第17話 魔獣より恐ろしいもの

「大丈夫ですか?勝手に出てきちゃいましたけど」


「また絡まれると面倒ですから。いつものことですし気にしなくて大丈夫ですよ。私は少し外します。先に戻っていてください」


「わかりました。俺たちは最後に東側の図書館や学校を見てから戻ります」


 渡瀬は2人と別れて来た道をまた戻って行った。


ーカランカランー


「あれー?繋ちゃんどーしたの?忘れものー?」


 渡瀬は先ほどの薬屋、エリックの元に戻って来ていた。


「いえ、ちょっとお聞きしたいことが。私がいない間に変わったことなどはなかったですか?」


「・・・ふふっ。大丈夫。特に変わりはないよ」


「そうですか」


「繋ちゃんの方は?何かわかった?」


「いえ。ただ、私の管轄外ですがまた1人出ました。詳しくはまだわからないので関係あるかは不明ですが」


「そっか・・。さっきの海斗くんだっけ?彼も気をつけて見ておかないとだね」


「はい。ゼノンさんがいるので大丈夫かとは思いますが、私もなるべく近くにいるようにしてます。ちょっと特殊な力があるようで、この後その力について話しがあるのでまた来ます」


「わかった。繋ちゃんも気をつけてね」


「はい。ではまた」

 

ーカランカランー


「・・なーんか嫌な予感がするんだよなぁ」


 渡瀬が出ていった扉を見つめ、エリックはその予感が当たらないことを願っていた。


「ここが『国立歴史図書館』です。『モロノーフ』の歴史資料や魔獣、神獣などの資料も保管してあります」


 目の前には、王宮には劣るが立派な建物が聳え立っていた。


「立ち入り禁止エリア以外なら誰でも自由に閲覧できるから、時間があったらいろいろ見てみるといいですよ」


「なんだか迷子になりそうですね」


「子供はだいたい迷子になります。その隣りにあるのが『ロンドデスモース魔獣学校』です」


「魔獣学校?」


「一般教養はもちろん、『モロノーフ』の歴史や魔獣の生態、神獣や聖獣、妖精の種類や契約についてなどを学びます。幼等部が6〜9歳、中等部が9〜12歳、高等部が12〜15歳になっていて卒業試験に合格できたら卒業になります」


「学校で魔獣のことを勉強するんですね。みなさんこの学校に通っていたんですか?」


「ほとんどの人はそうですね。俺も団長もここの卒業生だけど、王都外の出身の人は別の学校に通っていた人もいます」


「学校ってここ以外にもあるんですね」


「『モロノーフ』には王都以外に4つの町あり、それぞれの町に1つ学校があります。戻ったら『モロノーフ』について勉強しましょう」


「こっちでも勉強・・・」


 海斗は憂鬱な気持ちでロイの後を追いかけた。

 その先には宿屋がいくつか並び、奥には広い公園もあった。


「そろそろ戻りましょう。王都は広いので全部を見て回るのは時間が足りません。休みの日にいろいろ散策してみてください」


 朝から王都を回って、気づくとお昼をだいぶ過ぎてしまっていた。とりあえず昼食を食べるため2人は宿舎に戻ることにした。

 宿舎に戻って少し遅いお昼をすませたロイと海斗は共同スペースに来ていた。


「これが『モロノーフ』の地図です」


 地図は6人用のテーブルいっぱいに広げられた。


「『モロノーフ』の中心に王都があります。王都を囲うように森が広がり、森を抜けると町に出ます」


「王都を中心に東西南北に町が分かれているんですね」


「そうです。北の町ノースヴェルダン、南の町サウザント、西の町ウエスディー、東の町イストゥマラ。それぞれ気候も異なるので食べ物や生えている薬草も少し変わります」


「この森は歩いて抜けるんですか?かなり広いみたいですけど」


 王都を囲う森は地図上で見ただけでもかなり広いことがわかった。5つの町を繋げても足りないくらいだ。


「歩いたら1週間以上はかかります。だいたいの方は馬車や自分の契約獣を使いますね。この森は『魔獣の森』とも呼ばれていて、多くの魔獣や聖獣、妖精が棲んでいるので迷い込むと危険なんです」


「森から出て町を襲ったりはしないんですか?」


「魔獣はこちらから危害を加えなければほとんど攻撃してきません。なので俺たちも理由がない限り傷つけてはいけない決まりになっています」


「ではこの武器は何のために?」


 海斗は先ほど購入し、左腰に差した剣を触りながら聞いた。


「魔獣が人を襲うことがまったくないわけではありません。繁殖期や縄張り争いなどで気が立っている時などは危険です。それに、襲ってくるのは魔獣だけではないので」


「それはどういう事ですか?他に何かいるんですか?」


「いえ、時には魔獣より人間の方が恐ろしい時もあります。まぁめったにない事ですが海斗くんも気をつけてください」


「はい、覚えておきます」


ロイの言葉の真意は分からなかったが、海斗は左手で剣のグリップを握り頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る