第16話 護るための

「ロイさん!あの、俺そんなにマズいことしましたか?契約とか対話とかよく知らなくて」


「俺が知る限りでは契約してない状態で『コエ』を感じる人はいないです。ましてや初対面で」


「志麻さん、その力は『モロノーフこの世界』では良くも悪くも目立ちます」


「とにかく、団長に報告するまでは勝手に話したりはしないでください」


「わかりました(大変なことになったかも)」


「契約についてもその時に説明します。時間がないので次の店に行きます」


 そう言うとロイはまた歩き出した。

 暫く歩いているとある店の前でロイが立ち止まった。


「今から海斗くんの剣を選びに行きます」


 そう言うとロイは目の前のお店に入っていった。海斗も続いて入ってみると、中にはたくさんの武器が展示されていた。

 長剣や短剣、ナイフや斧、鎌に弓矢などの他に見たことない物もあった。


「いらっしゃい。おや、ロイくんじゃないか。久しぶりだねぇ」


 白髪混じりの老年の男性が店の奥から顔を出した。


「オスカーさん、ご無沙汰してます」


「修理かい?それとも調整かい?」


「いえ、今日は俺ではなくて新人の剣を選びに来ました」


 ロイの言葉にオスカーは海斗に目を向けた。


「君は・・どうやらまったくの素人みたいだね。筋力もあまりないようだ。身長は172、体重は61キロってところか」


「えっ?なんでわかるんですか?」


 ピッタリと当てるオスカーに驚きを隠せない海斗。


「そっちのお嬢さんは156のよん「私はけっこうです!」


「そうかい?それじゃあまず、これを持ってみな」


 渡された剣を持った海斗は初めて本物の剣を手にして動揺した。オモチャではない、この手に感じる重み。生命いのちを奪う覚悟は海斗にはまだなかった。


「ボウヤ、武器は生命いのちを奪うだけじゃあない。大切な生命いのちを護るためにも必要なものなんだよ」


「護るため・・・」


 海斗はもう一度剣を握りなおし、顔の前に持ち上げてみた。長さは1メートルちょっとありそうだ。


「うむ、片手は厳しいかの。ボウヤ、こっちの剣を持ってみな。両手剣だ」


 海斗の腰より少し短い剣を両手で握ってみると、先ほどの剣より軽くしっくりきた。


「そっちの方が合うな。あとはボウヤ次第だ。もっと筋力を付けないとな」


「はい。ありがとうございます」


「さすがですね。オスカーさん」


「まだまだ引退する気はないからな」


 休みの日などに携帯しておくと有事の際に役立つとロイとオスカーに言われ、短剣とダガーナイフも購入した。

 海斗は左腰に、購入した両手剣を差してみた。まだ慣れず違和感があるが、なんだか身の引き締まる思いがした。


「最後に気が乗らないですが、薬屋にいきます。多少の傷なんかは自分で治療できるように常備しておくと便利です」


 憂鬱な様子で薬屋に向かうロイは、店に近づくにつれ溜息が多くなっていった。


「なんかロイさんの周りがどんよりしてるんですけど・・」


「今から行く薬屋は品質も良く店主の腕もいいのですが、性格がちょっと・・面倒くさいというかウザイというか」


 思い出して渡瀬も溜息を吐いた。


「なんだか行くのが怖いんですけど・・・」


 大きな不安を抱きながら、とうとうその薬屋の前に着いた。

 扉の前で最後に溜息を吐いて、ロイは扉を開けた。


ーカランカランー


「いらっしゃーい。あれー?ロイくんじゃない。珍しいねー。なになに?俺に会いたくなっちゃった?俺も会えなくて寂しかったよー」


「いや、俺は別に・・・」


「だいじょーぶ!ツンデレなロイくんも好きだよ♡俺は」


「大丈夫です。間に合ってます」


 ロイは心底迷惑そうな顔をしながら軽くあしらった。


「そーゆーところも可愛いなぁ。繋ちゃんも。今日もばっちり可愛いよー。そろそろ俺が恋しくなる頃じゃなーい?」


「まったく微塵もありません。他をあたってください」


「えーざんねん」


 全然残念そうに見えないその男、エリックは、渡瀬の後ろに立つ海斗に気づいて声を上げた。


「あーっ!!だれその男の子!?まさか繋ちゃんの・・・俺という男がいながら・・俺泣いちゃう」


 シクシクと泣き真似をするエリック、無表情の渡瀬。海斗は、2人を交互に見ながらオロオロしていた。


「はぁ・・冗談はここまでにして、彼は昨日入った志麻海斗くんです。とりあえず1ヶ月騎士団うちで預かってます」


「冗談じゃあないのになぁー。・・ふぅーん、。こんにちはー、俺は店主のエリックでーす。よろしくねぇ海斗くーん」


「あっはい。志麻海斗です!よろしくお願いします!」


 掴みどころがないエリックに戸惑う海斗は、渡瀬に説明を求めた。


「この人はこんなですが、薬の腕確かです。品質・効能・品揃えどれをとっても、『モロノーフこの国』でここより秀でているところは恐らくありません」


「そんなにすごい人なんですね・・」


「いやーそれほどでもあるよねぇ。もっと褒めていいよー。カッコイイとか天才とか、俺褒められて伸びるタイプー」


「すごいのは腕ですけどね」


「ヒドイなぁ・・。それでー?今日は海斗くんの買い物かなー?」


「そうです。いつものお願いします」


「はいはーい」


 返事をしたエリックはカウンターの下から木でできた小物入れのような箱を取り出した。


「えーと、傷薬、解毒、火傷、解熱、鎮痛薬、頭痛薬、胃薬、塗り薬、虫除けっと。とりあえずこのくらいあればだいじょーぶかな?足りないものは買い足してねー」


 あっという間に最低限の薬を詰めて蓋をし、完成したメディカルボックスを海斗に渡した。

 大きさは海斗の両手のひらを合わせたくらいで、上に収納式の取っ手があり持ち運びに便利だ。


「特殊加工してあるからそう簡単には壊れないよー。遠征とか任務の時にもつかってねー」


「ありがとうございます」


「あと、これアリシアさんに渡してー。解毒と麻痺両方に効く新薬でーす」


「ありがとうございます。俺もこれ預かってきました。ノースヴェルダンに遠征に行った隊士が採ってきたものです」


 ロイが渡した麻袋の中には、北の町ノースヴェルダン周辺に自生する薬草が入っていた。


「うゎーありがとー。なかなか採りに行けないからたすかるー」


 エリックは嬉しそうに中を確認しながら、なにを作ろうかなと考えはじめた。


「この薬草はー、あれに使えるなー。これは新薬に使ってみよー」


「今のうちに出ますよ」


 薬草に夢中になっているエリックをそのままに、ロイたちは店を出た。

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