第14話 ギャップっていいよね

 『ラプレーサス』を出て少し歩くと市場が見えてきた。野菜、果物、肉、魚、屋台などが並び、たくさんの人で賑わっていた。


 トマトみたいなトマラ、キャベツみたいなサラべ、じゃがいもみたいなポルト。渡瀬曰く、味は似たようなのもあればまったく違うものもあるようだ。


 昨日の夕食で食べたサマナは真鯛くらいの大きさで、目が小さく口が大きい真っ黒な魚だった。他の魚もなかなかインパクトある、見たことないものばかりだった。


「・・・食べられるんですよね、これ」


 思わず海斗がこぼすと


「もちろんです。見た目はこんなですが、例えばこのイバナムは鮪の大トロみたいな味でとても美味しいです」


 目の前の1メートル近くある魚を指して渡瀬は答えた。


「お肉も見慣れないと思いますが、このタカブは豚肉、チャンボは鶏肉など味は似たようなものも多いです。たまに予想外の味のものもありますけどね」


「結局は食べてみないとわからないですよね」


「食堂のメニューは週替わりだからいろいろな食材が食べれます。味にハズレはないからいろいろ食べてみたらいいですよ」


「俺はチャンボの唐揚げが好きだ」と、海斗にチャンボを見せながら話すロイに、昨日の取っ付きにくい印象はなかった。朝礼前に他の部隊長と話した時もそうだったから、気のせいではないだろうと海斗は思い切って聞いてみた。


「あの、ロイさん昨日と何となく印象が変わった感じが・・・いやっ悪い方ではないんです!なんだか雰囲気が柔らかくなったというか、久しぶりに会った親戚のお兄ちゃんみたいな。決して昨日の印象が悪かった訳ではないです!なんかすみません!!」


 途中から自分でも何を言ってるのかわからなくなって、何故か頭を下げて謝る海斗。


「・・・・。っくっくっく、あっはははっ」


 それを見たロイは口元に手を当て、体をくの字に曲げて笑い出した。


「・・っは!?えっ!?ロイさん!?」


 急に笑い出したロイとあたふたする海斗、ただ静観する渡瀬という滅茶苦茶な絵がここに出来上がった。


「はぁー、海斗くんって嘘つけないタイプですよね」


 目尻に溜まった涙を拭いながら、ロイは海斗の肩をポンポンと叩いた。


「えっ?そんなことないと思うんですけど」


「志麻さんは顔に出ちゃいそうですよね」


「そうそう。素直だからすぐにバレちゃうタイプ」


 何故か楽しそうに話す2人。


「あのー・・」


「あぁすみません。俺は基本的に団長の前では、常に冷静でいることを心がけています」


「ロイさんはゼノンさんのこと、本当に大好きで尊敬されているんです。ただ気持ちが大きすぎて制御してないと暴走します」


「暴走?」


「四六時中べったり張り付いてます。誰かがゼノンさんに話しかけると威嚇して近づけさせないんです」


「なにそれ、少し前に流行ったギャップ萌えってやつですか!?」


 ロイの意外すぎる一面に海斗は思わず大きな声を出した。


「ギャップなんとかってのは知らないけど、仕事にならないって団長に怒られてからは、冷静にいるよう心がけてます」


「そうだったんですね。よかったです。ビックリしましたけど、ロイさんの事が知れて」


「・・海斗くんには不思議な魅力がありますね」


 ロイはいつの間にか海斗の人柄に惹かれていた。ゼノンとは違う、人を惹きつける何かが海斗にはあるのかもしれないとロイは感じていた。


「さて志麻さん。市場の商品の値段を見てください」


 八百屋のトマラは1個4RT、ポルトは1個1RT。魚屋のサマナは1尾で1RM 15RT、イバナムは2RL10RM8RT、チャンボは1羽で8RM10RT。


「確かに半分近く安いかも。そう考えると、俺の預金額まあまああるな」


 海斗は先ほどの自分の預金額を思い出して呟いた。


「市場の奥には街の診療所があります。俺たち騎士団や王宮内で働く者は医療班が診てくれるから、何かあったらそちらへ行ってください。その時は団長に報告も忘れずに」


「わかりました」


「では居住区の方へ行きましょうか。服も買わなきゃですし、剣も必要でしょうから」


 王都の南側へ移動すると、花屋や武器屋、服屋、雑貨屋など様々な商店が並んでいた。


「まずは服を買いに行きましょうか」


 目に入ったお店に入ると中には様々な種類の服が飾られていた。


 『ラプレーサス』で見たチュニックやトーガの他に浴衣やチャイナ服などもあるが、普通にシャツやジャケット、パンツやワンピースも並んでいた。


「とりあえず気になるのを着てみてサイズが合うかですね。サイズがわかればあとは買うだけだから、海斗くん好きに選んでください。俺たちは適当に見てるから」


 ロイと渡瀬はそれぞれ店内を見始めた。


「よかった、見慣れた服もあって。まずはシャツとパンツのサイズか」


 海斗は手に取った2着を持ち試着室に向かった。結果ちょうど良いサイズだったため、シャツとパンツを5着ずつとジャケットを2着、あとは下着や靴なども購入した。


 会計時にロイが無言で浴衣と草履を渡してきたのには驚いたが、海斗も無言で受け取り購入した。

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