第19話 個性を尊重しましょう

 特に問題もなく終礼が終わり、ゼノンの解散の声で隊士たちがそれぞれ戻って行ったのを見計らいロイがゼノンに声をかけた。


「団長お疲れ様です。ちょっとお話したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」


「おう、お疲れさん。どうした?場所変えた方がいいか?」


 ロイの顔を見るや「何か込み入った話みたいだな」と瞬時に理解したゼノンは、やはり歴代1位の実力を持つだけあると海斗は改めて実感した。


「ここなら大丈夫だろ。それで何があった?」


 演習場の奥にある6畳ほどの広さの小屋の中、ゼノンが話を切り出した。中には木刀や丸太、砂袋など訓練用具があちこちに置いてある。


「海斗くんの買い物は無事に終わりました。王都の案内と『モロノーフ』についてや魔獣などについても説明もしてあります。契約については明日、ライアンにお願いしようと思います」


「そうか。ご苦労だったな」


「ありがとうございます。本題ですが、海斗くんに少し特殊な能力があるみたいです」


「特殊な能力?」


「はい。花屋の店員が出した水の妖精と『対話』をしたようです。海斗くん自身は無意識だったのですが、契約されている妖精と初対面で『対話』をすることは可能なのでしょうか?念のため店員の方には口止めはしてあります」


「いきなり『対話』できたということか。確かに俺が知る限りでも聞いたことない事例だ。そもそも『対話』は信頼関係ができていて初めて繋がることができる。最初はこちらから話しかけても応えはないが、何度も触れ合い話しかけていくことで信頼関係ができ『対話』が成立する」


「やはりそうですよね。海斗くん、もう一度詳しく団長に話してくれないかい?」


「はい。えっと、初めて妖精さんを見てつい興奮してしまって、妖精さんを驚かせてしまったんです。なので謝ろうと話しかけました。そうしたら頭の中に『コエ』が響いてきて、いろいろ話をしました」


「具体的にどんな事を話したのか覚えているか?」


「はい。俺がまず自己紹介して謝りました。妖精さんの名前を聞いたら俺の手に乗ってきてくれて、水の妖精で『ネロ』という名前を主に付けてもらったと言ってました。なんで俺と話せるのか聞いたら、ネロさんが話したいと思って話しかけたと。あと綺麗な『気』をしているとも言われました」


「妖精が自らの意思で『対話』してきたということか。もしかしたら海斗の霊力ちからは俺たちと違って特殊なのかもしれないな。試しに俺の契約した妖精を出してみるか」


 そう言うとゼノンは2匹の妖精を出した。


「『フロガ』、『トルス』出てこい」


 ゼノンの言葉で出てきたのは、緋色の癖毛でミディアムショートの女の子と、長い金髪を緩く一つに結んだ男の子だった。


「緋色の髪が『フロガ』、火の妖精。金髪なのが『トルス』、雷の妖精だ」


 『フロガ』はゼノンのコートの中に隠れて顔だけ出していて、『トルス』はゼノンの隣りを飛びながら腕を組んでこちらを見ていた。


「妖精や聖獣にも個性があって性格が違うから、それぞれに合ったコミュニケーションをとりながら『対話』を繰り返していくのが通常だ」


「はい。『フロガ』さんはシャイなんですか?」


「あぁ、俺以外には慣れなくてすぐに隠れちまう。ちょっと『対話』できるか試してくれ」


「できるかわからないですけど、やってみます」


 海斗はゼノンから少し離れて、膝に手を置き腰を屈める体勢になった。


「はじめまして、俺は志麻海斗と言います。今ゼノンさんに『モロノーフ』についていろいろと教えていただいています。『フロガ』さんや『トルス』さんのような妖精さんの勉強もしているのですが、お2人のことを教えていただけないでしょうか」


 『フロガ』と『トルス』の顔を交互に見ながら、なるべく優しい声音を心がけて話した。しかし、どちらも応える様子はみられない。


「さっきのは偶々でしょうか。それとも毎回できる訳ではないということでしょうか」


 ロイとゼノンは海斗の能力について、何か条件があるのかなど話していた。


 海斗は隠れている『フロガ』はあまり刺激しない方がいいと思い、『トルス』に改めて話しかけた。


「すみません、いきなり知らない奴に話しかけられたら警戒しますよね。俺、まだ知らないことが多くて雷の妖精さんもはじめてなんです。『トルス』さんすごく綺麗な髪色でカッコイイですけど、どんな力が使えるんですか?少しだけでも見せてもらうことできませんか?」


 すると『トルス』は海斗の前に飛んできて両手を前に出して何か言葉を発した。


(☆●×◆□〜◎)


ーバチバチ ピカッ ー


『トルス』の手から出た雷が海斗の額に直撃した。


「Σイタッ!」


「!?おい、大丈夫か!?『トルス』!!何してんだ!!」


 海斗の声にゼノンが『トルス』を叱った。『トルス』はゼノンの声に体を強張らせ、泣きそうな顔をして俯いてしまった。


「ゼノンさん違うんです!『トルス』さんすみません、俺のせいで。でも今の雷凄かったです!きっと手加減してくれたんですよね?本気出したらもっと大きな雷が出せるんですか?やはり攻撃がメインになるんですか?」


 目をキラキラさせ、ただ純粋に知りたいと言う海斗に、『トルス』は俯いていた顔を上げた。

 海斗の目を暫く見つめていた『トルス』は、一度ゼノンの顔を見てから海斗の頭の上に乗った。


「えっ?『トルス』さん?」


「どうしたんだ『トルス』」


 ゼノンは『トルス』の行動の意味を『対話』で問いかけた。


(□▲◎*〜∞◆)


「そうか。悪かったな。ははっ、俺はそんなこと気にしない。『トルス』のしたいようにすればいい。大丈夫だ」


 ゼノンの言葉のあとすぐに海斗の頭の中に『コエ』が響いた。そしてそれは海斗に特殊な能力があることを確定させることとなった。

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