第12話 団長はやっぱり慕われている

「まず、騎士団は大きく分けて3つの部隊に分かれている。第1部隊から第3部隊まで、それぞれレベルや年齢に偏りがないよう振り分けられている。その部隊長を任せているのがこの3人だ」


 目の前に座る3人に目を向けると、先ほど案内をしてくれたロイがいた。確か第1部隊隊長と言っていたな、と海斗は少し前のやり取りを思い出していた。


「第1部隊隊長のロイ・マーティンです。他に書類関係を主に担っています」


 制服をキチッと着こなしどこか取っ付きにくそうな印象のロイに、海斗は少し苦手意識を持った。


「俺は第2部隊隊長のキッド・ブランシェットだ。実技指導も担当している」


 短髪で深紅の髪色をしたキッドは他の2人よりも背が高く、座っていても頭1つ飛び出ていた。歳は30前後くらいで、鍛えられた体は制服の上からでもわかるほどだ。


「第3部隊隊長のライアン・フローレスです。魔獣のことや契約の仕方などを教えています」


 肩まである黒髪を後ろでひとつに結んだライアンは、左眼にモノクルを装着していた。歳はキッドと同じくらいにみえるが、話し方や優しく微笑む姿は落ち着いた印象を与えた。


「基本は俺とこの3人で海斗のサポートをする。俺がいない時は3人の誰かと一緒に行動してもらう」 


「はい、よろしくお願いします」


 海斗は少し緊張した様子で3人に頭を下げた。


「そんなに緊張するな。明日はロイと一緒に必要なものを買い出しに行ってこい。ついでに街を見てくるといい」


「はい。ロイさん、お願いします」


「あぁ、朝礼の後そのまま行くから準備しておいてください」


「わかりました」


「よし、今日はこの辺にしておくか。いっぺんに話しても混乱するだろ。少しずつ覚えていけばいい」


「ありがとうございます。正直いろいろありすぎてショートしそうです(苦笑)」


「風呂入ってゆっくり休め。朝礼は8時からさっきの演習場だ。それまでに朝飯を済ませて、この制服着て来い」


 ゼノンは綺麗に畳まれた制服を海斗に渡した。青と白を基調とした制服だ。部隊長の3人はその上に白色のコート、ゼノンは黒色のコートを羽織っている。


「ブーツは部屋に用意してある。じゃあ明日な」


 海斗の頭をグシャっと撫でて、ゼノンは食器を片付けに向かった。


「頭撫でるの好きなんですか?ゼノンさん」


 今日だけで何回撫でられただろうか。


「あの人なりのコミュニケーションの一種みたいなものです」


 海斗の疑問にライアンが答えた。


「俺たちも今だにされるしな」


「まぁたまに力加減を間違えて首痛めたりしますけどね」


 キッドとロイもそれに続いて話に加わる。


「そうなんですね。団長ってもっと怖くて厳しい人のイメージでした」


「もちろん間違ってたら怒りますし、厳しく指導することもあります。ただその分、褒めるところはしっかり褒めてくださいます」


「だから俺たちは団長を心の底から尊敬しているし、信頼もしている」


「まぁ、もう少し報告書を真面目に書いてほしいですけどね」


 ゼノンのことを話す3人の顔は、国王の話をしていた時のゼノンのそれと同じものだった。


 部屋に戻った海斗はすぐにお風呂に入り寝る準備をした。有難いことにシャンプーなど一式全て揃っており、新しい下着も制服の間に挟まっていたため困ることはなかった。きっとゼノンが用意してくれたのだろう。


「っはぁ〜〜。づがれたぁ〜」


 ベッドに倒れ込むように横になった海斗は、濃すぎる1日を改めて振り返った。


「異世界、なんだよな。とりあえず1ヶ月って言ってたけど、大丈夫かな俺」


 何も知らない世界、魔獣が存在する世界。そんな世界で生きていけるだろうか。もし異世界こっちで死んだらどうなるのか。向こうの自分はどうなっているのか。


 いろいろなことを考えてみたが、考えたところで何も変わらない。せっかく志麻家じぶんのことを知らない世界に渡ってきたのだから、今まで出来なかったこと、やりたいことをしよう。


 そう結論づけて海斗は深い眠りについた。

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