくやった。次は腹筋な」
「ハァッ、ハァッ、ちょっ、ま、」
「待たないぞー。はい寝転んで腹筋、いーち」
バテバテの海斗を寝かせて足を押さえたキッドは、容赦なく進めていく。
「くっ、ふっん、んーっ」
「もっと俺にキスするくらいまで起き上がって」
「は!?キス!?」
「はい止まらなーい。じゅーはち、じゅーく」
その様子を見ていた第2部隊の隊員たちは、集まって何やら話していた。
「ははっ、隊長楽しそーだな」
「久しぶりの新人だから気合い入ってんだろ。俺たちもやらされたな。懐かしいな」
「なんだかんだ可愛いんだろうね」
「どれだけ時間かかっても最後まで付き合ってくれるから、やっぱりついて行きたいって思うよな」
「ああ、そうだな」
「俺たち隊長のこと大好きだな」
「第2部隊の隊員は全員隊長大好きだろ」
「違いない」
「そこでサボってるやつらー、2セット追加なー!」
「Σげっ、おいバレてるぞ」
「やばっ」
「はやくしないともう2セット追加するぞー」
「「「はい、すみません!!」」」
はやくしないと本当に追加されるので、隊員たちは慌てて走り出した。
「あぁぁぁーづがれだぁー。もう立てません。足がガクガクです」
海斗が全てのトレーニングを終了したのは、お昼をだいぶ過ぎた頃だった。
誰もいない演習場に大の字で仰向けになった海斗にキッドが近づいてきた。
「おつかれさん。よくやり切ったな」
キッドは海斗の頭をグシャグシャと撫でてニカっと笑った。
「終わったあともちゃんとストレッチしないと疲れがとれないぞ」
「これの3倍を3セットもしてるんですよね。俺にはできないですよ」
「すぐできるやつなんていねぇよ。少しずつ体力と筋肉付けていけばいい。毎日の積み重ねが結果に繋がる」
「そうですね。このままじゃあ皆さんの足手まといになっちゃいます。頑張ります」
「誰も足手まといなんて思っちゃいねぇよ。だがやる気があるやつは好きだぜ。時間があればいつでも付き合うから声かけてくれ」
「ありがとうございます」
「よし!昼飯行くか」
「はい!」
キッドと海斗の2人は並んで食堂へと歩いて行った。
ーーー
「午後は剣術をやるからな。せっかくいい剣を持っていても使えなきゃ意味ねーからな」
「ど素人ですがお願いします」
「ああ、使い方を間違えたら自分の命も仲間の命も危ない。しっかり叩き込んでやるよ」
昼食を食べながら午後の予定を話す2人。遅めの昼食のため食堂にはほとんど人がいなかった。
「キッドさんはどんな妖精さんや聖獣さんと契約してるんですか?」
「俺は火・雷・風・闇の妖精と『ケルベロス』のフィロスと契約してる」
「闇の妖精?」
「ああ、闇の妖精と光の妖精は他の妖精たちより数が少なくて希少なんだ。光の妖精は主に回復などの癒しの力、闇の妖精は主に毒などの悪の力なる」
「どちらも『魔獣の森』にいるんですか?」
「棲んではいるが、最深部の極一部でしか見られない。同じ場所に留まっていないから遭遇するのも難しい。俺も見つけて契約までに7年かかった」
「7年!?そんなに・・。『ケルベロス』というのはあの頭が3つあるという?」
「『ケルベロス』は犬の体に頭が3つで蛇の尾を持つ。大きさは大型犬の4〜5倍くらいはあるな。あと唾液に猛毒が含まれているから噛まれたらアウトだ」
「猛毒ってキッドさんは大丈夫なんですか?」
「最初のうちは毎日解毒薬飲んでたなぁ。ソフィアさんにもしょっちゅう怒られた」
笑いながら「懐かしいなぁ」と言うキッドに海斗はちょっと引いていた。
「今はもうお互い慣れたしフィロスも無闇に噛んだりしないからな。多少の涎はしょうがないけどな」
「そうですか。時間があったら闇の妖精を見てみたいです」
「おう、じゃあ剣術が終わったらな」
「はい。ありがとうございます」
「午後は第2演習場でやるぞ」
「第2演習場?」
食器を片付けてキッドの後を付いていく海斗。
「昨日ライアンと行かなかったか?」
「あっ!森の近くの」
「あそこが第2演習場だ」
「そうだったんですね。わかりました」
「じゃあ30分後に第2演習場な。それまではゆっくりしてな」
キッドは他の隊員が訓練している様子を見に演習場に向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます