第20話 なんだかんだでいい奴な『トルス』くん

(オレはゼノン以外を信頼していないし、認めるつもりはない。おまえと『対話』するのだって信頼したからじゃない、ゼノンが面倒みてるから雷の力を教えてやるだけだ)


 言い終わると『トルス』は海斗の頭の上から目の前に移動した。


「はい、もちろんわかってます」


(ふんっ。オレの力は自由自在に雷を操ることだ。小さいものから大きいものまでだ。さっきお前にぶつけた雷は攻撃というより牽制や威嚇に使うことが多い。本気を出せば聖獣の1頭くらい気絶させることもできる)


「こんなに小さい体でそんなことができるんですね」


(ゼノンのレベルと『気』の高さ、なによりオレはゼノンを信頼している。オレたちの力は主に左右される。主次第だ)


「なるほど。ちなみに、停電の時とか発電機代わりになったりも?」


(非常時には王宮の灯りを点けたり、診療所や医療班の手伝いもすることはある)


「やっぱりそうなんですね。家庭でも頼りになりますね」


(まぁな。あとは水との相性がいいから相手が水属性だと有利だし、水と組むことで通常より大きなダメージを与えることができる)


「相性も大事ですね。となると、『フロガ』さんは火だから氷や草木に有利で、風と組むと相性がいいということですか?」


(あぁその通りだ。『フロガ』、隠れてないでこっちに来てコイツに教えてやれよ)


 相変わらず『フロガ』はゼノンのコートに隠れているが、先ほどからチラチラこちらの様子を伺っていた。


「『フロガ』さん、無理して出てこないで大丈夫ですよ。また機会があったらお願いします」


(アイツ人見知りでゼノン以外はダメなんだ。他の妖精仲間ともなかなか馴染めなくてな)


「そうなんですね。何か理由があるのかな?可愛くて綺麗な緋色の髪していて、お話してみたかったですけどまた次回にします。『トルス』さんありがとうございました。勉強になりました」


(まぁ、ゼノン以外信頼していないけど、海斗ならたまには話し相手になってやってもいい)


「じゃあその時はよろしくお願いします」


 『トルス』はゼノンの元へ戻ると何かを話してから消えた。『フロガ』もそれに続いて消えていった。


「どうやら特殊能力は本当みたいだな。だがあまり口外はしない方がいい。変な奴に目をつけられても面倒だ。まぁ騎士団ここにいる限りは俺たちがいるから手出しはさせねぇがな」


 海斗の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら、ゼノンは豪快に笑った。


「団長、ライアンとキッドにはこの事を話してもよろしいですか?」


「そうだな。2人には俺から話しておく。この後『ミステ』で海斗のステータスを見させてくれ。現状を把握しておきたい」


「はい。どちらにあるんですか?」


「宿舎の共同スペースにある。自由に使っていいから海斗も好きな時に使えばいい」


「使い方も簡単だから大丈夫ですよ」


 3人が小屋から出たところで誰かが声をかけてきた。


「お話は終わりましたか?」


「渡瀬さん。戻っていたんですね」


 渡瀬は小屋の脇に積まれた大きな丸太に腰かけてタブレットで何かを見ていた。


「えぇ、終礼には間に合いませんでした。すみません。途中で入ってお邪魔をしてはいけないと思って」


「今から海斗のステータスを測りに行くが、繋も来るか?」


「ご一緒します」


 ゼノンのあとに続く渡瀬。その胸ポケットにしまったタブレットから通知を知らせる音が立て続けに聞こえた。

 海斗は気になったが渡瀬は何も気にする様子がみられなかったため聞くのをやめた。

 渡瀬の眉間の皺が増えたことは後ろを歩いていた海斗には分からなかった。

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