第27話 エレナという女性

(フィリアから聞いたとおり綺麗な『気』をしていますね。とても懐かしい。噂は広がっていますが、人間には広がらないようにと『モロノーフ』全土に伝達したので心配いりません)


「ありがとうございます」


(海斗は異世界から渡ってきたそうですね)


「はい。まだ3日目なので知らないことだらけです」


(そうですか。海斗の家族に『エレナ』という者はいますか?)


「エレナですか?名前は分からないですが、祖母のさらに祖母が異国の人だったと聞いてます。俺の高祖母こうそぼにあたります」


(やはりそうでしたか。エレナに似た『気』をしています)


「高祖母は『モロノーフ』の出身ということですか?」


(もう100年以上前になりますね。エレナは19歳の時に『モロノーフここ』を去りました。まぁ記憶があるのは私だけでしょう)


「ゲニウスさんは高祖母と親しかったのですか?」


(そうですね。エレナは学校を卒業後、王宮医療班に所属していました。とても優秀で17歳の時に最年少で医療班班長に抜擢され、『癒しの女神』と呼ばれていました)


「癒しの女神?」


(妖精の中でも稀少な光の妖精を複数と、不死鳥とも契約をしていました。どちらも回復・治癒に特化しています。そしてその力を最大限に引き出すための能力をエレナは持っていました)


「霊力が高かったのですか?」


(確かにレベルも霊力も同年代の者に比べたら高かったでしょう。しかし最大の要因は他にあります)


「他ですか?」


(エレナは全ての神獣、聖獣、妖精と『対話』ができたのです)


「Σえっ!?それって・・・」


(そうです。海斗と同じ能力です。私も何度かエレナと『対話』をしました。とても優しく純粋で、綺麗な『気』をしていました。恐らく海斗はエレナの血を濃く受け継いだのでしょう)


「でも、何故高祖母は『モロノーフ』を離れて異世界に渡ったのですか?そんなにすごい人だったのに」


(それはーーっとそろそろ限界のようですね)


「えっ?」


 ゲニウスの言葉を理解する前に、海斗の視界はグニャっと歪み一気に体が重くなった。

 立っていることができずその場に膝をついて蹲る海斗に、ゲニウスは顔を近づけて小さく鳴いた。


「あれ?体が楽になった」


(すみません。少々無理をさせ過ぎてしまいました。霊力の残が5を切ると先ほどのように体に異変が起こります。少し回復させましたが今日はここまでにしましょう)


「わかりました。またお話を聞かせていただけますか?」


(もちろんです。その時は妖精でも聖獣でも遣いにだしてください)


「はい。今日はありがとうございました」


(君が『モロノーフこの世界』に渡ってきたのには何か理由があるのかもしれないですね)


「え?何か言いましたか?」


(いいえ、そろそろ戻りましょう。皆も心配するでしょう)


 ゲニウスと海斗は屋上庭園を後にして、皆が待つ『謁見の間』へと向かった。


ーーーー

 ゲニウスと海斗が出ていった後、アルフロードが再び話しはじめた。


「ここにいる5人は海斗の能力を知っているということでいいのかな?」


「はい。部隊長の3人は今後海斗を指導する上で知っておくべきだと判断し、私が話しました」


「そうか。ゼノンは海斗をどうみている。あの能力は良くも悪くも脅威になり得る」


 アルフロードは鋭い視線をゼノンに送った。


「確かに脅威にもなる能力です。ですが海斗は純粋で嘘がつけない優しい子です。私は海斗が『モロノーフうち』に危害を加えるとは思えません」


「なるほど。部隊長の3人も同意見ということかい?」


「「「はい、異論はありません」」」


「繋は海斗の保護者だそうだね。君はどう思う?」


 先ほどから黙って成り行きを見ていた渡瀬に、アルフロードは話を振った。


「少なくとも他人を欺いたり陥れたりするような人間ではないかと思います」


「案内人の君が言うのならそうなのだろう。ただし、もし彼が『モロノーフうち』に危害を加える恐れがあると判断したらそれ相応の対応をする。よいなゼノン?」


「はい」


「それとステータスの件だが、例のところは秘匿にしておいた。くれぐれも能力について漏れることがないようにな」


「承知しました」


「ふむ。戻って来たようだな」


 アルフロードの言葉に皆が扉の方へ振り返った。


ーガチャー 


「えっと、只今戻りました」


「おかえり海斗、ゲニウス」


 ゲニウスはそのままアルフロードの元へ戻り、海斗はゼノンたちと並んだ。


「ゲニウスと仲良くなれたかい?」


「はい。とても有意義な時間でした。ありがとうございました」


「それは良かった。さて、呼び立ててすまなかったね。持ち場にに戻ってくれ」


「「「「「「はい。失礼致します」」」」」」


 6人は揃って一礼すると『謁見の間』を後にした。

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