第25話 国王様も普通の人間です
ゼノンは朝礼後のいつもの報告をしに国王執務室へ向かった。
ーコン コンー
「王宮騎士団団長ゼノン・ヴァンクドクレス、陛下へ朝の報告に参りました」
「入ってくれ」
「失礼致します」
ーガチャー
「陛下、ハッフルパフ公、おはようございます。朝の報告に参りました。」
「おはようゼノン。ご苦労さま」
「おはようございます。ゼノン」
中に入ると綺麗に装飾された立派なデスクに国王のアルフロード・ヴァンディアスが座っていた。その側には宰相のシルバ・ハッフルパフが立っている。
「報告ですが、昨日の巡回は特に異常はありませんでした。最近は聖獣や魔獣の子供の乱獲も減少傾向にあります。引き続き警戒は続けていきます。来週のウエスディーへの視察ですが、第2部隊長のキッドを中心に隊士を10名と医療班から2名を考えております」
「そうか。乱獲は落ち着いているとはいえ、何かよからぬ事を考えている可能性もある。気を緩めず引き続き警戒を頼む。視察の隊士の編成はゼノンに任せる。お前の方が隊士のことを分かっているだろう」
「承知しました」
「ところでゼノン、お前のところに『カイト』
という男の子がいるそうだがどんな子かな」
「Σ海斗のことをご存知なのですか?」
「あぁ、なかなか興味深いとゲニウスから聞いてな。是非会ってみたいのだが」
「ゲニウス様が・・。承知しました。昼食後に連れて参ります」
「それからノースヴェルダンのアレッシオから、最近森の魔獣たちの様子がおかしいと報告があった。気が立っているのか町の住人にも被害がでているようだ。なかなか原因が掴めずにいるんだが、うちから何名か出せるか?」
「アレッシオが?でしたら第1部隊から何名か送ります。海斗も同行させようかと思いますがよろしいでしょうか?」
「あぁ人選は任せる。ーー仕事の話はここまでだ」
アルフロードは先程までの真面目な顔を崩した。
「聞いてくれゼノン。メアリアが最近冷たい気がするのだ」
眉を下げて情けない表情でゼノンに話すアルフロードは、普通の中年男性にみえた。
「それはアルがしつこいからだろう」
「シルバはわかってない。あんなに美しいメアリアを心配するのは当然だろう!」
どうやら
「ただの仕事の話だろ。前にも同じことを言っていたが、ただの報告業務だったじゃないか。あまり束縛すると捨てられるぞ」
「Σなっ!?す、すて、捨てられる・・」
「シルバさん、さすがに言い過ぎでは」
「甘やかすなゼノン。下手に優しくすると惚気話をひたすらに聞かされるぞ」
アルフロードと旧友のシルバは、唯一アルフロードに意見を言える存在だ。仕事モードの時はもちろん立場を弁えているが、アルフロードが迷っている時は助言をしたり、間違っていれば指摘したりもする。時にはぶつかり合うこともあるが、アルフロードにとってシルバはかけがえのない友であり信頼できる部下でもあるのだ。
「いつまでメソメソしてるつもりなんだ。はやく仕事を終わらせて昼食をメアリア妃と一緒にするんじゃなかったのか?」
「はっ!そうだ、メアリアを待たせるわけにはいかない。ゼノン、ご苦労だったな」
「いえ。では海斗を連れて後ほどまた参ります。失礼致します」
一礼して執務室をでたゼノンは、大きな溜息を吐いてその場を後にした。
ーーー
シルバとアルフロードのやり取りは伏せて、ゼノンは朝の出来事を簡単に説明した。
「ではゲニウス様が海斗くんを知っていたということですか?」
「あぁそういうことだ」
「ゲニウス様のところまで噂が広がっていたのですね」
「噂?どういうことだライアン」
「実は海斗くんがフィリアと『対話』した際に、森で海斗くんのことが噂になっていると聞いたそうです。フィリアには極秘事項なのでこれ以上広がらないようにと伝えてあります」
「あの時の妖精から噂が広がってしまったということですね。申し訳ありません。俺がちゃんと口止めをしていれば」
店員の女性には口止めしたが、妖精の方には何も手を打たなかった。その所為で海斗のことが公になったら自分の責任だとロイは頭を下げた。
「いや、
「じゃあ昼飯の後に陛下のところへ海斗を連れて行くんすか?」
「そうだが、3人も一緒に来てくれ。海斗の能力を知る者として話を聞いていてほしい。あと繋もな」
今まで話に入ってこなかったが、渡瀬も海斗の能力を知る者であり保護者(仮)であるため同行するようだ。
「ということで私もご一緒させていただきます」
渡瀬も含めた6人で食堂で昼食を済ませ、王宮の陛下の元へと向かった。
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