第13話 お金のお勉強は大事

 朝食を済ませて演習場へ向かうと、部隊長の3人が声をかけてきた。


「おはよう、海斗くん。よく眠れたかい?」


「おはようございます、ライアンさん。はい、ぐっすり眠れました」


「そりゃよかった。制服も似合ってるな」


「おはようございます、キッドさん。ありがとうございます」


「とりあえず今日は俺の隣に並んでください」


「おはようございます、ロイさん。はい、今日はよろしくお願いします」


 言われたとおりロイの隣に並んで立っていると、渡瀬がゼノンと一緒にやってきた。何かを話しているようだが、内容までは海斗にはわからなかった。

 渡瀬はそのままゼノンの後ろの方で朝礼が終わるのを待っていた。


「全員揃ったな。まず不寝番から何か報告はあるか?」


「はい!昨夜の見回りでは特に異常はありませんでした」


「ご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ。今日の見回りと門番は第3部隊だったな。第2部隊はここで実習訓練を。第1部隊は基礎トレーニングと契約獣や妖精たちとの『対話』を。不寝番の者は午後は休んで夜に備えておけ。ロイは海斗と出るから、第1部隊は俺がみる。以上だ、解散」


「「「「はい!」」」」


「ロイ、海斗のこと頼んだぞ」


 ゼノンがロイの頭を軽く2回叩くように撫でた。 


「はい。・・もう子供じゃないのでやめてください」


 口では拒否しながらもゼノンの手を受け入れるロイに、ゼノンは


「俺にとっちゃあお前たち皆んな子供みたいなもんだ」


 と優しく笑った。


「では海斗くん行きますよ。繋さんも来ますか?」


「えぇ、ご一緒させていただきます」


 3人で西門を出ると、まずセントラル広場に向かった。


「ここセントラル広場は王都の中央にあります。広場の北側に王宮、東側に学校や図書館、宿屋など、西側に『ラプレーサス』や市場、診療所、南側に居住区と商店などがあります。王都は一般的には『ロンド』と呼ばれてますが、王宮では『王都』と呼ばれます」


 噴水の前で王都の地図を見ながらロイの説明を聞き、とりあえず実際にひと通り見て回ることになった。


「まずは『ラプレーサス』に行きます。お金の引き出しもここでできます」


「志麻さんの換金したお金はそこに預けてあります。あっちの世界の口座みたいなものです。ピンズを持っている人は自動で登録されて、給与などもそこに入ります」


「そういえば、宿舎の家賃や食費はどうなりますか?」


「給与から引かれるので大丈夫です」


 ロイは中に入ると、昨日の受付を通り過ぎて奥にあるカウンターに向かった。そこには手のひらサイズの水晶玉と、同じくらいの大きさの四角い水晶が置いてあるだけで無人になっていた。


「四角い方にピンズを置いて、水晶玉に手を翳してみてください。ピンズの中の情報と海斗くんが同一人物かを確認します」



 海斗は左胸のピンズを外して置き、水晶玉に手を翳した。すると両方から黄色い光が溢れ出てきた。


「光が消えたら確認終了です。ピンズを取ると四角い水晶に預金額がでるので、引き出す時は『−』入れる時は『+』をタッチしてください。」


 海斗がピンズを取ると数字が浮かび上がってきた。


ー24RT 6RM 13RL 9RNー


「お金の単位がわからないんですけど・・」


「とりあえずそれぞれ1枚ずつ引き出しましょう。単位は違いますが考え方はあっちと変わらないので、私が説明します」


 渡瀬の言う通りそれぞれ1枚とタッチすると、水晶がカウンターの中に収まり代わりに引き出したお金が出てきた。それを手に取り、カウンターから離れたところにある談話スペースに移動した。


「『モロノーフこの世界』では3種の貨幣と1種の紙幣があります」


 テーブルの上に3枚の貨幣と1枚の紙幣が並べられ、1枚ずつ前に出しながら渡瀬は説明をはじめた。


「まず貨幣ですが銅貨、銀貨、金貨とあります。銅貨はリト、表記はRT、銀貨はリム、表記はRM、金貨はリラ、表記はRLです」


 3枚の貨幣は見慣れた円形ではなく、手のひらに収まる長方形をしていた。


「そしてこの紙幣はリン、表記はRNです。20RTで1RM、15RMで1RL、10RLで1RNになります。感覚としては、RTが10円、RMが100円、RLが1,000円、RNが10,000円だと思っていただけたらよいかと思います」


「なるほど、それならわかりやすいです」


「物価は『モロノーフこっち』の方が安いですが、それは街を歩きながら見ていきましょう」


「あと団長からコレを預かってきました」


 ロイが出したのは皮で作られた巾着袋だった。


「お金はこの中に入れておくといいかと。一般的には麻袋が主流ですが、皮や毛皮、ドラゴンの鱗などで作られたものもあります。値は張りますが」


 ゼノンから貰った皮袋は、光沢のある黒革で作られたものだった。何の皮なのか海斗には分からなかったが、それなりに上質なものだろうことは手に取ってみて分かった。


「こんな素敵なものをいただいていいんでしょうか」


「団長も海斗くんが可愛いんですよ。歳も息子さんと変わらないくらいですから」


「結婚されていたんですね」


「ゼノンさんの奥様は王宮医療班の第2部隊隊長をされていて、息子さんは騎士団の第2部隊に所属されてますよ」


 渡瀬の言葉に海斗は、きっと絵に描いたような温かい家庭なのだろうと、少し羨ましい気持ちになった。

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