第26話 はじめまして国王様、はじめまして神獣さん

 大きな扉の前で海斗は緊張していた。この扉の向こうに国王様がいるのだ。自然と体に力が入る。


ーガチャー


「王宮騎士団団長ゼノン・ヴァンクドクレス殿、王宮騎士団第1部隊隊長ロイ・マーティン殿、王宮騎士団第2部隊隊長キッド・ブランシェット殿、王宮騎士団第3部隊隊長ライアン・フローレス殿、王宮騎士団所属志麻海斗殿、その保護者渡瀬繋殿、ご到着致しました」


 『謁見の間』に通された6人の前には玉座に座った国王アルフロード・ヴァンディアスがいた。近くには宰相のシルバ・ハッフルパフも控えている。


 片膝を付いて頭を下げるゼノンたちに倣い、海斗も真似をして頭を下げた。

 アルフロードは他の者を退席させ人払いをすると口を開いた。


「呼び立てて悪かったね。顔をあげてくれ。早速だが『カイト』というのは・・」


「はい。海斗、陛下にご挨拶を」


「あっはい。志麻海斗と申します。お目にかかれて光栄です」


「ふむ。君がゲニウスが言っていた海斗か。契約の有無関係なく『対話』ができるそうだね」


「はい。綺麗な『気』をしていると言われました」


「なるほど。ちょっとゲニウスと『対話』してみてくれないかい?」


「Σ陛下、それはまだはやいのではないですか?」


「いやゼノン、ゲニウスが会ってみたいと言っているのだ。長時間は霊力が保たないだろうから少しだけならいいだろう。ゲニウスも無理はさせないさ」


「あの、ゲニウスさん?という方を存じ上げないのですが、『対話』ということは聖獣さんとかですか?」


「ゲニウス様は陛下の契約獣、神獣の『麒麟』のことだ」


「神獣!?『麒麟』って全ての生き物の頂点に立っているんですよね?そんな畏れ多いです!」


「そんなに固くならないでくれ。ゲニウスは君に興味があるみたいなんだ。ゲニウス、今来れるかい?」


 すると玉座に座るアルフロードの前に大きな『麒麟』が現れた。体長5mほどあろうその姿は鹿の胴体に牛の尾、馬の足に龍の頭部、額にはツノがあり体は鱗に覆われて、翼と体は黄色い炎を纏っていた。


 その神秘的な姿に海斗は息をすることも忘れて見惚れていた。


「これが麒麟。初めて見た」


「俺も、格の違いを思い知らされますね」


「ゲニウス様は姿を見せることがほとんどありませんからね」


 部隊長の3人も初めて見る『麒麟』に圧倒されていた。


 普段ゲニウスは王宮の屋上庭園で過ごしており、そこから王都を守護している。有事の際には姿を現し力を使うが、元々争いごとは好まないため余程のことでは出てこないのだ。

 しかし頂点に立つだけの実力は確かにあり、口から放つ焔は全てを燃やし、その蹄で蹴られたら一瞬であの世逝きだ。

 攻撃だけでなく麒麟の鳴き声は癒しの力があり、ひと鳴きで対象の全てを癒すことができる。


「ゲニウス、あの子が海斗だ」


 アルフロードの言葉に、ゲニウスはゼノンたちの方に顔を向けた。


「「「「「「!!ビクッ」」」」」」


 1人づつていくゲニウスに6人共体を強張らせた。

 ひと通り全員をたゲニウスはゼノンたちに近づいて海斗の正面で止まった。そしてアルフロードに振り返り何かを話すと出口へと歩き出した。


「海斗、ゲニウスが一緒に来てくれだそうだ。おそらく屋上庭園に行くのだろう。行ってきなさい」


「えっ!?はい!行って参ります。失礼します」


 扉の前で待つゲニウスのところへ行くと、ゲニウスは再び歩き出した。その後ろを付いて暫く歩いていると大きな螺旋階段が見えてきた。


 ここまでの道のりですれ違った人たちは皆、驚きと好奇の目でゲニウスを見ていた。やはり麒麟が下へ降りてくることは珍しいのだと海斗は実感した。


 螺旋階段の中央、吹き抜けのところでゲニウスは上を見上げ、軽くジャンプをしてそのまま屋上へと跳んで行った。


「すごい、助走なしでひと跳び・・」


 3階建ての王宮は地上25m程はあるだろうか。見上げるとなかなかの高さがある。海斗はゲニウスを追いかけて急いで階段を昇って行った。


 屋上庭園に着いた頃には海斗はヘトヘトになっていた。運動なんてほとんどしてこなかったため体が付いていかず、足もガクガクだった。さすがにこれはマズイ、と本格的にトレーニングを考えていた海斗は顔を上げて息を呑んだ。


 一面に色とりどりの花が咲き誇り、樹々には様々な果実が実っている。中央には小さいがゲニウスが入れるくらいの泉が見えた。


 その中に佇むゲニウスは、幻想的で絵画を観ているかのように美しかった。


「綺麗だ・・」


(ありがとう。海斗、こっちへおいで)


「Σうぇっ!?あ、はい!」


 無意識に出た言葉に返事が返ってきたことに驚いたが、海斗は言われたとおりゲニウスの元に向かった。

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